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悪党の志 〜楠木正成公に学ぶミッション、ヴィジョン、バリュー〜

先日、SNS上で知り合いの起業して間もない若い経営者が「自社のミッションとビジョン、そしてバリューについて言語化して定めたいのでアドバイスをもらえませんかー」と書き込まれていました。若かりし頃、私もそこでずいぶん悩んでいたなー、と思い出して「私で良ければお手伝いします!」と即書き込みました。私の他にも数名の仲間が名乗りをあげられ、そんな流れで、夜遅くにオンラインでmtgを開こうということになりました。

経営実践研究会第4期ベーシックスクール同期の会

経営者の最低限の資質

事業を立ち上げる、もしくは行うにあたってミッション、ビジョン、バリューを明確にしておくと言うのはとても大切なことだと思います。私の場合、大工の職人のまま勢いで独立起業したのでそんな事は一切考えないまま、ただ目の前のことを精一杯やって売り上げを作る、スタッフを不安にさせないように先々の仕事をいかに詰め込むかだけを考えていました。ただ、ひとつだけ明確だったのは「職人の社会的地位向上を果たす会社を作ろう」と自助の精神に近い志を持っていたことでした。私は中卒で学もなく、経営の「け」の字も知らないまま事業をスタートしましたが、目の前の課題を1つずつ片付けていく中で、根本的な問題解決の必要性を感じて少しずつ経営の勉強を始めて、持続的に事業を経営するにはミッションやビジョン、バリューを明らかにしなければならないと考えるようになりました。そして、学びを重ねる中でその程度の理論構築が出来るのは経営者としての最低限の資質だと気付かされました。起業当時の私から比べると、創業したてでそこにまず手をつけようとされる若手経営者は本当にすばらしいと思います。それだけで既に尊敬に値します。

ミッション、ビジョン、バリューの定義と関係性

オンラインミーティングが始まって、今回、相談された経営者から上述の3つの命題についての話を聞く中でとても気になったのはその定義とそれぞれの関係性です。横文字の概念は日本語にすると解釈が人によってそれぞれ違ったり、あやふやになることもあり、はじめに確かめて見ました。その彼の定義は、ミッションとはビジョンを実現するために具体的に足元で行うこと、ビジョンは将来のあるべき姿、バリューは顧客への提供価値とのイメージを持たれているとの事でした。「あ、ミッションはミッションインポッシブルのやつね、」と遂行すべきタスクに近しいのか、と私のイメージとの違いを伝えました。バリューについては事業を通して生み出される顧客価値と訳されることがこれまで多かったのですが、共感資本社会への意向が進む今、企業が生み出す社会的価値に変化しつつあると思っています。彼が話された定義は決して間違いではありませんし、目指す方向とやるべき事を具体的にするのは素晴らしい事です。ただ、ミッションを直訳すると「使命」との意味合いが強いこともあり、事業を立ち上げる際に固めるべきは、自分が社会に対してやるべきこと、志ではないかと進言しました。

吉田松陰記念館

志とはモチベーションの根源

思考は現実化する。とはナポレオンヒルの有名な成功哲学ですが、思考をしなければ何も現実にならないのは実際だと思っています。そう考えれば、今の世の中に存在する問題や課題に対して憤りを持ち、それを解決するのだと思考する=志を立てることこそ、事業と社会性を融合し、大きな存在意義を発揮できるロジックになるのではないかと思います。世の中を良くしたい、世界平和を実現したいと高い理想を掲げるのは決して悪いことではありませんが、自分自身の実体験に基づく憤りや自分が生きにくさを感じる社会に存在する齟齬を解決して、自分だからこそできること、自分しかできないことを見つけ出すのがモチベーションの根源となる志を立てる大きな要因だと思います。そうやって立てた志に対して人は実現するまであくなき挑戦を継続することができるし、そんな強い想いはきっと現実化すると思うのです。

