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キャリア教育×地域企業CSVシフト=子供の社会的保護インフラ構築

私が世話人として参画している一般社団法人経営実践研究会は、本業で社会課題を解決することで事業所の存在価値を高め、社旗に必要な企業として認められることで持続可能なビジネスモデルを構築するCSVモデルの研究と実践を主たる活動の一環として行なっている団体です。現在、国内全ての都道府県で1000社の志の高い経営者が集い、様々な業界、地域で横断的に繋がって、これまで経済合理性曲線の外にあるとされ、放置もしくは先送りされてきた社会課題に向き合い、本業そのもので持続的にその課題を解決すべくプロジェクトを立ち上げ、新たなビジネスモデルの模索に取り組んでいます。

自分の器が小さいことに気づく

私自身は元大工の建築会社を長年、生業としてきましたが令和元年に自社の存在意義を見直し、建築請負業から地域コミュニティーの創生を通じた地域活性化事業へと事業ドメインの刷新を行いました。もちろん、地域のインフラを守る、もしくは人の最も身近な環境である住宅を建てたり、リノベーションしたり、地域経済の拠点となる店舗の設計施工等の建築の業務も行います。それら全ては「四方よし」の地域社会実現の為の取り組みであると再定義し直しました。
その様な経緯もあり、以前から地域の事業所は地域の課題を解決してこそ経営が成り立つし、それこそが経営の主たる目的になるとの理念を持っていたことから、CSVモデルの研究会であるご縁を頂いて即、経営実践研究会に入会しました。
この会に入会し、全国の様々な事業を営まれている会員メンバーと触れ合う中で、それまで知らなかった社会課題を多く知る様になりました。
「自分だけが良ければいい」という思考にだけは陥るまいと創業時から固く心に刻んでいた私は、それまで自分たちが暮らす地域を良くすることと、元々の出自が大工であるが故、建築業界での職人の地位向上ばかりにこれまで注力をし続けていたことの視野の狭さ、視座の低さに気付かされました。
私の立てた志は意外と小さく、身の回りしか見られていませんでした。

中卒経営者が教育事業に取り組む経緯

様々な社会課題やその解決に向き合う諸先輩方から学ばせてもらう中で、私がたどり着いたのは、あらゆる社会課題の根本解決を目指せば教育に突き当たる。とのインサイトでした。自分がこれからの人生をかけて向き合い、取り組むべきは教育の事業だと気付かされたのです。
私の最終学歴は中学校卒業です。教育の世界には縁の無いものだと思っていましたが、大工としての創業から年数を重ねる内に主たる仕事は社員大工の育成、社員教育へと移行していきました。単なる作業員ではなく、主体性と倫理観を持って、顧客をはじめとするステークホルダーと信頼関係を築く職人達は、工事のプロジェクトを担当し、取り仕切るようになり、また信頼関係をベースにしたリピートや紹介と言った循環型の受注を重ねてくれる様になりました。いわば、建築業界にこれまで存在していなかった職人を中心にした自律分散型組織へと変容を遂げたのです。
2014年、私が自社職人を長年育成し続けてきた経験を元にした、職人育成のスキームを他社向けに公開して欲しいとの依頼を工務店業界の団体から要請されました。職人の地位向上には職人自身が意識と働き方を変えて自助の精神を発揮出来る様になるべきとの信条を実現させるべくプログラムをまとめ、2015年から全国で現場実務者向けの研修事業をスタートさせました。いつしか、教育事業に関わる様になったのです。

社会で必ず活躍できる能力を習得できる学校

2021年に経営実践研究会に入会した後、これまで触れて来なかった様々な業界の課題に触れ、学び、その根本的な原因と解決に向けての問いを持つ様になりました。上述したように、事業はおろか社会に蔓延する課題を根本から解決するには、それらを形成する人の意識と行動の選択、それを支える情報リテラシーが必要です。人が生きがいを持って生きられる組織(社会)とは、人が主体であり、人が主権を持ち、人を想い、自ら信じる倫理や道徳に従う自律性が必要で、それが一定レベルに保たれた時に本当の民主主義が発動されると思うのです。それには基礎的な情報の共有が必要で、いわゆる教育が不可欠です。そんな民主主義が組織や社会に実効する社会こそ、私たちが理想とする四方よしの社会への入り口だと考えました。
その様な学びのアウトプットとして、通信制高校のスキームを活用した職人育成のキャリア教育のWスクール、マイスター高等学校を立ち上げました。運営団体の一般社団法人マイスター育成協会は法人化から半年を過ぎた時点で既に50社以上の会員企業が集まり、全国に活動の場を広げています。人としての在り方や、学んだり、働いたりすることの目的を明確にする問いを持つカリキュラムを中心に現場で技術を習得する本物のキャリア教育を受けながら高校卒業資格を習得できる高校です。卒業後は学校として通った事業所にそのまま就職することが出来て、学校と職場で一貫したキャリアデザインを描くこと、進むことが出来る様になっています。

