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おれは無関心なあなたを傷つけたい 〜浅草キッドとTVから消えた原発MANZAI〜

先日、ウーマンラッシュアワーの村本大輔さんの独演会?に行ってきました。コンビで登壇されるのではないのでもちろん漫才ではないし、かといってお笑い芸人なので講演会ではない。ただ、彼は原発や被災地、朝鮮学校、沖縄の基地問題など、日本が抱える非常に難しい問題をネタにして笑いを取るスタイルということで単なる漫談でもない。考えさせられることも多いし、痛みを感じるシリアスな話題も多いが、最後はキッチリオチをつけて全てを笑いに変える独特の世界を醸し出しておられました。

痛みを笑いのネタに、の衝撃

そもそもTVをあまり見ない、世間の流行り廃りに疎い私が彼に興味を持ったのは2017年のTHE MANZAIで上述のセンシティブだと認識する人が多くいる社会問題をネタにして、最後に考えるべきはお前だ!とカメラに向かって人差し指を突き出した伝説の漫才からです。電力会社が大スポンサーの広告業界、TV等のメディアでは、タブー視されているネタをマシンガントークで披露しているのをみて、やるねー、と、とても感心したのを今もはっきりと覚えています。確か、その時のことをブログにも書いていたなー、と思い返し見返して見たらありました。そこから内容を抜粋すると以下の通り、あれから5年経った今読んでも新鮮です。

村本さんの実家の福井県に原発が4機あるのに夜は7時になると真っ暗、電気はどこに行った!と(発電する地方と消費する大都市の不平等な役割分担を示唆する)ブラック目のジョークから始まって、そこ(福井県)に住むには愛が無いとだめ、という切り口からあちこちの都市や国に住むにはその土地の理解をしているか?問題を知っているか?という導入は卓越しているとしか言いようがないスムースな運びで、最後のオチまでマシンガントークで一気に駆け抜けたのは素晴らしいの一言でした。

福井の次は東京、小池百合子が大切にしていることは?の質問から始まった問題提起は、→都民ファースト→ 希望の党を作った→国民ファーストを目指した→希望の党が負けるとわかった→代表を降りた→結論: 自分ファースト=東京へようこそ!

次は沖縄、沖縄が抱えている問題は?→米軍基地の辺野古移設問題→高江のヘリパッド問題→日本全体の問題→東京で行われるオリンピックは?→ 日本全体が盛り上がる→沖縄の基地問題は?→沖縄だけに押し付ける→楽しいことは?→日本全体のことにして→面倒臭いことは?→見て見ぬ振りをする→在日米軍に払っている金額は?→9465億円→そういう予算をなんていう?→思いやり予算→アメリカに思いやりを持つ前に?→沖縄に思いやりを持て!→沖縄にようこそ!

3箇所目は一昨日まで私も出張に行っていた熊本、 現在熊本の仮設住宅に住んでる人の数は?→4万7000人→東北の仮設住宅に住んでる人の数は?→8万2000人→2020年東京で何がある?→東京オリンピック→何ができる?→ 新国立競技場→いくらかかる?→1500億円→国民はオリンピックが見たいんじゃなくて自分の家で安心してオリンピックが見たいだけ→ だから豪華な競技場を建てる前に?→被災地に家を建てろ!→熊本にようこそ!

現在日本が抱えている問題は?→被災地の復興問題→原発問題→ 沖縄の基地問題→北朝鮮のミサイル問題→でも結局ニュースになってるのは?→議員の暴言→ 議員の不倫→芸能人の不倫→それは本当に大事なニュースか?→いや表面的な問題→でもなんでそれがニュースになる?→視聴率が取れるから→なぜ数字が取れる? →それを見たい人がたくさんいるから→だから本当に危機を感じなければならないのは?→被災地の問題よりも、原発問題よりも、基地の問題よりも、北朝鮮問題よりも、国民の意識の低さだ!→日本にようこそ!という厳しいオチ、真っ当過ぎるくらい真っ当な意見であり、非常にわかりやすいロジックだけにうーんと唸りながら見てしまいました。そして最後に村本さんがカメラに指をさしながら叫んだ言葉は、「おまえらだ!」

