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大腸がんの術前プレリハビリテーションは術後合併症を減少させるのか


抄読文献

Molenaar CJL, Minnella EM, et al.
Effect of Multimodal Prehabilitation on Reducing Postoperative Complications and Enhancing Functional Capacity Following Colorectal Cancer Surgery: The PREHAB Randomized Clinical Trial.
JAMA Surg. 2023 Jun 1;158(6):572-581.
PMID: 36988937; PubMed. DOI: 10.1001/jamasurg.2023.0198.
大腸がん手術後の合併症を減少させ、機能能力を向上させる多面的予備療法の効果:PREHAB無作為化臨床試験

要旨

【目的】

大腸手術はかなりの罹患率と機能的能力の低下を伴う。手術前の数週間における患者の状態を最適化することにより、これらの好ましくない後遺症を軽減できる可能性がある。本研究では、大腸がん手術前の多動的なプレリハビリテーションが術後合併症を減少させ、機能回復を促進するかどうかを明らかにすることを目的とする。

【方法】

PREHABランダム化臨床試験は、手術後の回復促進プログラムを実施している教育病院で実施された国際多施設共同試験である。非転移性大腸がんの成人患者が適格性を評価され、PREHAB群と標準治療群に無作為に割り付けられた。両群とも標準的な周術期治療を受けた。患者は2017年6月から2020年12月まで登録され、追跡調査は2021年12月に終了した。しかし、この試験はCOVID-19の流行により早期に中止された。

【介入】

4週間の院内指導下でのマルチモーダルプレハビリテーションプログラムは、週3回の高強度運動プログラム、栄養介入、心理的サポート、必要時の禁煙プログラムから構成された。

【結果】

251人のintention-to-treat集団(年齢中央値[IQR]、69[60-76]歳;138[55%]男性)において、206人(82%)が結腸に腫瘍を有し、234人(93%)が腹腔鏡補助下手術またはロボット支援下手術を受けた。重篤な合併症(CCIスコア>20)の数は、標準治療と比較してプレリハビリテーションが有意に少なかった(123例中21例[17.1%] vs 128例中38例[29.7%]、オッズ比、0.47 [95% CI、0.26-0.87]、P = 0.02)。プレリハビリテーションを受けた参加者は、標準治療を受けた参加者と比較して、医学的合併症(呼吸器など)の発生が少なかった(123例中19例[15.4%] vs 128例中35例[27.3%];オッズ比、0.48[95%CI、0.26-0.89];P = 0.02)。術後4週間後の6分間歩行距離は、ベースラインと比較した場合、群間で有意差はみられなかった(リハビリテーション前の平均差15.6m[95%CI、-1.4~32.6];P = 0.07)。術後の機能的能力に関する二次的パラメータは、標準治療と比較して全般的にプレリハビリテーションに有利であった。

【結論】

このPREHAB試験は、結腸直腸がん手術前の多動的プレハビリテーションプログラムの有益性を、標準治療と比較して術後の重篤な合併症および内科的合併症が少なく、術後の回復が最適化されていることから実証している。

要点

本研究は大腸がんの手術を行う患者に対して、総合的な介入を行うプレリハビリテーションが術後の回復を促進させるかどうか、合併症の発症を抑制する因子となりうるかどうかを検討するために行われた。
過去の報告でプレリハビリテーションの術後合併症の発症抑制に関して、肯定的なものも否定的なものもある。本研究の筆者はこれらに対して、症例数が十分でないことが考えられるとしている。
そこで、本研究では大規模研究として企画された。
しかし、COVID-19により、途中で研究を継続することが困難になり、本報告の症例数で解析、検証された。


本研究の介入群(プレリハ群)は、術前4週前の段階で、運動、栄養、心理的介入を行う総合的なプレリハビリテーションを実施することを介入とした。
運動は高強度インターバルトレーニングと、比較的高負荷のレジスタンストレーニングが行われた。
標準治療群(標準群)ではゴールドスタンダードである、ERASプロトコルに準じて行われた。
プレリハ群も術後はERASプロトコルに準じた(と思われる。ここに関しては明確な記載なし)


メインアウトカムである、合併症発症率、6分間歩行距離に関して、重篤な合併症、医学的な合併症の発症率は有意にプレリハ群で低下していた。


サブアウトカムにはこれらの項目が設定されていた。
いずれもベースラインとなる術前4週のデータからどの程度変化したかという変化量にて検討している。
プレリハ群は全ての項目で、術後4週もしくは8週時にはベースライン以上まで改善したが、標準群はベースラインに達しない項目もあった。
6分間歩行距離では、有意な差は生じていないものの、400mを超える症例の比率がプレリハ群で高い傾向にあることを述べている。(検定に傾向はあり得ないことは補足しておく)

結論として、プレリハ群ではメインアウトカムである、合併症発症率が特に重篤な合併症で低下しており、プレリハの有効性が述べられた。
今回は運動だけでなく、栄養の要素、心理の要素など複合したプログラムになっており、特に運動と栄養の関係性は強いものと思われ、お互い交絡となりうることも想定される。

どのように活用するか

令和6年度の診療報酬改定においても、呼吸リハビリテーション料の要件に大腸がんの術前リハも含まれるようになった。
多くのエビデンスがその反映に関して影響を及ぼしていると思われるが、本研究も一つの要因になるかもしれない。
術前リハビリテーションは有効であることが示されはじめており、診療報酬にも反映されていることで、今後導入が望まれる。

しかし、術前4週前から入院することは本邦ではなかなかハードルが高く、介入タイミングが難しい。
本研究では外来プログラムになっているが、本邦では手術をする急性期病院で外来リハを実施すること自体が難しい。
これに関して、外来リハが実施可能な地域の診療所などと連携をとり、術前リハが提供できる機会を作っていくことが課題になるであろう。

その際、本研究の内容に沿うと、高負荷のトレーニングが有効とあり、それを実現するのは本研究でも導入されていたように、心理的なフォローも必要になってくるかもしれない。
これらの点を十分考慮した上で、運動プログラムは組んでいく必要がある。


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