見出し画像

ウッドショックをファクトと根本から考える。 〜循環型社会へのシフト〜

令和3年4月28日

昨日は姫路の北、兵庫県の山間部にある宍粟市の顧問先の年度初めの会議に出席した後、初期から職人起業塾にも参画頂いている宍粟の工務店の雄であり、先代から林業の活性化に尽力されてきたヤマヒロ社の社長と合流して、地元木材の利活用、切り出される木材を余すところなく価値転換する新たな製材と流通の仕組みを作りたいとの熱い想いを伺いながらの打ち合わせでした。まずは山の抱える問題、地元の木材の利活用の本質についての勉強を立ち上げるとの非常に素晴らしい取り組みの提案に、地元材活用の啓蒙団体「ひょうご木づかい王国学校」の代表としても諸手をあげて賛同し、できることは全て協力します!と前のめりに参加を表明してきました。
良い機会なので豊かな森林資源を持つ日本の国産木材活用について新たにマガジンを作ってみることにしました。今回はその一回目です。

森林大国日本の憂鬱

現在、日本の住宅業界はウッドショックと言われる外国産木材の供給不足とそれを補う国内産材の生産体制ができていないことが表面化して大きくざわついています。コロナによる巣篭もり需要の顕在化で住宅市場が活況を呈しているのに水を差す形で、木材不足、価格の高騰、先行きへの不安感が業界内では毎日の様に話題に登っています。そんな非常に良いタイミングで、日本の林業の根本的問題に向き合い山主、きこり、製材所等々生産者の側から実態をご教授頂ける、地元の木材の活用を本質的な部分から学び直す機会を提案頂けたのは非常に貴重だと思いますし、以前から地元産木材利用の工務店の代表として山と街を繋げる具体的かつ、実務的な仕組みができないかと模索していた私としては願ってもない提案を頂くことができました。この度、又とない素晴らしい機会を頂けたのはとても嬉しいことで、地元に密着する地域工務店の未来に道が開けた印象すら持つことができました。実は、世界有数の森林大国であるはずの日本の林業は外国産材の輸入が減ったから増産したら良いという単純な構造にはなっておらず、非常に根の深い複雑な問題を数多く抱えています。小さな街の工務店である私たちに出来ることはたかが知れておりますが、このnoteでも国産木材の利活用の意味と意義、そして問題提起と解決への取り組みについて引き続き経過報告と情報発信をしていきたいと思います。

ウッドショック

このところ、全国ネットのTVの報道番組でもウッドショックと言われる外国産木材の供給不足と木材価格の高騰が取り上げられるなど、材木の需給バランスの不均衡が住宅業界内だけではなく広く一般の方にも知られるようになりました。材料の手配がつかずに操業短縮に陥っているプレカット工場があるとか、既に契約が決まっている案件でも納入時期によっては価格が上がるとか、この騒ぎは6月末で落ち着くとの見立てを口にする人がいたり、来年まで続いて深刻な影響を及ぼすと脅す人がいたりと業界内でも情報が錯綜して何が本当かわからなくなっています。私は商社でもないし素材供給側でもないので、見通しを述べる立場にありませんが、ファクト(事実)として確認したことと、ファクトかどうかは分かりませんが、業界内で共有されている情報を一度まとめてみたいと思います。弊社でも既に概算の資金計画を終えた一年以上先までの新築案件の計画が複数進んでおり、価格が高騰したから建築費が上がりました、と気軽に言えない状況で、先行き不透明で全く予想が立たないままではクライアントに対して申し訳が立たないこともありますので、問題の本質を自分なりに分析して、解決策の方向性程度は見出したいと思います。

北米と中国の住宅市場の活況と木材輸入量の減少

まず初めに、今回のウッドショックの主たる原因と言われている北米、中国の住宅需要の動向と新型コロナによる原料生産の低下とコンテナ輸送の減少の影響を受けての国内輸入量について調べてみました。林野庁の資料を見ると、確かに昨年の2020年には大きく木材輸入は減少していますが、2016年度からの推移を見るとコロナ以前から減少傾向が続いていることがわかります。アメリカではロックダウン対策と政府の給付金により、消費者貯蓄率が上昇して家の修繕の急増につながっており、アウトドアデッキの改修からホームオフィスの建て増しまで、さまざまな修繕が行われているとのことで、米国連邦準備制度による迅速な金融政策介入によって、住宅ローン金利は史上最安値にまで下落、現在は 3%強の水準に留まっています。木材価格の急騰により、平均的な住宅価格が 2万4,000ドルほど上昇しているものの、住宅ローン金利はこれを相殺するに十分なレベルにまで下落しているとのこと、日本の住宅ローン金利が以下に低いかが分かります。ちなみに、アメリカの2020 年の建築着工数は7%増の138万件となっています。2021年の予測建築着工数は158万件であり、米国市場の潜在的需要は年間 160万件になると見られています。出典:COFI と日本ツーバイフォー建築協会による合同バーチャルシンポジウム 日本代表、ショーン ローラー氏による報告書