伝説のTHE  MANZAI 2017

今回の村本さんの独演会?は彼が新刊を出版した記念と、もうすぐ渡米してアメリカを拠点に活動を始めるにあたって日本から出てしまう前に開催しようということになったようです。イベント参加のチケットと一緒に彼の著書もくっついており、お笑いのネタの背景を綴った本を手にとることになりました。実は、2017年の日本中に衝撃を与え、大きな話題になったTHE MANZAI以来、彼は殆どTVには出なくなり、完全に干された状態になったようで、劇場を中心に活動しながら、全国の問題、課題を抱える地域に足を運び続けてきたようです。不祥事やバッシングを受けたのではなく、自らTVから消えた芸人といえば、キングコングの西野くんやオリエンラルラジオのあっちゃんなど、時代の最先端を走り、芸能プロダクションやTVに縛られない生き方、働き方を模索した「若者のカリスマ」的な人が頭に浮かびますが、私は今の時代、村本さんの方がカッコイイし、長い目で見れば世の中に名を残すのではないか、と素直に思いました。誰も口にしたがらない地雷を踏みつけて歩く人は嫌われることも多いとは思いますが、やっぱり見ていて気持ちがいいし、それを出来ないTVで子供っぽい話題で盛り上がる芸人達は大人になりきれないダサい人に思えてなりません。

浅草キッドで感じたこと

村本さんの独演会の内容は彼の著書に詳しいので興味がある方は是非↑のURLをタップの上、手に取ってご一読いただければと思います。2時間もかからずに読めてしまうボリュームですが、胸にチクチク刺さり、普段、日常の忙しさにかまけて考えることをやめていた問題や課題は決して他人事ではなく、自分自身のこととして向き合わねばならないと思い返させてくれます。そんな彼の話を聞いていて思い出したのは、少し前にNetflixで話題になった劇団ひとり原作のビートたけしの伝記的な映画「浅草キッド」です。今はもう、ビートたけしはお笑い界の枠を超えて世界的な有名人になった芸能界の大御所ですが、元はストリップ小屋で小僧をしながら漫才の修行を始めたのは有名です。その当時の閉塞感に包まれたどん底から抜け出すキッカケになったのは、当時斬新だと話題になったブラックジョークで「赤信号、みんなで渡れば怖くない」などは今も記憶されている方も多いのではないでしょうか?

時代を切り拓いたたけしのパッション

ちょうど、第一次漫才ブームの到来の機運に乗っかって人気者へのスターダムにのし上がった様な印象を持っていましたが、当時のTVで放映するにはツービートの爺さん婆さんを殺して笑いを取るブラックジョークは刺激が強すぎるとダメ出しがあったらしく、自分達が納得出来ないショボいネタでTVに出るか、干されるのを覚悟の上で自信のある毒のあるネタを繰るのかの葛藤の末、あのキツいブラックジョークでの鮮烈デビューに繋がったと、浅草キッドでドラマティックに描かれていました。日本のお笑いの頂点とも言われるくらいのスターダムに上り詰めたのにはその時代の常識を打ち破るパッションがあったのだと今更ながら大したものだと唸らされました。ま、個人的にはビートたけしの喋りが聞きにくくて苦手ですが、、

カッコいいが変わった

時代は常に移り変わり、評価の基準が入れ替わります。そして、イケてる、突き抜けてる人だと評価をされて新しい時代を切り開くのは今の常識を打ち破る人なのは間違いありません。そんな人が出て来たら今の頂点に立っている人が急激に陳腐に見えてしまうものです。今回、TVで雛壇に座ってMCに弄ってもらい幼稚な笑いをとるお笑い芸人を馬鹿にして、誰もが敢えて口にしようとしない日本に在る問題や課題を拾い上げ、問題提起しながらそれを笑いに転嫁する村本さんを私素直にカッコいいと思いました。そしてそれは、彼だけではなく、出会う経営者やその事業を聞く度に、良く儲かっていて社員をまとめている幸せそうな人よりも、アグレッシブに社会の課題解決に向き合い取り組んでいる人をカッコいいと思えるのと通じている様に思います。新しい時代変わる潮目みたいなものを感じたお笑い芸人の独演会、とても良いイベントでした。主催の隆祥館書店の皆様、ありがとうございました。

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職人育成を切り口に建築業界の根本的課題解決に取り組んでいます。

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