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その島のひとたちはひとの話をきかない

私は地域活性化の事業を営んでいるだけに、脱Amazon活動を推進、奨励しています。街の本屋さんが次々に廃業するのをなんとか食い止めるべく、本は書店で買いましょうよ!と周りの人にも「自分が便利なら街が廃れてもいいのか?」と少し強めに伝えています。ですが、スマフォが生活の中心になってしまった今、その便利さを手放すのは一筋縄では行きません。知り合いに本を薦められるとつい検索して探してしまう、そのまま購入してしまう流れは仕方ないとも思います。
なので、全く文明の利器を使わないのではなく、目当ての本をAmazonのカートに入れたまま決済せずに溜めておいて、近所の本屋さんでまとめて注文、取り寄せしてもらうのをお勧めしています。一度に数冊注文するサイクルが出来上がると、急いで取り寄せる必要がなくなるので、Amazonの便利さは必要なくなります。

良書とのご縁に感謝と反省

そんな理由で、私のスマフォのAmazonアプリには常に数冊の注文すべき本のリストが溜まっており、思い出す、もしくは本屋さんに行く機会がある度にそのストックから5冊程度をチョイスしてまとめ注文します。そんな本の買い方をするので、リストに入っている本が、いつ誰に薦められたか分からなくなってしまうことが少なからずあります。
今回も、そのパターンでカートに入っていたままになっていた本を取り寄せて読んでみたら、すごく良くて、薦めてくれた人にお礼を申し上げたいのになー、と薦めてくれた方が誰だったかすっかり忘れてしまった後悔と、「薦めたのオレだよ」と名乗り上げてもらえたら嬉しいなー。との淡い願望と、別にしなくていいかもですけど、言い訳と反省を込めて以下にその良書の紹介をしたいと思います。

自殺希少地域研究の書

とても深い示唆と気づきを得られた感じたその本は精神科医の森川すいめい氏の著書、「その島のひとたちはひとの話をきかない」です。
日本の最大の社会課題の一つだと私が感じているのは、20代以下の若者の死亡原因の1位が自殺であるとの衝撃の事実です。年老いて、人生に絶望して自ら人生を終わらせることを選択するのはまだわからないことはありませんし、私自身、死のうと思ったことがあります。その時は身近な人に励まされたお陰で思い留まることが出来ました。経営者になりたてのころ、それまで背負っていなかった大きな責任を担うようになって、その責務を果たすためにとか、生きていることで迷惑をかけられないとか、当時は無知で偏狭だったゆえ、おかしな思い込みを持ってしまい死のうと思いました。今考えるとほんとバカでしたが、そんな私の経験とは全く違う、これから社会で活躍する希望に溢れる年齢のはずの若者が圧倒的な絶望を感じて命を絶つ社会は早急になんとかしなければならないとこの報道を見た時から頭の片隅にこびりついていました。

その島のひとたちはひとの話をきかない

そんなニュースを目にして、若者の自殺について根本解決とは何だろうか?との問いをずっと持っていたから、この『その島のひとたちはひとの話をきかない』という自殺者が少ない地域を旅してその属性を研究した精神科の医師の本をカートに入れていたのだと思います。そこに書かれてあったのは、コミュニケーションの本質的な在り方であり、人を絶望させないための距離感というか、関係性の構築についての要諦でした。これは決して自殺問題だけに関わることではなく、一般的な組織形成やチームビルディングの当てはめても十分に通用する本質的な組織論だと感じました。著者が冒頭に書かれていましたが、目次がその章の要約、レジュメになっており、それだけ読んでも内容を窺い知れるので以下に出版社のサイトから紹介分を転記させていただきました。

「今、即、助ける」
「できることは助ける。できないことは相談する」
「助けっぱなし、助けられっぱなし」……
数々の支援活等で注目をあびる精神科医が、
生きやすさのヒントを探す旅にでる。
「チームやコミュニティの仲間を孤立させないために、すべての人が居心地の良さを感じられる社会を実現するために、ぜひ読んでおきたい一冊です。」・・(ビジネスブックマラソン
【目次】
はじめに
序章 支援の現場で
自殺の少ない町は「癒しの空間」ではなかった
「自殺希少地域」研究の衝撃
自殺対策は予防と防止に分けて考える

