見出し画像

アントレプレナーシップとクラフトマンシップとイノベーションは並立できるのか? in JEJU FORUM

済州島で開催されたアジアの国々が手を携えて平和と繁栄を目指すJEJU FORUMでは民間からも伝説を作ったと言われるような大物経営者が多く登壇され、新しい世界に向き合う在り方を模索するセッションが数多く行われました。2日目の目玉は、リ・サンヒョンGoogle社専務がモデレーターを務め、マイク・オギールUBER ASIA代表と日本の富山を代表する企業である株式会社能作 代表 能作千春さんによるパネルディスカッションでした。
モノづくりとアプリサービスという全く違う分野の2人のセッションは全く噛み合わないのではと思っていましたが、デザインで社会の課題を解決する。その1点を共通項として、これからのイノベーションの在り方を指し示していました。

憧れのモノづくり企業

株式会社能作といえば、歴史ある富山の鋳物メーカーでありながら、自社オリジナルのブランドを立ち上げ、錫の曲がる特性を生かした、形を自由に変えて使用できる器をリリースしてその優れたデザインと、素材の特性を最大限に活かしたモノづくりで大きな話題になりました。2013年に「第5回ものづくり日本大賞」経済産業大臣賞受賞した100%錫のテーブルウエアはその斬新なデザインと贈り物としての意外性、面白さがこれまでにないUXを生み出している、凄いモノづくりの会社があるものだと,当時のネットニュースをみて驚きました。今も私の記憶にも残っています。今回のJEJU FORUMのジャパン・セッションではその憧れの株式会社能作の代表 能作千春の登壇ということで、とても楽しみにしておりました。

イノベーションのジレンマ

初めにマイク・オギール氏によるUVERが移動手段としてのタクシーをイノベーションして、マーケットを作り変え、新しい仕事や働き方を創出した。そしてその先にもっと大きな「安全」をフューチャーして、これから更なるイノベーションを目指しているとのプレゼンテーションは未来への接続を感じさせるものでした。ただ、それは輝かしい未来というよりは、イノベーションのパラドックスを内包し、便利で快適なサービスを生み出すのと同時に、悲しむ人、職を失い困る人も同時に生み出しそうなジレンマも感じました。
世界はこのようなイノベーションが積み重なって、スタンダードが塗り変えられ、人の営みは移って行くのかもしれませんが、それはどこか破壊的なイノベーションの匂いが漂っているように感じました。このサービスは誰を幸せにするのだろうか?そんな問いが頭の中に浮かんでは消える、何か漠然とした不安を伴う雰囲気を醸していました。済州市長も質疑でイノベーションのパラドックスについて質されていたので、私と同じように感じた方も多かったのかもしれません。

モノ、コト、文化

マイク・オギール氏のプレゼンテーションに比べ、日本の伝統技術を守り、職人を守り育てながら次々とイノベーションを重ねる能作さんのプレゼンテーションは明るい未来を感じさせる素晴らしいものでした。伝統的な鋳造の技法を今に伝え、職人を守り育て、新しいデザインでモノづくりに命を吹き込むだけに止まらず、モノづくりの企業というにはあまりにもUXのデザインを丁寧に作り込まれているのには、本当に圧倒されました。そのプロダクツを体験するユーザーに寄り添い、新たな価値を創造する、職人の力を最大限に発揮しながら、全く新しい分野に挑戦し続けておられる姿勢には感服としか言いようがありません。
建築賞を受賞された工場の公開と見学ツアーでの観光事業、地元の食材を使い、能作の作品を実際に使える大人気のCafe営業、海外への展開と一流ブランドとのコラボ、その進化は止まるところを知らないとの様相を呈しておりました。その中でも私が圧巻だと感じたのは錫婚式のプロデュースとプロダクツの融合です。モノからコトへ、そして文化の醸成へと繋げられているのはイノベーションのあるべき姿を体現されていると深い感銘を受けた次第です。
最後に質疑の中ででた「アントレプレナーシップとクラフトマンシップとイノベーションとは並立できるのか?」この答を能作さんは既に見事に示していたと思います。

済州島で自分たちの持つポテンシャルに気づく

今回、済州島平和フォーラムへの日本からの視察団の団長はかねてから私が深く尊敬している行徳先生でした。韓国に渡った最大の理由です。
参加するまでその他の日本メンバーについては深く存じないままでしたが、アジアで最も権威のあるフォーラムの一つであるこのイベントに日本の代表として登壇されたのが能作さんだったのには心から納得したし、日本の職人の伝統技術が世界に通用すると感じさせてもらえたのは、昨年から職人育成の高等学校を立ち上げて様々な分野のモノづくりの人たちと協業を目指す私にとって非常に素晴らしい機会に恵まれたと感謝することしきりでした。人は人によって磨かれる。リスペクトが新たなリスペクトをもたらし、自己変革の種になる。実際に人と会うことでしか得られない貴重な体験を今回も数多くいただきました。
この気づきを日本に持ち帰り、私たちが持つ大きなポテンシャルを再確認するべきとの認識を仲間達と共有しつつ、全国に職人育成のプロジェクトを推し進めていきたいと思います。素晴らしい機会を頂けたことに心から感謝します。ありがとうございました。

___________________

職人の育成を通して人を幸せにするイノベーションを目指しています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?