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乳がん治療後患者さんにとってレジスタンストレーニングはどのような効果があるか

こんばんは。

今日は、乳がん治療後、つまり乳がんサバイバーの方に対する論文をクローズアップしてみます。

乳がんの方の身体活動や術後リハビリテーションなどの報告は多くみられていますが、なかなか明確な回答に値するものは少ないです。

この論文も結論は至極当たり前でなんですが、その過程を含めて知見を知ってもらえたらと思います。


抄読論文

Soriano-Maldonado A, Díez-Fernández DM, et al.
Effects of a 12-week supervised resistance training program, combined with home-based physical activity, on physical fitness and quality of life in female breast cancer survivors: the EFICAN randomized controlled trial.
J Cancer Surviv. 2023 Oct;17(5):1371-1385.
PMID: 35314958; PubMed. DOI: 10.1007/s11764-022-01192-1.
乳がんサバイバーの女性における身体適応性と生活の質への影響:EFICAN無作為化比較試験における12週間の監督下抵抗トレーニングプログラムと自宅での身体活動の組み合わせ
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【はじめに】

乳がんの患者さんは年間約210万人の新規症例が生じるとされています。
近年、早期診断と治療の進歩により、死亡率が大幅に減少しています。
カナダでは5年生存率は87%とされています。

生存率が高くなっていることは、多くの中期・長期的な副作用を生じる確率も高くなっているということになります。

一般的な副作用として、リンパ浮腫、疲労、うつ病、骨の問題、肥満などが挙げられます。
副作用だけでなく、併発症状として、肩の可動域制限、筋力と筋肉量の減少、QOLの低下といった項目も見られます。

それらに対して、有酸素運動などの効果は示されているものもありますが、レジスタンストレーニングも効果的であるとされています。
しかし、レジスタンストレーニングを十分に実施した報告は少なく、効果が判定しにくい状況にあります。

本研究ではその点に関して、レジスタンストレーニングの効果を判定することを目的としています。


【方法】

対象は上記の如くで、包含基準として、過去10年以内に乳がんに対する治療を完了した方としています。
この点で、期間も長くかなりばらつきが生じること、選択バイアスが強く生じてしまうことはリミテーションでも述べています。
また、年齢も幅広いため、交絡因子となりうることは頭に置いておくべきでしょう。

介入は、12週間の期間で行い、週2回のレジスタンストレーニングのセッションを行っています。

トレーニング項目は多岐に渡り、以下の内容となっていました。
(細かく解説できずすいません・・・よかったら原文見てみてください😅)


注目すべきは、コントロール群はこのような介入は行っていないのですが、どちらの群にも1日10,000歩以上の活動量を求め、活動量計にて計測して管理していたということです。
1日10,000歩はかなりの量です。
本邦でも健康運動21で7,000歩が推奨されていますが、それ以上です。
ということは、この時点でどちらも活動的な人が集まっているということです。
これはまさしく選択バイアスで、これもリミテーションでしっかり触れてあります。

アウトカムは、メインアウトカムとして筋力の測定を行っています。

上記のような測定を行っています。
また、解析上は全身の筋力、上肢の筋力、下肢の筋力といった具合に、これらの項目を複合して評価している場面も見られます。

それと、肩屈曲可動域、最大酸素摂取量、がん治療疲労機能評価(FACT-F)、抑うつスケール(CES-D)、乳がん特異的QOL評価(FACT-B)、生活満足度スケール(SWLS)を測定しています。

【結果】


メインアウトカムである筋力に関しては、レジスタンストレーニング群で有意に改善しました。
特にベンチプレスやローイングといったプログラムで改善効果が高かったということです。

これは至極当然のことで、レジスタンストレーニングをすると、筋力が向上するといった関係性が成り立ちます。
当たり前のことですが、それが乳がん治療後の患者さんに関してもしっかり生じるということが証明されたことになります。


一方、その他の要因、サブアウトカムの最大酸素摂取量やQOL等の患者立脚型評価の項目では有意な差は見られませんでした。
むしろ、どちらの群もあまり変化が見られなかったということになります。

治療後の期間が長い症例も多いかと思うので、このあたりは良くも悪くも安定している状況なのかもしれません。

【考察】

レジスタンストレーニングはトレーニングの原則に従い、十分実施されていれば筋力の向上が見られました。
これは乳がん治療後の患者さんでも同様に生じ、成果が確認されました。

しかし、最大酸素摂取量などの心肺機能や肩の動きに関して改善することはありませんでした。
これも治療経過から長い患者さんも含んでおり、影響が出にくかった可能性はあります。

どのように活用するか

乳がん治療後の患者さん、いわゆるサバイバーは確かに、治療の進歩や早期発見の促進などから増加していると思います。
それ自体は喜ばしいことであると思いますが、その分後遺症などに悩まれる方も多くなっている可能性があります。

現状、がんのリハビリテーションに関して、退院後外来で行えるところは少ないと思います。
特に乳がんの患者さんに関しては、肩の可動域確保が最重要とされ、その点には配慮するものの、全身的な運動の促進などをリハビリテーションとして行える施設は少ないでしょう。

であれば、どこのステージで関わるか。
入院中に関われないことも多くあります。
そのまま、リハビリテーションに関わることなく過ごされる患者さんも多くいます。

自己流での可動域練習を行う、運動の重要性がわからず、じっと安静にしているといった、経過をとる患者さんも少なくないでしょう。

リハビリテーション職種の立場から、乳がん治療後の方への介入を進めていくことは難しいかもしれませんが、ぜひ医師との協力、施設での問題を改善するといった形で、協力できると良いのではないかと感じています。

レジスタンストレーニングを行うことで、しっかり筋力は向上します。
筋力の向上に伴って、炎症性サイトカインなどの悪液質に対する効果も出るでしょう。
そこに有酸素運動も加わることで、疲労感等への対処にもなり、十分な活動が行えるように、元の生活に戻ることができるかもしれません。

ぜひ、前向きに捉えて、実施する環境がとれればいいかと思います。

今日も最後まで読んでいただきありがとうございます!

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