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急性期脳卒中患者に対するスリングエクササイズは亜脱臼軽減や上肢機能改善につながる


抄読文献

Jung KM, Choi JD.  :
The Effects of Active Shoulder Exercise with a Sling Suspension System on Shoulder Subluxation, Proprioception, and Upper Extremity Function in Patients with Acute Stroke.
Med Sci Monit. 2019; 25: 4849-4855.
PMID: 31256191  PubMed  DOI: 10.12659/MSM.915277.
スリングサスペンションシステムを用いた能動的肩関節運動が急性脳卒中患者の肩関節亜脱臼、固有感覚、上肢機能に及ぼす影響

要旨

【背景】

本研究の目的は、急性脳卒中患者の肩関節亜脱臼、プロプリオセプション、上肢機能に対するスリングサスペンションシステムを用いた能動的肩関節運動の効果を検討することである。

【方法】

急性脳卒中で肩関節亜脱臼を有する患者36名を無作為に2群に割り付けた。研究群(n=18)にはスリングサスペンションシステムを用いた肩のアクティブエクササイズを、対照群(n=18)には両腕のトレーニングを40分間、週5日、4週間行った。介入前後のアウトカム評価として、肩亜脱臼距離、肩のプロプリオセプション、Fugl-Meyer評価(FMA)スケール、徒手機能検査(MFT)を測定した。

【結果】

研究グループと対照グループの比較では、介入後のすべてのアウトカムスコアで有意差が認められた(p<0.05)。試験群は対照群と比較して、肩関節亜脱臼距離、肩関節プロプリオセプション、FMAスコア、MFTに有意な改善がみられた。肩関節亜脱臼距離(p=0.001)、肩関節プロプリオセプション(p=0.046)、FMAスコア(p=0.002)、MFT(p=0.007)は、両群間で有意差があり、試験群が有利であった。

【結論】

スリングサスペンションシステムを用いた能動的肩関節運動は、急性期脳卒中後の患者において、肩関節亜脱臼の軽減、プロプリオセプションの改善、上肢機能の改善に有効である可能性がある。

要点

  • 肩の亜脱臼は脳卒中急性期に生じる避けがたい問題

  • 肩の亜脱臼は機能低下につながるだけでなく、関節包炎を生じ、永続的な疼痛を有する事態を招く

  • 予防としてアームスリングで固定するという手段はあるが、それにより直接上肢の機能を制限することにつながることや、歩行時の非対称性を増大させることにもつながる

  • 早期からレッドコードを用いたスリングエクササイズを行うことは、肩周囲の筋活動を誘発し、亜脱臼の予防になるとともに上肢機能の向上にもつながる可能性がある

  • 本研究ではランダマイズ比較試験により、この効果を検証している

  • スリング群にはレッドコードを用い

    • 肩水平外転

    • 肩内・外転

    • 肩屈曲・伸展

    • 肩内・外旋 を実施した

  • 対照群はスリングを用いずにこれらの運動を抗重力下で可能な範囲で実施した

  • 評価は亜脱臼の距離(SSD)、固有感覚評価(SP)、Fugl-meyer assessment(FMA)、脳卒中上肢機能検査(MFT)を使用した

  • 全ての評価において、スリング群の改善度が対照群の改善度に比べて有意に増大していた

  • 今までの報告では、発症4週以降のスリングエクササイズの効果は報告されていたが、急性期における効果の報告はなかった

  • 本研究では、急性期においてもスリングエクササイズを行うことの効果を示し、重力を除去した状態で動作を行うことで、適切な筋活動を誘発することができ、固有感覚の向上も図ることができたと考察している

  • リミテーションとしては、サンプルサイズが小さいこと、単一施設の報告であることといった、選択バイアスに関することが述べられている

どのように活用するか

本研究の結果は綺麗すぎるくらいポジティブな結果となっている。
データは平均化されているとともに、変化量を平均化して、その差を見ていることから、1例1例のばらつきを含めて解析してあるとは言い難い点は注意すべきところである。
その点を踏まえても、結果は素晴らしいものであり、急性期の段階で亜脱臼の変移幅を軽減できていることは着目すべきところである。
もちろん、測定に関してのバイアスは否定しきれないが、スリングエクササイズの有効性は示されている。
レッドコードは特に急性期病院において、導入されているところの方が少ないであろう。その点を踏まえると、本結果を活用できないというわけではなく、重力を除去した状態で能動的な活動を行うということが重要であるという点を着目しなくてはならない。
それに関しては、レッドコードを使用せずとも、直接オンハンドで誘導可能であり、活動を促していくことは可能であろう。
実際、早期からこのような形でエクササイズを誘導してきており、脳卒中の回復過程を促進できた例も経験する。
ぜひ、知見を踏まえて活用していただけたらと思う。
もちろん、急性期でなくとも、むしろ改善を得られる可能性はあるため、積極的に取り組んでいくことも必要であろう。

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