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伏見稲荷大社で三本足の子カラスを追いかけた話

「趣味は神社巡り」と言い始め、約3年。多くの人に神社と日本の神様を好きになってもらえればと思い、私の知っている神社の魅力を伝えるために書き始めた「神と社記」。

第4回となる今回紹介するのは、京都は伏見稲荷大社。

この記事は、マガジン『神と社記』に追加されています。

「千本鳥居」からスタート

京都の神社に行った。伏見稲荷大社という所で、「千本鳥居」なんて呼ばれている、大量の鳥居が有名の神社だ。実際には1000本と言わず、もっと多くの鳥居があるそうだが、「千本」とはつまり、“大量の”という意味も持つそうで、あながち名称に誤りがあるわけでもないようだ。

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噂の千本鳥居。とにかく全員がカメラを構えて立ち止まるものだから、どうしたって写真の中に人が入って来るのを止めることができない。また人が少なくなった頃に撮ろうか、と諦めて足を進める

さてこの神社は、「稲荷山」とやらのふもとにあるらしく、その山全体を神域としているそうだ。

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伏見稲荷大社全貌。山頂までの道はとても長い

ある京都の大学から「取材に来ないか」と誘われたことをキッカケに、前乗りで(プライベートで)遊びに来ていた身だったので、取材に備えて革靴を履いてきたことをひどく後悔した。前調べもなにもせずにこの神社に向かった時点で自業自得だ。

とはいえ、普段東京では味わうことのできない「山登り体験」に心を馳せた僕は、参拝・御朱印という安定のルートを終えた後、「ええい!」と山の入口へと歩き出した。足のマメができようがそんなの関係ねぇって気分だった。

「ロウソクの火は必ずお消しください」?

さて、何本にもわたる鳥居の間をしばらく歩いていると、気になる看板が目に止まり、立ち止まった。正確にいうと、それまでも何度かその看板は見えていたのだが、あまりにその数が多かったので、「いったい何が書いてあるのだろう」と気になったため、見てみることにしたのだ。

するとそこには、こんなことが書いてあった。

“お願い 最近カラスが火のついたロウソクを咥え去ったのが原因と思われる火災が頻発しております ご参拝後のロウソクの火は必ずお消し下さい”

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なんとも不思議な看板だなぁなんてことを思いながら、あることを思い出した。ここは京都ーー、近くにはあの「下鴨神社」があるではないか。

下鴨神社に行った時の話はコチラ

かいつまんで説明すると、下鴨神社の御祭神は「賀茂建角身命(かもたけつぬみのみこと)」。これは、3本足の大烏「八咫烏(やたがらす)」の化身と呼ばれている神様だ。そして下鴨神社のお土産どころには、「八咫烏になることを夢見る子カラス」なるキーホルダーも売ってあった。

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その時買った子カラスのキーホルダー

これはつまり、この子カラスが八咫烏になるための試練なのではないか。そう考え、胸が高鳴った。

きっと、宇迦之御魂大神(うかのみたまのおおかみ) ※伏見稲荷大社の御祭神 にイジワルしたい八咫烏が、「ふもとから、この山頂にまでロウソクの火を絶やさずに持ってくるのだ~」とか言って、子カラスに修行させているに違いない。そうだ。そうに違いない。

ともすれば、僕がやるべきことは風景を、情景を楽しむことなんかではなく、ロウソクを咥えた子カラスを探すことだ。そう思い、上を向きながら、徐々に汚れていく革靴で一歩一歩山頂に向かって歩き続けた。

数十分後

外灯のない山道は、太陽の恩恵をあまりに受けていたし、頼りすぎていた。何が言いたいかって、時間が経つと、すぐ暗くなってきた。

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しばしの夕焼けを楽しむ。鳥居の朱色が夕日に照らされてとても綺麗だった

辺りが赤くなり、鳥居の朱色がより鮮明になったのもつかの間、そこから暗くなるのは早かった。通常、昇り降りに1時間ほど見ておけばいいとのことで油断していたが、子カラスに気を取られすぎてしまった。

達成感のない登頂

――なんてごちゃごちゃ言っていると、気付かず、足が軽くなってくることに気付く。いつの間にか登り坂は降り坂へと変わっていた。

少し歩みを戻すと、そこにはさっき見逃していた「山頂」と書いてある、本当に小さな、なんとも達成感を感じさせない看板があった。

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もっとわかりやすい看板を設置した方がよさそう

必死に歩いているといつの間にかゴールテープを切っていたことに気づき、「子カラス、いなかったなぁ」なんてことを嘆きながら、ふもとを目指す。

さっきまでの美しさは姿を消し…

頂上付近で少々の休憩をしたのちに歩みを進めていると、案の定、暗闇がだんだんと迫ってきた。

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登りは綺麗だった鳥居も、地獄への入り口にしか見えない

足取りは軽い、が心は重い。風景を楽しもう、とか、子カラスを探そう、とかそんな気持ちはすっかり消え去り、ただ「真っ暗になる前にこの山から抜け出さねば」という使命感が僕の足を突き動かした。

子烏はいなかった

そこからしばらくして、ようやく境内へとたどり着いた。巫女さんも帰り支度を進めている時間帯だった。もしみなさんが伏見稲荷に行くときには、1.動きやすい靴 2.タイムスケジュール に注意して登るといい。

オススメポイントはいくつもあるのだが、強いて選ぶとすれば、夕焼け時の鳥居。そして、夜の大鳥居だ。

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そしてもし、余裕に時間があるのならば、八咫烏を夢見る子カラスの姿を探してみてはいかがだろう。ただし、「空を飛ぶロウソクの火を見やすいから」という理由で、暗い時間に山を登るのはオススメしない。

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生活の中で思わず想像してしまった物語「妄想ショートショート」、

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ヤタガラスとも縁が深い地

今回紹介した「八咫烏(やたがらす)」。

その足跡は、京都にとどまらず全国で見られます。たとえば、「山形県」は出羽三山。

第32代天皇である崇峻天皇の皇子である、蜂子皇子(はちこのおうじ)が約1400年前に開山したと伝えられているこの山。蜂子皇子をここに導いたのも、3本足の霊烏――、つまりはヤタガラスだったのだそうです。

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