スクリーンショット 2021-04-29 16.22.05

国内木材の生産状況

新型コロナによる巣ごもり需要はアメリカだけではありません、上述のショーン ローラー氏による報告書には、2021 年のヨーロッパの針葉樹製材消費量は、350 万 m3 増えて 8,740 万 m3 になると見られています。中国需要の強化もまた、世界の製材需要において重要な役割を果たしています。中国は、ニュージーランド、北米、ヨーロッパ、さ らには日本からの輸入を積極的に拡大しようとしています。これと関連して、中国は年間 2,970 万 m3 の製材を輸入しており、米国の年間輸入量の 2,450 万 m3 を足すと、両国の年間輸入量は日本の 550 万 m3 の 10 倍になります。2021 年の GDP は米国が 4.7%、中国が 8.2%上昇すると予想されています。世界の経済発展国が揃って成長に向かうという、きわめて稀な情勢のなか、他の国々でも力強い回復が 見込まれます。とあります。要するに、輸入木材を増やすことは難しく、早期の解消は見込めないと判断する方が良さそうです。世界有数の森林国家と言われる底力を発揮して国産材の供給量を増やすべきですが、林野庁のHPを覗いてみると、近年、国産材利用の政策に後押しされた形で住宅の着工棟数は低迷したままですが、既に国内の木材生産は上昇を続けてきたのが分かります。1975年のピーク時の生産量を鑑みれば、まだまだ増産の余地がありそうに思えますが、残念ながら長年、外国産材に押されて生産を減らし続けた現場では生産能力が弱くなっており、兵庫県有数の林産地である宍粟市では15箇所以上あった製材所が現在はほんの数社になってしまっていると言います。これは兵庫県だけではなく日本全国に共通する問題で、残念ですが短期間に改善する様な簡単な問題ではありません。

画像4

画像3

山の事情。

山の生産側からの声に耳を傾ければ、プラザ合意以降の為替相場が円高へ振って以来、長年、木材の取引価格が外国産材の価格と比較されるようになり、大幅なコストカットを余儀なくされた事情があります。建築用材として価値の高い木材を育てるには間伐や枝打ちなどの山に手を入れて整備することが不可欠ですが、そのコストが捻出できずに放置された山が数多くあり、国からの補助金を受けて林道を作り、木の品質を確認しながら択伐するような丁寧な仕事では生業として成り立たないと、非難の的になる大規模皆伐を行わざるを得ない事情もある様です。長年放置された山を丸ごと伐採すれば当然、木材としての質の担保はできなくなり、商品価値として低くなるどころか、チップや燃料になってしまう現状があります。兵庫県でも大規模な木材バイオマス発電の施設が次々に建設され、木材の生産量が増えた分を吸収してしまっている(私たちからすると)悲しい結果になってしまっています。しかし、そのおかげで林業を支える木こりは非常に忙しくなり、稼げるようになったと言います。最近は木こりの事業の収益構造が改善して、最新の機械を導入する設備投資や従事者の労働環境の改善のニュースを目にするようになったのはこの影響で、「木こりだけが儲かる様になった」と嘆かれる方も多くおられますが、林業従事者が増えるのは喜ばしいことだと私は考えています。以下に兵庫県の杉の建築材としての活用の道を探る取り組みと、原木生産が増えても住宅用資材供給は横ばいとの記事、また燃料として燃やされる木材が日本全国で増え続けているグラフをリンクしておきます。要するに、山から木を切り出す量を増やしたからといって、住宅建材としての木材不足も価格の高騰も簡単に解消されることはないということになります。


画像2

森林大国の価値創造と循環型社会への移行

ここまで私が並べて見た情報は一応、出典が明らかになっているもので私にとってはファクト(事実)であり、正面から向き合うべき現実だと思っています。日本の林業は当たり前ですが農地には出来ない急峻な山岳部に植林をしてきました。人件費が高い事と伐採、搬出が容易ではない分、海外よりもコストは高くなってしまいがちなのは当然です。これまで長年に渡り世界がカップリングした木材市場では競争力が低かったのが近年、中国や韓国向けに輸出が増加していおる事実を見れば、変わってきたのは明らかで、地元で生産された木材を適正な価格で流通し、山にもしっかりと収益が還元されて、山の整備が進むのはあるべき姿だと思っています。全てのコストは結局、消費者が負担する資本主義経済の原則を鑑みても、地域の経済が循環し、土砂崩れや地滑り、川の氾濫の元凶となっている放置林が安全な山に変わっていくことは、少し広い視野に立つと決して消費者にとってもデメリットではないし、その部分の理解を得られるように私たち住宅供給を担う事業者が丁寧な説明を行うべきだし、その責任と役割があると思っています。この度のウッドショックは短期間で収束する問題ではないと思いますし、この機会に長年、懸念され続けてきた山の問題の根本的な問題解決に歩みを進める機会だと捉えています。杉や檜の人工林は植林してから伐期を迎えるまで50年以上の長いスパンの事業です。私たちの前の世代が植えた木を使い、次世代のために木を植える、それで建物を建てて電気を発電し、空気中のCo2を削減する。循環型モデルの典型だと思っています。今こそ、世界有数の森林国である日本が持っている価値を高め、持続可能な循環型社会へシフトする時がきたのではないかと思うのです。世の中はすべからず表裏一体、禍福は糾える縄の如し。と言いますが、良いきっかけに出来ればと思っています。

画像5

__________________________________

自立循環型社会を目指す株式会社四方継のオフィシャルサイト



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?