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あるモノはある

この4月、新しく職人育成の高校、マイスター高等学院神戸校を設立しました。授業を始めるタイミングで対話型AI、チャットGPTの運用が公開されたのは、本格的に教育業界に足を踏み入れたばかりの私にとって、とても大きな出来事でした。
マイスター高等学院は通信制のWスクールでそのカリキュラムは大学に進学することを目的にせず、実社会で大きく活躍する、新しい時代の職人を輩出することです。オリエンテーションで生徒に伝えたのは、私がずっと学びの中で大切にしている概念、不易流行と温故知新で、もちろん、実際の授業にもそれを色濃く反映しています。

本当に大切なものは見えないもの

実社会で役に立つ学問とは、問いを立て、真理を見出し、それに真っ直ぐに向き合うことだと私は考えています。原理原則とも言いますが、目に見えなくても必ずあるものを認知し、活用することで大きな成果を手にすることができると思っています。その中でも最も代表的なのは人の心です。心の中で何を思っているのかは人の目には見えません、しかし、表情や仕草、ふとした時の態度で感じることは多くあり、心の在処を探しにいく、感情を見にいくことで、人の心が何処にあるのかを想像することはできます。その心に寄り添い、期待に応え、誠実に向き合えばそこに信頼が生まれます。目に見えない信頼こそが仕事という人と人との価値交換において最も重要であり、全ての経済活動の元になるものです。信頼という価値は目に見えなくても確かにあるのです。

あるものをあると認知する学び

昔から、「商売は信用と信頼」と言われるように、信頼関係を構築する重要さは誰しもが知っています。しかし、目に見えないのを理由に、不確かなものだと捉え、本来、最優先で向き合うべきなのに見て見ぬふりをして、信頼を損なうような選択をしてしまう人や所業を散見します。目に見えないのを理由に、あるものをあると認知しないのが、事業における大きな阻害原因になっていると思うことが少なからずあります。これを払拭するのが本学と呼ばれる古典での学びだと私は考えています。マイスター高等学院では現在、毎回、大学の素読を行いながら、一章ずつ取り上げて、噛み砕いた説明をしながら三千年以上も受け継がれてきた人としての在り方をあるものとして認知するワークを行っています。

風の時代の教育論

大学の冒頭に書かれているのは「大学とは明徳を明らかにする」の一文で、明徳とは人が誰しも生まれながらに持っている明らかな徳、良知です。その、一見、実体のないと思えるものを認知して、その人の道にそった行動を選択することが、自分も、周りの人も、そして世界さえも幸せにする方法だと説かれています。本学、在り方を学ぶとはあるものをあると信念を持つことではないかと思うのです。令和の時代に出来た新しい学校で、腰骨を立てて論語や大学を素読するなど、なんて古めかしい、前時代的、もしくは懐古的な教育方針だと思われるかも知れませんが、古典こそが風の時代に最も適したテキストだと思っています。

論語とAI

不易流行の概念を実装するにあたり、三千年の時を超え、いまだに読み継がれる論語が不易、もう片方の流行として対話型AIを導入しています。開講初日に私が新入生に課したのはスマートフォンで手軽に対話型AIを使えるようにLINEにAIチャットくんをインストールすることでした。オープンAIがローンチしたチャットGPTは世界中で物議を醸しており、その利用を制限する教育機関の判断がニュースで流れるのを目にしたりします。しかし、一瞬にして莫大な情報を処理して、それなりにまともな返事を返してくれるAIはこれからも指数関数的な進化を遂げるのは目に見えており、それをないものとして目を瞑ってしまうのは危険すぎると思っています。

かしこしかおらん

マイスター高等学院の授業では学生に文章能力を身につけさせるのも学習目標の一つに掲げています。なので、振り返りや感想などの文章を頻繁に書かせるのですが、自分で考えたことを文章に表す前にAIから返ってくる情報を加味して書くように言ってます。これがもの凄い成果を生み出すことを実際に運用を始めて改めて気が付かされました。例えば、第一講で論語や大学などの古典を学ぶ意味と意義を伝えた後に、感想文を書かせたところ、たった2行だった文章がAIを使うことで非常に立派な文章になりました。もちろん、AIが出した答えをそのままコピペすることを勧めるわけではなく、裏付けをとった後に自分の言葉を組み込んで文章を完成させるように指導しています。ちなみに、AIが返してきた古典を学ぶ意味と意義は以下の通り、これに自分の言葉で感想を付け足して直してもらっています。

論語や大学をはじめとする古典を学ぶことには、以下のような意味と意義があります。
・中国文化の理解:論語や大学は、中国の伝統的な思想や価値観を反映しています。これらを学ぶことで、中国文化を深く理解することができます。
・倫理観の習得:論語は、孔子が弟子たちに説いた言葉をまとめたものであり、人間関係や倫理観に関する教訓が含まれています。また、大学は、倫理や知識の修養について説いた書であり、倫理観や人格形成についての重要な指針となります。
・言語力の向上:論語や大学は、古代中国の文化や言葉を伝える貴重な資料であり、古典的な漢文の解釈や読解を学ぶことで、言語力や表現力を向上させることができます。
・自己啓発:論語や大学には、人間の成長や修養に関する考え方が多く含まれています。これらを学ぶことで、自己啓発につながる新しい視点を得ることができます。
・世界観の広がり:論語や大学は、中国だけでなく、世界中で多くの人々に読まれ、影響を与えています。これらを学ぶことで、異文化や異なる価値観に対する理解が深まり、自分の世界観が広がることができます。
ChatGPT Mar 23 Version

ことに本末あり

生徒に対して、あらゆる場面で、自分の少ない経験だけで物事を判断することなく、一度、AIで検索をかけてからアウトプットをするように伝えています。これが普段から使いこなせるようになれば、15歳の若者は世界の知見と常にリンクするようになり、知識量は莫大になります。これは情報革命とかのレベルで無い途方もない変革だと感じました。AIの活用を学校で推奨するのに対して賛否両論あるとは思いますが、AIを使うことで末学と言われるやり方はもう既に彼の手のうちにあると言っても過言ではありません。私達が主として教え、育むべきは本学と言われる人としての在り方、人の道を歩み、良知を開かせることであり、そこに焦点を絞っての教育を行うことで今までとはレベルの違うニュータイプの職人を育成できるのでは無いかと思うのです。あるものをあると認知して、正面から向き合うことこそ、大転換の時代に必要な姿勢だと思うのです。

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実社会で活躍する人間力のある人材を育てています。
ご興味がある方は繋がってください。


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