
フグの卵巣の糠漬けは「謎食」だ
筆者は石川県出身で、実家のあたりには
「フグの卵巣の糠(ぬか)漬け」
という郷土食品があります。
毒の強いフグの卵巣を3年間、糠漬けにすると、毒が抜け、珍味になります。
どうしてなのか、そのメカニズムはまだ解明されていません。
解毒メカニズムが不明なため、フグの卵巣は食品衛生法で食用が禁止されています。
例外的に、伝統的にフグの卵巣の糠漬けを作っていたところだけが、製造を認められています。
これを食べるとき、僕はいつも
「3つの疑問」
を感じるですよね。
疑問その1:なぜ食おうとがんばる?
そもそも昔の人はなぜ、フグの卵巣を食べられるようにしたいと思ったのでしょうか。
日本以外のほとんどの国では、いくら旨いからといっても毒があるフグを、あえて食べる食文化はありません。
フグの部位でも内臓は特にヤバい。
つまり卵巣だってそうとうヤバい。
ふつう、
「フグは食うな。百歩譲って卵巣は食うな」
という話になりますよね。
「がんばれば食えるかもしれんから、がんばろう」
とはならないと思います。
僕の先祖は、バカなのか?
疑問その2:なぜ糠漬けに?
糠漬けにしたら毒が抜けると、どうしてわかったのか。
料理の得意な人は、何かを口にしたときに
「あ、これ、セロリをすってまぜたらもっと美味しくなる」
「あ、これ、バルサミコ酢をかけたらもっと美味しくなる」
的なひらめきを持っているようです。
そんな感じで、
「あ、フグの卵巣は糠漬けにしたら毒が抜けるんじゃない?」
とひらめいたのでしょうか?
いや、そんなひらめき、ないない。
たぶん、いろいろ試してみたんでしょう。
焼いて食べてみた→失敗
蒸して食べてみた→失敗
干して食べてみた→失敗
土に埋めてから食べてみた→失敗
…
みたいなことを果てしなく繰り返したのではないでしょうか。
「蒸してみたから、だれか食ってみろ」
「いやオレはヤだよ」
「わたしもイヤです」
「じゃあ、ジャンケンな」
そうして最終的に
糠漬けにして食べてみた→成功!
になったとしか思えません。
疑問その3:なぜ3年?
どうやって3年で毒が抜けると知ったのか…。
「糠漬けにして食べてみた→成功!」
となっても、問題が残ります。
実際には3年間、糠漬けにします。
では3年たてば食べられることを、昔の人はどうやって知ったのか。
これも想像するとちょっと怖いですが、果てしなく試行錯誤を繰り返したとしか思えません。
つまり…
1週間、漬けてみた→失敗
1か月、漬けてみた→失敗
半年、漬けてみた→失敗
1年、漬けてみた→たまに成功
2年、漬けてみた→たまに失敗
3年、漬けてみた→全部成功
みたいなプロセスがあったのでしょう。
おかげで子孫の僕はフグの卵巣の糠漬けでご飯をおかわりできるのですが…。
「1年間、漬けてみた。だれか食ってみろ」
「いやオレはヤだよ」
「わたしもイヤです」
「じゃあ、ジャンケンな」
先祖は、ぜったいバカですね。
和食のことで外国人に質問されるまえに、これやっとこう。
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