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歴史を変えろ!自分をなめるな! #タレンティズムと事業承継

私は神戸の片隅で女性建築士と、社員大工だけの18名程度の組織の小さな工務店を経営しています。私自身がもともと大工で、創業から20年間、一貫して自社社員の大工による施工と、大工の育成にこだわり取り組んできました。現在、50代半ばになり事業承継の真っ最中で、5年半後、私の引退とともに、これまでの1人代表の組織を改め、大工を中心としたリーダーシップチームによる運営にシフトする試みを行っています。建築業界では前例のない珍しい取り組みと言うこともあり、様々な課題もありますが、職人会社の新しい形を模索する意味でも大きな価値があると私は持っています。今日は職人集団による事業経営の課題と可能性について整理してみたいと思います。

職人に事業経営ができるのか問題

暗中模索の中スタートを切ったリーダーシップチームへの事業承継で一番よく話題に上るのが、「自分たちにできるかどうかわからない」との自信ない発言です。私の理論は、リーダーシップチームの面々には、これまで、現場のリーダーとして案件、プロジェクトごとの経営を任せてきたので、現状の延長線上でそれぞれのプロジェクトを走らせながら、リーダー同士が横の連携をとって全体最適化を図るだけなので、そんなに高いハードルがあるとは思いません。しかし、彼らが毎日現場で作業しながら現場全体の施工管理者の役割をこなし、お客さんの窓口などの営業面にも携わったり、アフターフォローの役割分担が課せられている中で、これ以上業務量を増やすのに対して自信が持てないのはよくわかります。だからこそ、複数人で全体のマネジメントを行えば1人ずつの負担はさほど大きくなくできるはずだと伝えていますが、正直、なかなか腹に落ちた様子はありません。

自己限定と一貫性の法則

長年、上司から指示され、使われる側だった大工が突然、組織全体を運営する経営者になれと言われても、なかなかすぐに自信が持てないのは当然のことだと思います。ただ、時間をかけて知識を身に付け、課題を細分化して少しずつ取り組めば建築のプロが建築会社の経営をするのは決して難しいことでは無いはずで、実際私も手間受けの大工職人からノリと勢いだけで起業して経営者になり、何とか20年事業を継続して来れてますので、もともと私より優秀な彼らにできないはずはないと思うのです。大事な事は、自分は職人だから無理だとか、今までやってこなかったからこれからもできないとか、自己限定とネガティブな方の一貫性の法則に振り回されないことで、そこさえクリアできればきっと、大丈夫だと思うのです。そもそも、この2つの考え方が誰にでも備わっている大きな才能と無限の可能性を叩き潰しており、消去法で職に就くことが多い職人は特にその傾向が強いように感じています。それを打破する意味でも私たちの事業承継の取り組みは意義があると思うのです。

複雑な世界に変わった意味

平成の終わりから多くの識者が頻繁に口にされたり書籍に書かれていたのは、令和になって世界は大きな変化を迎える。これからはこれまでの延長線上にないくらいのパラダイムシフトが起こるとのことでした。VUCA化(不安定、不透明、複雑、曖昧)な世の中になると言われていた通り、コロナによって世界中は分断され、今まで正しかったことが間違ったことに、強かったものは弱者に替わるパラダイムシフトが予定通り起きました。これまでのグローバル資本主義社会は弱肉強食、ヒエラルキー型のピラミッド構造と非常にわかりやすく成り立っていたものが、複雑になると言うのはそれらの価値観がひっくり返ると言う事でもあります。今まであり得なかったことが起こるのがごく当然になり、見方を変えてみれば、名もなき1人の若者が世界を変えてしまう可能性も出てきたと言うことになります。これが誰でも持っている隠れた才能を引き出して最大限の効果性を発揮すべき、とのタレンティズム(才能主義)の考え方につながっています。大工のリーダーシップメンバーが話し合って会社経営を行う程度の事は、ごく当たり前に行う時代背景が整ったと言うことです。

蓋を取り除け、自分を信じろ!

人類最大の発明の1つに「役割」があると言われます。役割を振り分けた上で個々が持つそれぞれの特性を生かして、協力することによって狩猟時代から人類は圧倒的な進化をとげ、個体数を増やし地球上の生物の食物連鎖の頂点に立ち、世界を掌握することに成功しました。産業革命期の「役割」とはまるで機械の歯車のように言われたことを言われた通りに繰り返すことをかのように思われてきましたが、そもそもその「役割」とは誰かに決められるものではなく、人間誰しもかけがえのない1回きりの人生を生きている以上、自分の役割は自分で主体性と責任を持って見い出し、全うするものだと思うのです。どうせ無理、と自分自身を卑下し、コップの中のノミのように自分の限界を早々と決めて飛ぶことさえ諦めてしまうのではなく、俺が歴史を変えるのだ!位の大きく高い志を持って生きてもらいたいと思います。そんな高いセルフイメージを持った人たちの集団がこれからの時代を担っていくと思うし、そうなっていくと信じています。

誰しもが持つ類まれなる才能

経営の神様と言われるドラッカー博士はその著書の中で「組織は最終的にすべてのメンバーが経営者としての自覚と責任を引き受ける課題を達成しなければならない。」と書かれています。そのような目標を達成する入り口は、すべてのメンバーが自分にはその役割を全うできるのだ、との自信と事業を通して世の中を、身の回りの人を良くするのだとの責任感を持つことです。人は誰しも人を思う優しい心と、良きことを行いたいとの良心を兼ね備えており、その心が示すままに行動に表せば必ず多くの信頼を集めることができますし、影響力を広げることが可能です。それこそが誰1人同じものを持っていないここが持つ才能であり、世界を変える、歴史を変える力になると思うのです。

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ものづくり企業の新たな形を目指しています。

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