今こそ若者に伝えたい、職人と言う生き方とその可能性
私は神戸でつむぎ建築舎と言う自社大工によるものづくりの事業を営んでいます。事業の主体がものづくりですから、その評価は現場で作り上げたものにしかありません。元大工である私としては、現場で作り手がいかに魂を込めたものづくりをするかどうかに事業所の存在意義もその評価もかかっていると思っていて、創業以来大工の育成、人作りに注力してきました。2年前のリブランディング、事業形態を再構築した際のコンセプトは、大工主体の工務店の強みを最大限に生かして、設計段階から作り手である大工が関わり、暮らしやすさだけではなく外観も内装もこだわりのあるオーダーメイド住宅を提供すると言うことでした。この度、そんな私の夢がひとつ叶いました。それは大工が自らデザインをしてディティールに魂を込め、自分と家族が住む家を自分の手で建てること。実は、一般的に今の大工職人は下請け、孫請けの個人事業主として働いている人がほとんどで自分の家を自分で建てる事は皆無になっており、賃貸住宅に住んだり、建て売りを購入したりしてしまっています。他人様の家を建てるのに自分の家のように丁寧に心を配り、魂を込めるには自分の家を建てる経験が絶対に必要だと思っていて、私が元請けの正社員大工としての雇用を守り続けている1つの理由は大工に自分の家を建ててもらいたいからです。
夢が叶う瞬間
株式会社四方継 つむぎ建築舎に入社してそろそろ社歴が15年になる大工の大ちゃんは全くの未経験で見習い大工として入社してきました。先輩たちに厳しく鍛えられ、入社後10年になる前には遠方の現場に1人で出張をして店舗工事を大工としての作業とともに施工管理者としてまとめ上げるほどに成長しました。また、担当した店舗のデザインもオーナー様と話し合い、自らが使う素材やディティールを決めるなど、幅広い活躍をしてくれるようになりました。大工見習いとして入社後10年位で設計の勉強もスタートし、2級建築士の資格を取得し、現場での知見を併せ持った設計者としても活躍し始めています。そんな大工の大ちゃんがこの度、自邸を自ら設計し、自らが棟梁として施工した家がもうすぐ完成します。9割がた出来上がったと聞いて、先日、彼の自慢の自邸を見に行ってきました。初めて現場に行って見たその建物は、シンプルな構造、高い断熱気密性能、木をふんだんに使った内装デザインとメリハリをつけたコストコントロール、職人だからこそ出来る数々のディティールへのこだわり、事業所内のプロダクト担当としての面目躍如となるとても良く考えられた建物になっていました。彼の夢が叶う瞬間がすぐそこまで来ているとともに、私はこのために職人の育成をこれまでしてきたのだと実感し、深い感慨を持たずにはいられませんでした。
職人がいなくなった原因
この30年来、職人になりたいと言う若者は激減し続けています。今では20歳以下の大工職人は全国で2000名を切っていると言われるほど、職人は絶滅危惧種と言っても過言でない状況になってしまっています。しかし、そんな状況だからこそ、あえて私は今、若者に職人を目指す事を強く勧めます。
これまでの建築業界では、職人を道具のように扱って必要な時にだけ雇用し、現場が減れば手放せるように正規雇用を止めてきました。当然、社会保険や厚生年金、現在義務化になっている有給消化なども職人には与えられず、社会保障もない未来の見えない職業として認知されてしまっています。その弊害が圧倒的な職人不足として顕在化しているのが現在です。
職人の知的労働者へのシフト
しかし、職人なくして建築業の売り上げ無し。職人育成なくして品質の高いものづくり無し。法隆寺が建立された古からものづくりは人づくりであり、その本質を今、業界全体で見直さなければならないところに来ています。5年前から私が一般社団法人職人起業塾の活動で全国を回り、職人の正規雇用と育成、そしてキャリアプランの策定を訴えてきたのが、ようやく少しずつ理解されるようになり、建築事業者が職人の育成にようやく興味を持つようになり始めました。私が推し進める職人育成とは、大工の大ちゃんのように単なる指示された通りの作業を行う作業員ではなく、現場で身に付け、蓄積した知見をもとに施工管理や設計デザインなど幅広い活躍が出来る知的労働者への転換です。ものづくりの本質は現場にあり、その現場を深く知る者だけが本当に魂を込めた良いものづくりができると言うのが私の信条です。情報革命が進み、あらゆる欺瞞や嘘、表面的な取り繕い、偽物、フェイクが白日のもとに晒される今の時代、本質的な価値を生み出す職人の時代がやってくると思うのです。学歴社会とは違うレイヤーで大きな活躍ができる職人への道、そんな生き方が出来ることを今こそ若者達に伝え導きたいと思うのです。
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