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計画嫌いの計画ベタから脱却する方法

人や組織の螺旋的成長を促すにはPDCAではなくSECIモデルへのシフトが必要だと先日のnoteに書きました。それには人が持つ野生を目覚めさせる事が大事だと書かれた野中郁次郎先生の著書「野生の経営」を紹介しました。同じ文脈で職人の育成についてのケースを以下に書いてみます。

職人は計画嫌いの計画ベタ

このノートに書いたように、人は基本的に縛られるのが嫌いで、自分自身を縛ることになる計画を立てるのが苦手な生き物です。しかし、無計画&行き当たりばったりで経済性合理性を得られるわけもなく、否応なしに誰しもが計画を立てざるをえません。しかし、苦手な上にいやいや立てた計画が詳細で綿密で実効性に富んでいるわけがなく、結果的に計画はその通り実行されなくなってしまいます。この傾向は特に職人の世界に強く表れており、私の経験上、詳細かつ精密な工程を組み立てられる職人は皆無といっても過言ではないと思っています。しかし、決してそれで良い訳ではないし、有言実行のカッコいい職人が増えてくれたら良いのになー、といつも思っています。

計画通りに進まないもが常識

建築業界全体、特に住宅建築の世界では大まかな工程は誰もが組めますが、詳細で実行可能、確定的な工程表を組める人はほとんどいません。そもそも建築工事は多くの人が現場に関わり少しのエラーが後工程に尾を引きます。天候に左右されることもあり、数ヶ月にわたる工程を全く変更無く完璧に実行すること自体が非常に難しいと言う現実があります。あまり詳細な工程を作ったところで、長雨が降ったり台風が来たりすると必ず狂いが生じるだけに、少し諦めておおまかな日程の中で辻褄合わせるのが業界の常識になってしまっています。それはある程度しょうがないと私も思っておりますが、ただ職人が自分の仕事の計画を詳細に立てられないのは大いに問題があると感じています。

自分の価値を決められない

建築工事費、その計画としての見積もりは基本的に材料費と工賃と経費の合算です。材料費は事前に算出できますが、工賃は実際に工事を終わってみないと正確な金額は分かりません。そして、確定した工事内容に対してどれぐらいの工数がかかるかを正確に算出するのはそのまま職人の所得に直結します。あまりに余分を見て緩い見積もりにすると高すぎると評価を落としますし、少なすぎると適正な収入を得られなくなります。詳細な工事計画を立てるのは職人の所得に直結する非常に重要な業務であるはずが、人任せにして自分で算出できない職人が多すぎるのは職人の地位を低いままにしている大きな原因だと感じています。これでは職人が自分で自分の価値を決められない事になります。

壁を乗り越えるのは人の強い想い

そもそも、計画を立てるのが嫌いで苦手な職人たちですが、地位を高めるにはその壁を乗り越えて、自分の仕事の正当な評価を得られるように胸を張って工事に対する工賃を求められるようになるべきです。そこで必要になるのが、SECIモデルの説明では野生と表現しましたが、職人の仕事に対する純粋で崇高な「想い」だと私は思っています。端的に言い換えれば、理想の職人像を追い求め、自信と誇りを持って働ける環境を自分で作りたいと思う強い気持ちが必要だと思うのです。そのマインドセットがあれば自分の仕事の工数を人に任せることもありませんし、1つずつの詳細な作業について思いめぐらし、シミレーションを繰り返し、品質も工期も収益性も兼ね備える仕事が出来る様になると思うのです。

計画と実行の壁を越える学び

現在、私は国交相の大工育成事業の一環で若手大工を集めた実践研修、若手大工育成プロジェクトの講師と運営を担っています。そこでは技術的な指導はもちろんですが、何よりも自分で考え、段取りと役割分担を決めて作業計画を立てる、そしてその検証を行う事に重点を置いています。作る建物を自分達で考えて図面を起こし、材の加工を行い、実際に組み上げる。それらの工程を小割りにしてそれぞれの作業についてイメージを働かせて作業予定としてアウトプット、そして検証するのを繰り返しています。技術は現場で身に付きますが、計画と実行の壁を乗り越えるには現場以外での学びの場が必要だとの私自身の経験則に基づいてカリキュラムを組み立てています。

建設的思考の体感と経験

そんな研修の中で塾生達が立てる作業計画は大まかその通りに進む事はありません。図面の段階で曖昧なところがあると、刻み(躯体の加工)も失敗しますし、加工が上手くいかなければ組み立てもその後の仕上げも全て狂いが生じます。一般でも「建設的な思考」との言い回しが使われますが、一つずつの工程を正確に積み上げなければまともな建物を予定の工期で収める事は出来ません。そんな当たり前過ぎる原則を実際の体験を通して身に付けるキッカケにしてもらいたいと思っています。毎回、反省ばかりをしてもらうのは少し可哀想ではありますが、経験として計画の重要性を知って貰いたい、そして、理想の職人像を強烈にイメージしつつ大きく成長して貰いたいと思うのです。____________________

建設的思考、原理原則から紐解いて現場価値を高める研修を行っています。

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