子供達が抱える課題

本格的に教育事業に足を踏み込み、社会に直結した新しい学校の形態をデザインし、拡散する中で子供達や子育てをしている親御さんが抱える課題に触れる機会も数多く得られました。学校の立ち上げ当初から、今の学校教育に馴染めない、学歴社会からこぼれ落ちる子供達が急激に増えている不登校児童問題については知っていましたし、その子供達にテストの成績とか関係のない評価基準で活躍できるモノづくりの世界が受け皿になりたいし、なるべきだとの考えがありました。しかし、衝撃を受けたのは児童虐待が圧倒的に増加しており、家庭的養護を受けられない子供が増え続けている事実です。
児童養護施設に代表される社会的養護を必要とする子供達が増え続けていることはまさに複雑な課題が絡み合う現代社会が弱者に対してアウトプットした課題の結晶のように感じます。何の罪もない子供が、暮らす家もなく、育ててくれる親から見捨てられたり、虐待を受けたりして社会から遠のいてしまうのは大きな社会の損失でもあります。そして、社会的養護とは18歳になって施設を出されるまでではなく、社会に出てから自立して、孤独に陥ることなく社会に順応し、生きがいを持って生きられるところまでが出来てこそだと思いました。私達、地域の企業がそんな逆境に置かれた子供達を受け入れ、育んでこそ社会的養護は成立するのだと思うのです。

(参照元:平成30年度 児童相談所での児童虐待相談対応件数<速報値>|厚生労働省,P1)

社会的養護の主役は企業であるべき

先日、マイスター育成協会の理事が子供向けの職業体験イベントに参加した際、児童養護施設の職員から相談を受けて、私も一緒にその施設に訪問してきました。そこで施設の運営状況の厳しさと出所児童が社会に出て晒される厳しい現実を垣間見ることになりました。改めて、社会の受け皿としての企業の在り方を考える機会になり、私達が運営しているキャリア教育の高等学校こそが社会的養護の主役となるべきだと認識を新たにした次第です。
施設で暮らす児童は高校を卒業して就職した時点で原則、施設を出て一人暮らしを始めなければなりません。慣れない職場に初めての仕事、社会に出た当初は様々なストレスが生じますが、一人でそれを乗り越えなくてはなりません。社会へのハードランディングを余儀なくされているのが現状で、就職した企業に定着できない児童もかなりの割合でいるとのことでした。
マイスター高等学院では高校の時から現場で教育担当の先輩から指導を受けながら働き、OJTの研修では給与も発生します。高校3年間で見習いの期間をほぼ終えて、それなりに仕事がこなせる状態で正社員として就職できるので、大きな環境の変化もなく一人暮らしが始められますし、3年間の期間で歳の近い先輩と人言関係が出来れば悩みの相談も出来ますし、育成担当は必ずコーチングの資格を取得しています。社会へのソフトランディングという意味ではこれ以上ない条件が揃っていると気づきました。

CSVシフト×キャリア教育=社会的養護インフラ

ちなみに、マイスター高等学院のスキームは建築業界に限定しているわけではありません。未来を標榜できるキャリアパスを構築、運営していることと、CSVモデルの経営が出来ており、未来創造企業の認定取得が条件で、それを満たせばどんな業種、業態でも職能教育の高校として参画できるルールになっています。
私は「企業は人なり」の原則論からあらゆる事業所は人材を育てることが主たる事業であると考えており、全ての事業所は教育機関になるべきだとの持論を持っています。
地域に根差して事業を行なっている様々な事業所が高校を併設してOJTで仕事を教える。人としての在り方、働くことの意味や目的を明確にし、倫理観を持って襟を正して真摯に仕事に励めば必ず誰もが大きな成果を生み出すことが可能なはず。自分自身の原体験での裏付けを持って孟子の言葉である「致良知」を胸に、誰もが必ず大きな才能を持っていると信じて教育と地域事業を行なっており、実際、23年間事業を継続して営めています。
地域企業のCSVモデルへのシフトと自社で活躍する人材を育成するリアルなキャリア教育こそが本当の意味での社会的養護をインフラとして整えることになると思うのです。
子供は国の未来です。全ての子供に安心と希望とチャンスを手渡すことこそ、私達大人の最大の務めではないでしょうか?

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民主的な組織構築のための教育、研修、人事制度革新のサポートを行なっています。お気軽にコンタクトください。

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