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現場を起点にした作る、売る、回すの三位一体論 ①product

つい先日、以前からお付き合いのある某大手メーカーの研修事業部門の方から連絡があり、住宅設備メーカーで直接施工する施工部隊を組織することになり、職人の採用と育成を始めたがなかなかうまくいかないので相談に乗ってもらえないか、との問い合わせをもらいました。既に日本全国で顕在化しておりますが、建築事業全般に直接、大きな影響を与える職人不足に対して根本的な対策を講じておられるのはさすが日本を代表する大手メーカーだと感心するとともに、本来は中小零細の工務店がもっと本気になって職人育成に取り組まなければならないのに、と残念な気持ちも半分でした。ただ、この流れが建築業界全体の構造改革の一端になるような予感もあり、喜ばしいことだと思っています。現場でのモノづくりを支える職人がいなくなれば、モノづくり企業では全く事業自体が成り立たなくなります。職人の高齢化が進む建築業界では現場人材の育成は建築業界全体の喫緊かつ重要な課題になっています。逆に、現場人材の育成と成長は事業全体に本質的な価値を生み出し非常に良い影響を与えてくれる力を内包しています。
モノづくり企業の今回から数回に分けて現場を起点に事業全体を俯瞰してこれからの時代に必要なモノづくり企業の在り方を探ってみたいと思います。

クレームだらけの現場

その大手メーカーの傘下にある施工専門の会社の人材育成担当の方とオンラインでミーティングを行い、問題点や課題を伺ってみました。大企業だけに技術的な教育マニュアルや技術習得に合わせた評価制度などをしっかり作り込んでおられるようでしたし、大企業の看板があると言うことで採用活動も順調に進んでいるとのことで、一見大きな問題はなさそうでした。で、何が問題ですか?と尋ねると、職人育成のシステム構築をこれまで熱心に行ってきたが、いつまでたってもクレームが減少しないと嘆いておられました。要するに、技術的な側面よりもモラルや責任感の欠如、人間力の低さと言った表面的には見えにくい部分、社会人としての基礎的な教育ができないとのことで、私に相談を持ちかけられました。それはまさに20年前、大工集団の施工会社として起業した私がまず初めに突き当たった壁と全く同じで、とてもよくわかりますと共感の言葉を即返した次第です。

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職人の変革がライフワーク

その担当者さん曰く、要するに、技術面だけをいくら熱心に教育してもダメなことを痛感し、もっと根底の部分から職人の意識改革をしたいとのことで、現場従事者にその教育を行うには蛇の道は蛇的に?現場のことに精通した人でないと効果がないのを実感されて私のところに相談に来られたと言われてました。現場で働く職人に、まず何のために働くのか?との意図を明確にしてもらい、自分の役割の重要さ、建築と言う超高額商品を扱う大きな責任を認識させて、主体性を持って自ら顧客満足を作り上げる、その連鎖を積み重ねることによってビジネスモデル自体を構築するのは私が一般社団法人職人起業塾で行っている研修のそのものズバリであり、私のライフワークの1丁目1番地です。「お任せください」と二つ返事でお引き受けをしましたが、ただ、1日2日のセミナーを行ったところで成果が上がる事はないと残念な事実も同時にお伝えしました。

まずはセルフイメージ

「過去と他人は変えられない」とよく耳にしますが、強制的に人の意識を変えることなど誰にもできません。本人が変わりたいと思うかどうかが肝であり、それはどのようなセルフイメージを持っているかにかかっています。私は職人の世界に入ってかれこれ30年、変わらない、もしくは変われない職人達を山ほど見てきました。人は、自分はどうせこんなものだ、言われたことを言われた通りに作業するしか能が無い人間だと自己限定してしまうと一切変わる事はありません。大きな付加価値を生み出す、守られるべき職人に変化する意識改革の根底には、自分にはまだまだ埋もれた才能がたくさんあると認識してもらうことが必要で、その部分を職人起業塾ではアクティブブレインセミナーと言う記憶術の研修を通して体感してもらっています。瞬間記憶や160個もの単語の暗記など、絶対に出来ないと思い込んでいる事をたった2日間で出来る様になる体験は強烈に自己限定から解放してくれて、自分自身が持つ未知の可能性に気付かせてくれます。

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学びに価値なし

セルフイメージの次に重要なのは実践です。せっかく学ぶ時間を持ったとしても知っているだけでは一切何の成果にもつながりません。「知ってる」から「やってみる」そこでわかる事があり、改善を積み重ねながらチャレンジを繰り返すことで「できる」ようになり、それが定着して初めて「できている」状態が生まれます。その「できている状態」を職人全員が維持することこそがクレームを現場から撲滅する唯一無二の方法論であり、これはマニュアルで押し付けても、厳しいルールを作って縛っても叶う事はありません。職人の主体性を伸ばすしかクレームをなくするの道はありません。

決意と覚悟が大前提。

私がその施工会社の長に伝えたのは「クレームを無くしたい、施工精度を高めたい」との成果を手にするには、セミナーを開催するだけでは話にならないし、半年間かけて実践研修を行ったところでそれからずっと「できている」状態を維持できる事はなく、研修終了後も継続した対話を繰り返しながら成長に対する評価と次の目標設定、そしてその達成へのサポートを続ける必要があると言う厳しい現実です。職人の本質的な育成はその覚悟を固めて、長い年月をかけて取り組みを継続してこそ初めて状態が整ってきます。ちなみに、私は20年間、職人の意識改革に取り組んでおりますが、いまだに完全にクレームを撲滅するには至っておりません。現場で働く職人に事業の目的を明確に理解してもらい、共感を持って自分事として理念を現場実務に落とし込むようになり、現場作業員以外の役割を担いながらその責任を全うして顧客満足を得るには気の遠くなるような時間が必要です。経営者、もしくは経営幹部にその覚悟を決めてもらわなければ研修をする意味もないと言っても過言ではありません。

まずは作る(product)から

職人の高齢化が進み、職人不足が顕在化してきた近年、職人の内製化、採用と育成に取り組まれるようになった事業所も少なからずあります。しかし全体から見ればそれもごく1部であり、事業所が若者を正規雇用して職人育成に取り組むのはまだまだ珍しい存在です。殆どのハウスメーカー、パワービルダー、工務店経営者は職人は誰かが育ててくれるもので、一人前になった奴を使える間だけ使って、使えなくなったらポイ捨てしたらいい。と、そこまでは思っていないにしても、結果的にそんな感じの雇用をしています。生産性の低い見習いの職人を育てる経費も職人を正規雇用して安心して働ける環境を整える社会保険や厚生年金、福利厚生に費用をかけず、ものづくりの根幹を担う職人に敬意を払うこともなく道具のように使っています。ものづくり企業のビジネスモデルをシンプルにまとめると作る(プロダクト)、売る(マーケティング)、回す(マネジメント)の3つに集約されますが、その最も根っこの部分の作る(プロダクト)に正面から向き合わないと事業全体が崩れてしまうと思うのです。今こそ、ものづくり企業はもうすぐやってくる圧倒的な職人不足から目を逸らさずに、面倒で厄介で気が遠くなるような時間がかかる本質的な職人育成に向き合う時期にきているのではないかと思うのです。

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