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マイスターへの道 分かったつもり、出来るだろうを排除する

今年度も国交相の若手大工不足問題への取り組み、若手大工育成塾の事業がスタートしました。昨年までに引き続き、私と関西の断熱気密設計施工のカリスマ、有限会社ダイシンビルド清水社長の同い年、中卒経営者コンビで半年間12回の実践研修の講師を務めます。今日はその第一回目の開講日で株式会社四方継の本社3階のセミナー室で講義、テラスでカレーランチ、そして作業場で伝統工法の四方蟻継の墨付けと刻みのWSを行いました。

とにかく大事なのは在り方と方向性

この国費を投入しての研修事業は大工に入職して3年までの若手のみが参加出来る設定となっており、昨年のメンバーとはほぼ入れ替わりました。ついこの前の3月まで学生だった若者が大半を占めます。入職間もない時点で研修に参加する事でこれからの新しい時代の大工として、職人としての在り方、将来に対する方向性を明確に示される機会を持てるのは非常に大きな意味を持っており、職人育成の世界でありがちな、見習い職人はとにかく現場に放り込んで、まずは先輩のやっている事をみて技術を身につけろ。という教育という概念の欠片も無い向き合い方ではなく、まずは社会人として大事な基礎力、マナーやコミュニケーション、人としての在り方、何の為に大工の仕事をするのか?との目的意識を明確にする人間力を高める在り方中心の実践研修を行っています。

脱作業員、マイスターへの入り口

また、せっかく若くして現場のスペシャリストになる道を目指した以上、指示された作業をこなす単なる作業員ではなく、自らの頭で考え、判断し、周りの職人も、自分自身もマネジメントできるマイスター(棟梁)的な職人に成長してもらいたいと伝えました。そんな納得し生きがいを持てる働き方を実現してもらいたいとの思いから、大工としての技能を身につける実技の研修においては、座学で理論や具体的な方法を伝え、理解できたかを確認した上で、現場では自分等で段取りと工程、役割をタイムスケジュールを考えて作業を進めてもらいます。若手の大工たちは普段、指示された通りの作業を行うのみで、長年そんな働き方に慣れてしまうとその楽さが中毒症状を起こすかのように自分で考えなくなってしまいます。一生、作業員として、価値を認められない道具のような職人になってしまいます。

職人は道具じゃない

道具のように都合よくこき使われて、加齢とともに作業のパフォーマンスが落ちると、見習い職人の頃の給与に戻っていき、挙句、ポイ捨てされる。そんな職人の働き方が残念ながら今の建築業界ではスタンダードになってしまっています。これが、深刻な職人不足を巻き起こした原因であることは業界の人は皆気づいているのですが、職人に対して手厚い社会保障やキャリアパスを供するのは、経営側からすれば非常に直接的に分かりやすい利益の相反になります。例えば、5〜6人の大工を外注扱いで常時雇用してしている工務店がその職人たちを正社員化するだけで年間1000万円程度の経費が多くかかります。10年で1億円の利益を飛ばしてしまう選択ができる工務店経営者は殆どいないのが現実で、最近の住宅業界の経営環境が厳しさを増し、10年来の需要の低迷が更新される中、更に経費、固定費を抑えたいと考える経営者が増えています。これでは職人不足問題の解消どころか、これから更に加速していく傾向にあるのです。

職人の働き方革命は主体性と認知変容から

職人がいなければ、建築業は成り立たない、職人育成に踏み込めば経営を圧迫する。このパラドックスとも言える非常に解決困難な問題を紐解く鍵は職人が生み出す価値を高め、職人の働き方そのものを変容させるしかありません。職人を守るには、職人自体が守られるべき人材になるしかないのです。私たちが行う研修はそんな新しい時代に適応する職人への道を示すことに重点を置いて主体性を育むことを最重要と位置付けています。
今回、開講時に塾生達に厳しく、繰り返し伝えたのは、分かったつもり、出来るだろうと言う曖昧な認知をまず捨てること。完全に分かる、頭の中で詳細なイメージを作れるところまで自分自身で確認を繰り返し、曖昧な部分は素直に教えを乞う、やってみなければ分からないとの責任を負えない姿勢ではなく、簡単なことから順番に、確実に責任を果たせるスキルを積み重ねろと叱咤激励をしておきました。
これからの半年間で初めて自分たちで考え、組み立てる作業を通して、分かったつもり、出来るだろうが上手くいかない壁を何度も乗り越えて大きな成長を遂げてくれるのを強く願いつつ、楽しみにしています。

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職人育成の高校を通して、日本に本物のキャリア教育の文化を根付かせます。


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