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児童養護施設への支援を経済合理性限界の外から事業性の範囲に引き込む方法

日本に本物のキャリア教育を根付かせることを目的に掲げた一般社団法人マイスター育成協会で運営している高校、マイスター高等学院では高校生活の3年間、志を立てる人間力を高める教育と、実際の現場で先輩から仕事を教わるOJT研修が中心のカリキュラムになっています。これまでの高校にはなかった、お給料を受け取りながらカリキュラムを進められるのは、親御さんの教育費の負担を無くすのは勿論ですが、親のいない、もしくは親の保護下にない子供達にも広く門戸を開くことになります。
この度、マイスター高等学院大阪校の校長でもある副理事長、ダイシンビルド清水社長から児童養護施設とのタイアップをしたいとの話があり、私もマイスター高等学校の内容説明に同行させて頂きました。

人情の街の施設

今回訪問した児童養護施設は大阪、天王寺。新世界のすぐ近くのお寺の敷地に建っていました。天王寺界隈は今ではすっかり大阪の観光名所の一つに数えられ、二度づけ禁止の串カツを食しに外国人観光客も多く訪れる場所ですが、すぐ隣はあいりん地区で有名な西成区があり、飛田新地などの昔から今に伝わる風俗街が近隣にあるディープな場所です。子供の教育上、あまり宜しくないと思われそうですが、下町特有の人情や風情が今も残っており、助け合う文化があるからこそ、この地に子供達を守り、育てる施設が作られているのかも知れないと勝手に納得してしまいました。昭和育ちの私にとっては少し懐かしい匂いのする、馴染める空気がありましたので、子供達ともきっと違和感なく接することができるのだと思います。

子供達に一切の罪も責も無い

児童養護施設にはそれぞれの事情で親と別れてしまい、同居することが出来ない子供達が共同生活を送っています。生まれ育った家での生活、家庭的養護ではなく、社会的養護を受けて施設で暮らす子供達が施設に入所する理由は様々ですが、近年は虐待児童の件数が大幅な増加傾向にあり、大きな社会課題として取り上げられるようになっています。とにかく、子供達には何の罪も無いにも関わらず、一般家庭とは違う環境で暮らすことを余儀なくされています。
児童養護施設では基本的に高校卒業の年齢、18歳までは施設に住まい、生活出来るように法律で定められています。そして高校を卒業して70%以上の児童は進学せず、就職と同時に社会に飛び立っていきます。

社会へソフトランディング出来る高校

施設を退所した殆どの若者は就職し、一人暮らしを始めると言いますが、社会生活に順調に馴染み、キャリアを積み重ねて自立出来る人はそんなに多くなく、退所者の約一割が生活保護を受けているとのデーターも有りますし、新卒で就職してからの離職率も高い様です。帰る家が無い孤独に挫ける若者も少なからずいるとのことです。特殊な家庭事情で社会的養護を受けている施設出身者が、社会に溶け込み、定着し、自立するには、1番初めの就職が非常に重要で、高校生の間にある程度、企業に馴染んで、ソフトランディングするとともに一人暮らしが十分にできる経済性を担保する必要があります。これらの条件を鑑みると、高校生のうちから給料がもらえ、見習いを卒業して職人として就職できるマイスター高等学院と、児童養護施設との相性は非常に良いように感じました。

漢気の提案

上述の様な説明をすると、我々の取り組みが、養護施設に暮らす子供達が社会に出ていくにあたって、非常に安心できる環境を提供している事を施設の職員さん達もご理解いただいたようで、非常に乗り気になってくれていました。とは言え、職人の仕事に対して全くなじみがないことに危惧を持っておられるようだったので、インターンシップとその前に体験授業に施設に来る事を提案したところ、ぜひお願いしたいとの事でした。その後、施設内を案内してもらった際に、実は、と相談されたのは、廊下の一角に棚と壁を作りたいけど、自分たちで作れずに困っているとの事でした。同行していた清水社長が、「私達が出張事業の一環でDIYで棚とか壁を作るワークショップをやりましょうか。」と即座に提案されて、職員さん達は飛び上がって喜んでおられました。

採用コストを施設の支援に転換

現在の建築業界では、圧倒的な人材不足が顕在化しており、今後採用と育成に力を入れなければ、事業の存続自体が叶わなくなります。そして、採用には結構なコストがかかるもの。すっかり不人気業種として定着した建築関係の事業所は、尚更一般の業種に比べて採用に多くのコストをかける必要に迫られてきます。そのように考えると、施設の子供達と定期的にものづくりのワークショップを行いながら、施設内の困り事を解決する取り組みを継続すれば、その会社のことを深く理解し、一緒に働きたいと思ってくれる若者たちの採用が自然にできるようになるのは想像に難く有りません。
広告代理店のような採用サポートのマッチング会社に無駄な費用をかける位なら、地域で恵まれない暮らしをしている子供たちに実業で貢献しながら、仕事を知ってもらい、若者たちとのご縁を紡ぐ方が、よっぽど経済的な合理性も高くなります。

未来創造企業にしか就職出来ない

ただ、問題は建築業の事業所がブラックでグレーな業態だと思われていることです。この業種では、いくら表面的に良いことをしていても、実際中に入って働いてみれば道具のように扱われてポイ捨てされるのではないかとの危惧を持たれています。その不安や不信を払拭するために、私たちは、いい会社であることの外部認証の取得、未来創造企業認定をマイスター高等学院を運営する事業所に必須条件として課しています。この認証は単に経済的価値を生み出して、良い決算書になっているだけではなく、社会性のある地域や環境に貢献する企業であることを80項目以上のチェックリストで一定の数値をクリアした会社が認められます。確実に良い会社に退所者が就職出来るのを担保しているのは非常に大きな信用に繋がっていると感じています。
この様な取り組みこそ、社会課題解決と本業の融合であり、経済合理性限界曲線の外にあった、社会から見捨てられがちな若者に光を当て、同時に長期的な経済合理性を担保して事業所の未来を創造する活動の本道だと感じた次第です。これを全国に広げて行きたいし、展開しなければならない責任が私達にはあると思うのです。

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高校で実務を学びながら社会に出て活躍出来る力を身につける。そんなキャリア教育の普及に取り組んでいます。

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