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「あるよ」の人がこんなところにもいた :-)

むかしむかし。
アメリカはオレゴン州の、とあるさびれた国道沿いに、ポツンと一軒家のレストランがあるのを見つけました。
今回はその店で出会った、料理人の話です。

その店には、こんな看板がついていました。
「お客様のあらゆる注文に応じます。応じられなかったら、100ドル差しあげます」

「『あるよ』の人みたいだな…」
そうつぶやいた僕は、ちょっとイジワルな気持ちになって店に入りました。
100ドル、もらっちゃおう。

おっと。
その前に、注文を考えておかないとな。
僕は、適当に思いついた「ありえない注文」を、持ち歩いているポケット辞書をひきひき、英語にして書きとめました。

ウェイターがやってきました。
「ご注文は何になさいますか?」
「どんな注文でもいいんですか? 看板見たんだけど」
「はい。この店にメニューがないのが、その証拠です」

「じゃ、遠慮なく」僕は注文を書いた紙を読みあげました。「日本の京野菜のサラダ、旬のもの限定でね。釜揚げのシラスと、油揚げを刻んだのをサラダに散らしてくれる? あと、シーラカンスのチャウダー。それからアフリカ象の鼻のステーキをレアで」

とはいえ、こんなトンデモ注文を僕が英語ですらすら伝えられるわけがありません。
実際には、注文の紙をウェイターに見せながらカタコト英語で伝えたのでした。

平然と紙を受けとったウェイターが言いました。「パンはどうしますか」
「パン? あ、そうか。じゃあ、ライ麦パンをください」

ライ麦パンだけ注文が普通だったな、と思いましたが、面倒なのでそのままにしておきました。
ウェイターは注文の紙を握り、厨房に引っ込みました。

すると、ほとんど間髪を入れず、
「チクショー! なんだと!」
と大声で叫びながら、アゴヒゲの男が厨房から飛び出してきたではありませんか。
どうやらオーナーシェフのようでした。

彼はバン!と音をたて、僕のテーブルに20ドル札を5枚、たたきつけました。
「今日はあんたの勝ちだよ、日本人」シェフは言いました。「だがよく覚えておけ。いいか、オレの店がライ麦パンを切らしたのは、この10年で初めてのことなんだからな」



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