青年よ大志を抱け

また、私の経験則を元に提案したのは、志は大きければ大きいほど良いと言うことです。20数年前、私が大工3人で起業した際、職人の地位向上を志に掲げ、それを胸に刻み込んで事業を続けてきた結果、同業他社でほとんど行われていない職人の正規雇用や人事制度の整備、現場実務者の人材育成を起点にしたマーケティングの組み立てと自社の独自性と地域密着企業としての存在意義を確立してきました。おかげで10年以上も一切の宣伝広告を行わずリピート顧客と紹介で売り上げを作ってこれました。そして、自社で行った実証結果をもとに今では全国で職人育成に取り組む企業向けに研修を行ったり、人事制度の見直し等のサポートを行っています。その取り組みは職人の地位向上を果たしたとまではまだまだ行きませんが、それでも職人の新たなキャリアの創出とその普及の可能性が見えてきています。志を実現すべく、これからの10年で何とか業界のスタンダードを変えたいと思っています。「青年よ大志を抱け」と有名な言葉がありますが、はじめに立てる志が大きければ大きいほど、やりがいと生きがいを持って仕事に向き合えるのではないかと思うのです。

北方謙三著 楠木正成

志を学ぶのに必読の書

そんな、ミッション、使命、志の話を一通りした後に、その辺の概念を学べる書籍は何かありませんか?との質問を受けました。志に生きた歴史上の人物の伝記ものをいくつかご紹介しましたが、その中でも真っ先に私が読んでみるべきだとお伝えしたのはハードボイルド作家としておっさんに絶大な人気を誇る北方謙三氏の著書「楠木正成」です。楠木正成公は神戸では湊川神社に楠公さんとして祀られている非常に親しみのある人物ですが、戦国時代や明治維新の時代を大きく動かした武将や志士に比べてあまり有名ではありません。しかし、日本の歴史上最も優れた武将との呼び声も高く、軍神とも称されます。また、北条氏による執権政治で世が乱れた鎌倉時代末期から室町時代、南北朝時代への転換のきっかけを作った歴史上の重要な役割を果たした人物で、実は明治維新の倒幕、尊王攘夷運動でも大きな影響力を及ぼした日本屈指の英雄です。

悪党の志に学ぶ

私が楠木正成の人生を間接体験として小説で読んで最も感銘を受けたのは、彼の出自が鎌倉幕府の枠組みの中に組み込まれていない悪党だったことです。悪党とは、一般的には悪事を働く人の集団と定義されていると思われていますが、違う意味合いがあり、後醍醐天皇の鎌倉幕府倒幕の原動力となった武家では無い市井で商いをしながら力をつけた実力者のことも指します。楠木正成公はまさに悪党を自認しており、武家政治(=暴力で民を押さえつけ、厳しい搾取を行う特権階級による政治)の世の中を正そうと人生を志に使った人であり、武士のように武力と搾取だけではなく、人間関係や公平な取引、地域の振興などを実践し力を蓄え、世の中を変えるのに大きな役割を果たしました。封建制度ではなく法治国家である現代において、楠木正成公の経済的な観点と世の中を良くする志、そしてそれを実現する大局を見据えた綿密な計画立案は現在の私たちに大きな示唆を与えてくれます。特に、既得権益の枠組みに組み込まれていない起業家や地域事業に取り組む経営者にとっては楠木正成公の人生を間接体験してみるのはとても重要だと思っている次第です。強くご一読をお勧めします。志を立てる参考になると思います。

悪党
鎌倉中・末期から南北朝内乱期にかけて、反幕府、反荘園体制的行動をとった在地領主、新興商人、有力農民らの集団をいう。悪党は、山賊、海賊とともに、鎌倉幕府から鎮圧の対象とされた。悪党は、(1)荘園領主による代官職の否認、(2)得宗(北条)政権による御家人所領(地頭職)の否定、(3)得宗政権の経済政策(港湾・都市など独占)の強行、(4)支配下農民との矛盾対立、(5)蒙古襲来を契機とする社会経済情勢の急激な変化、などを要因として発生した。彼らは、悪党張本を中心に、一族、下人、所従など血縁関係者を集め、さらに近隣の在地領主層と連携して、当該地域における分業、流通の支配を目ざし、数百人に及ぶ傭兵を組織することもあった。

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