第1章 助かるまで助ける
家の鍵があいている町で
ベンチにはいろいろな意味がある
「病、市に出せ」という教訓
困っていることが解決するまでかかわる
解決することに慣れている
お互いによく出会っているから助けられる
あいさつ程度の付き合いでも洗濯物を取り込む
自殺は仕方がないことと思わない
第2章 組織で助ける
効率化により変わりゆく町で
「人生は何かあるもんだ」で生まれた組織
他人のせいにしない
非営利組織に見出す希望
第3章 違う意見、同じ方向
東北の自殺の少ない村で
悪口や陰口はあるけれど
あいさつ程度の付き合いが孤立感を癒す
違う意見を話し合えるから派閥がない
理念で向かう方向を定める
外に出て行く力がないひとも死なない地域
第4章 生きやすさのさまざまな工夫
平成の大合併の町で
困難があったら工夫する
できることは助ける、できないことは相談する
コミュニケーションは上手下手ではなく慣れるもの
現場で課題に答える
トイレを借りやすい地域
幸福度が高い地域は男女が平等
第5章 助けっぱなし、助けられっぱなし
本土とつながったあとの島で
行政はひとの困りごとを解決するために存在する
意思決定は現場で
困っているひとは今、即、助ける
助け合いではなく「助けっぱなし、助けられっぱなし」
島の外のひとたちも生きやすくなる
写真にはひとが写るもの
「私たちが楽しくなきゃダメだ」
第6章 ありのままを受け入れる
厳しくも美しい自然の島で
みんな違うということ
孤立させないネットワークと対話
その島のひとたちは、ひとの話をきかない
島でひとつのコンセプトをもつ
非営利組織が地域の中心になっていく
特養でも自分らしく生きられる
ありのままを受け入れる
なるようになる、なるようにしかならない
終章 対話する力
自殺希少地域のひとたちは対話する
オープンダイアローグの七つの原則
生きるということ

[著者] 森川すいめい(もりかわ すいめい)
1972年生まれ。精神科医。鍼灸師。現在、医療法人社団翠会みどりの社クリニック院長。阪神淡路大震災時に支援活動を行う。また、NPO法人「TENOHASI(てのはし)」理事、認定NPO法人「世界の医療団」理事、同法人「東京プロジェクト」代表医師などを務め、ホームレス支援や東日本大震災被災地支援の活動も行っている。アジア・アフリカを中心に、世界45か国をバックパッカーとして旅した。著書に『漂流老人ホームレス社会』(朝日文庫)。
青土社HPよりhttp://www.seidosha.co.jp/book/index.php?id=2928

絶望しない環境

目次にあるように、自殺希少地域は決して深く親密なコミュニケーションが地域に根付いているわけでは無いと言います。どの組織やコミュニティーにもあるように悪口や陰口は溢れ出たりするけれど、些細なことは受け流す、少々のことは寛容に受容する。そして決して濃密ではない、あいさつ程度の浅い付き合いだけでもそのストロークの数が頻繁にあれば孤立感を深めることもなく、軽い接触だとしても人の苦しみや悲しみをある程度癒す効果があり、薄く細かなやりとりがあるお陰で、問題が深刻化、重大化する前に解消されていく。また、些細な問題解決が頻繁に数多く起こる、もしくは行うことで、助けること、助けられることに対するハードルを下げて、人の困りごとに気がつけばすぐ手を差し伸べる文化が定着するのかもと書かれています。そうなれば確かに絶望はなくなるのかもしれないと思います。

大事なのは気軽でフランクな助け合い

この本にあるフィールドワークの結果が真理であるとはもちろん限りません。ただ、皆で一つのコンセプトを共有する、皆の違いを認め合う、困っている人を見過ごさない、人を価値の中心に、現場主義と人を絶望にまで追い込まない地域、コミュニティーで共有されているとされている概念はあらゆる組織に当てはまる、表面的には見えない潜在的な意識というか文化だと思いました。自殺とは少し違いますが、事業所から人が辞めて去っていくのは、圧倒的な絶望を感じた時が多く、そこには必ず人間関係が存在します。企業は人なりの大原則に立ち返り、情報や技術、スキルが蓄積する長く人が働ける企業になるには、メンバー同士がべったり仲良くなる必要はありませんが、些細な困りごとを見かけた時に気軽に手を差し伸べる文化を醸成するのがとても有効ではないかと感じた次第です。人の話を聞かない、人の為に自分が良かれと思ったことを素直に行動に移せる、そんな人にまず自分から変容してみようと思いました。組織論としてもとてもいい本でした。おすすめします。

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