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小さな工務店が取り組む理想の組織への挑戦② 〜自己実現の場づくり〜

昨日、アクティブブレインセミナーの澤村講師から特別オファーをいただいて、職人起業塾の卒塾生向けに資格取得のための記憶法のウェブセミナーに参加してみました。私が、100個の単語を一瞬にして覚えられる記憶術を体得したのはかれこれ10年位前になりますが、その応用で難解な法律問題も軽く回答できるようになる方法を教えてもらえました。職人の(技術的職能ではなく)役割を増やす事で多能工化を推奨する私にとってこれ以上ない素晴らしいオファーをいただけたことに心から感謝します。これから塾生に強く勧めたいと思います。

私は地域の小さな工務店を経営しており、住宅事業に関わっております。ものづくり事業は人づくりと一体であり、創業から20年間、大工と設計士の内製化に取り組んできた社内向けの教育、組織づくりの延長線上で、現在、一般社団法人職人起業塾で全国の建築実務者向けの研修を行い、人づくりのサポートをしています。その目的として、ものづくり企業に理想の組織を実現してもらいたいとの思いが根底にあります。昨日に引き続き私が考え、リアルに取り組んでいる理想の組織論の其ノ弐を以下に記します。あくまで私見の域を出ませんが、少しでも参考にして頂ければ幸いです。

理想の組織5つの条件
①組織の存在価値が認められ、自社独自の市場(マーケット)を持ち外部環境に左右されずに経営が持続できる。
②組織に在籍しているメンバーがやりがいと満足を感じそこで働くことが自己実現の場になっている。
③組織の存在目的がメンバー間で共有され、その実現のために全員一丸となって事業を行っている。
④管理命令型の属人的なリーダーシップで組織が成り立つのではなく、メンバー間での合意形成で組織が運営されていく。
⑤メンバーの成長と新陳代謝が滞りなく起こり世代を超えて事業が継続されていく。

寝言になりがちな理想論

「道徳なき経済は罪であり、経済なき道徳は寝言である」との至言を遺されたのは二宮金次郎像で有名な二宮尊徳先生。昨日のnoteでは理想の組織が寝言にならないように、まず理想や理念の実現に不可欠な経済(マーケティング)の側面からのロジックを書きました。今日はその収益的な側面を自立循環的に維持できるための、人材育成について書き進めたいと思います。
10年ほど前までは、付加価値を生み出すロジックとしてCS (顧客満足度)が最優先と言う風潮がありました。しかし近年ではCSとES (従業員満足度)は両輪であり、両立させてこそ組織は機能すると言われるようになっています。現在の価値観では至極当然ではありますが、ユーザーの価値観の多様性が進むのと歩みを合わせるように組織内でも価値観の多様性を認める風潮が進んだのと同時に、ボトムアップの必要が見直され、昭和時代のフラグシップモデルであるトップダウン式管理型の組織が限界を感じさせるようになったのではないかと思っています。ESの向上は企業の民主化の意味合いもありますが、CSを勝ち取り、付加価値を生み出すための非常に現実的な理論構築であり、ビジネスモデルの原理原則への回帰の側面があると理解しています。

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手段化してしまった理念

「企業は人なり」とは手垢がつきすぎたと感じるほどよく耳にする概念ですが、顧客接点こそが企業価値の発現の場と考えれば、時代を超えた真理だと思っています。経営者がいくら綺麗事を並べて、高潔な理念を額に飾って掲げたところで実際の実務に携わる従業員がそれを理解せず、目先の利益や自己中心的な損得勘定で物事を判断すれば。その企業全体の信頼は失われ、事業を存続することさえ危ぶまれます。かといって、判断のすべてを顧客接点の実務者に任せることなく、経営者がすべてコントロールしていては個人事業の域を脱することができません。企業が個人事業を抜け出す程度、スケールするには経営者が在り方を正し、信頼されるに値する判断を下し続けるのは当然ですが、その同じ基準を顧客接点を担当する実務者が共有する必要があります。これがいわゆる理念経営の基本的な考え方です。しかし、近年、その理念経営で掲げる事業の目的自体が従業員に対する行動の制限、もしくは強制になり、理念の手段化に陥っているのではないかとの疑問が呈されるようになりました。大凡の企業では理念の策定を経営者が行い、創業の精神なる創始者の想いがそのまま理念になって残っていたりします。それが全て悪いとは一概には言えませんが、それが本当に従業員全員が働く目的として腹落ちして、日々忙しい業務をこなしながら常に判断の基準として持ち続けていられるかと問われれば、社歴を重ね、人数が増える程、難しいのが現実だと思います。「企業は人なり」の人が経営者なりになってしまっては組織は一向に成熟することはないと思うのです。

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理想の働く環境とは?

私は昨年の年初に創業20周年を迎えるのを機に、社名変更と組織変更を行うのと同時に、新規事業を立ち上げ、事業所のドメインを変える覚悟を持ってリブランディングに取り組みました。今流行りの事業再構築です。その準備として、一昨年は1年間かけて毎月スタッフと話し合い、改めてどのような仕事がしたいか、気分良く働ける環境とはそのような状態かについて繰り返しヒアリングを行いました。その結果明らかになったのは、専門職としての知識や技能を存分に活用したい、そして、信頼関係で結ばれた顧客とお互いを尊重し合いながら仕事がしたい。とのことでした。その意見を尊重して、建築需要が顕在化する前の段階から地域の人との良好な関係を構築できるように、「つない堂」なる地域コミュニティーサービスを立ち上げると同時に、経営理念も「ひと、まち、暮らし、文化を継ぎ四方良しの世界を実現する」と改めました。スタッフが求める働く環境を一言で言い表すと、仕事を通して顧客に貢献すると共に自己実現をしたいということなのかと私は理解して、できる限り、やりたい仕事をできる環境を整えたいと思ったものです。もちろん、収入が増えることやしっかりと休日が取れてプライベートを充実させる時間的な余裕も必要ですし、その部分は組織運営をするにあたってまずは担保しなければならない部分ですが、同時に、人生の最も良い時期に多くの時間を使う仕事でやりがいを感じられる環境づくりは非常に重要だと思うのです。

やりがい、満足、自己実現。

今日の記事のテーマである理想の組織の5箇条の二番目「組織に在籍しているメンバーがやりがいと満足を感じそこで働くことが自己実現の場になっている。」という状態は、言葉で書くと陳腐なくらいに当たり前の環境整備のように思えますが、その実態は、単純に労働環境を整えるだけにとどまらず、顧客接点の導入から見直す必要があったり、従業員が持ているスキルを存分に発揮できるステージを作ること、それに伴う権限委譲と従業員が担う役割と責任に応じた昇給制度、キャリアパス等の人事制度の整備までが複雑に絡み合う、一筋縄では片付かない非常に難解な課題を多く内包しています。働くこと自体、楽しいことばかりではなく、時には辛いことや苦しいこともあるのは致し方なく、それを全て無くすのを目指すのではなく、その様なキツい場面も乗り越えられるモチベーションの源泉、「やりがいと満足」を感じられる環境を整えることの方が現実的であり、また組織構成の本質ではないかと思っています。そして困難を乗り越えて達成感を覚えることができて、それを繰り返すことができれば、成功体験とともに大きな喜びが伴うと自分自身の経験則からもイメージすることができます。それが直接、自己実現につながるとは限りませんが、自分自身と組織の存在価値を強く感じられるようになることは組織の在り方として必要不可欠なファクターだと思うのです。とにかく、そこで働く人の喜びを作ることが出来なければ理想の組織と呼ぶことはできないと思うのです。

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