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黄鳥、丘隅に止まる 〜新しい学校のコミュニケーション論〜

私が校長を務めている職人育成のキャリア・高校、マイスター高等学院では、国語や数学の教科よりも人間力を養う修身の授業に重きを置いています。学生が卒業した後、社会に飛び出すにあたり受け入れる企業側にどんな若者に来てもらいたいか?と問えば、最も多くの回答は「コミュニケーション能力に長けた若者。との答えが返ってきます。その他には、誠実さ、主体性、礼儀正しい・・・等々、およそ学科とは関係のない能力を欲しています。これまでの学校教育が如何に社会と分断された意味の薄いものになってしまっているかが如実に表れています。
これら、若者を受け入れる経営者の欲する力を一言でまとめると「人間力」となり、私たちの高校では古典を紐解きながら、そんな力を養っています。

生徒は既に知っている

昨日の授業はコミュニケーション概論の1回目でした。コミュニケーションとは何か?との問いから始まり、その必要性や効果性について学生に問いを投げ掛けます。そして返ってきた答えを深掘りして、実際の業務や生活に落とし込み、実践に導くのがマイスター式の授業です。決して、大上段に構えて、正い答えを教えるということはなく、対話の中から本人たちの正解を導き出す、コーチングスタイルでの授業は、彼らは既に知っている。との示唆を与えてくれます。15歳の若者でもコミュニケーションの重要性も、どのようにすれば円滑な人間関係が構築できるのかを知っているのです。しかも、誰もが気軽にAIを使える、情報革命が極まった今の時代、手元のデバイスで調べればあらゆる知見が手に入ります。私たちが偉そうに教えることなど何も無いと言っても過言ではありません。
ただ、知っていること、やること、できること、できていることは全く違う、というよりも天と地ほどの開きがあります。そのギャップを埋めるのが現代の教育の役割だと考えています。

大学に書かれてある当たり前

マイスター高等学院では、人間力を養う授業の教科書として論語と大学を採用しています。まずは大学の冒頭に書かれている「明徳を明らかにする」こと、国を収めるには、まず、自分の身を修めるとの原理原則論を実際の業務や日々の暮らしの中で探求する実践からスタートします。昨日のコミュニケーション概論の授業でも先立って、大学の一節からその導入部分の対話を重ねました。取り上げたのは以下の一節です。

詩に云わく、緡蠻たる黄鳥、丘隅に止まると。
子曰わく、止まるに於いて、其の止まる所を知る。人を以て鳥に如かざるべけんや。

大学を素読するより抜粋

人がとどまる場所の価値

ゆったりと羽を休める鳥は居心地のいい丘の麓に止まっている。止まるべきところを鳥でも知っている、人が知らない訳はないだろう。というのが意訳です。この言葉から、人が止まるべきところとはどんなところか?との問いが立ちます。その問いに対して生徒の口から出たのは「安心で、安全な場所」との答えでした。
人が止まる場所。これが国にしても、地域にしても、会社にしても大きな価値があることは誰でも分かります。では、どのようなところが安心で安全だと感じるかと問えば、諍いがない、皆が仲良く助け合えたり、協力し合えるような心理的安全性が担保された場所だとの答えが導かれ、これを叶えるのがコミュニケーションであり、その授業を今日は行うのだと伝えました。

知ってたら出来る

コミュニケーションの講座が始まる前段階で、上述の人が止まれる場所にするために行うべきは何か?そんな問いに対して、生徒が答えたのは「ハキハキ話す」「言葉がすぐ出る」「笑顔」「礼」「感謝の念」など。そして、これらを常に出来ている状態にするには「常に意識する」「習慣にする」「(出来ている状態が)楽しいイメージを持つ」ことが大事だと知っていました。別段,私が偉そうに教えることなどないのです。(笑)
あとは「知っている」から「出来る」、「出来ている」へとコツコツ練習を重ね、習慣に出来るまで頑張れと、粘り強く私たちも伴走するだけです。私たちが最も重要視しているのは15歳から習慣の力を身につけて、使えるようになってもらうことなのです。

やり方より在り方

15歳の若者でもどのようにすれば、コミュニケーションが取れて、良好な人間関係が構築出来るかを知っています。ただ、知っているだけでは全く価値は生み出せないし、意味もありません。
深く知るべきはやり方ではなく、在り方であり、何故、それを行うのか?何のためにやるのか?との目的や志が明確にならなければ、行動は起こせないし、よしんばやってみたところで続きません。三日坊主では何も変わらないし、何も成すことはありません。
そして、在り方を学び、何のために?との問いを持つには、3000年の昔から学ばれ続けてきた儒学の書、大学、論語をおいて他にはないと思うのです。実社会での経験に基づいた、人の道を熱く語れる。そんな若者を多く輩出する学校を全国津々浦々まで広げていきたいと思うのです。

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ありとあらゆる地域企業が学校になる。そんな新しい教育の在り方を提唱しています。

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