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火を囲む 同じ世界で一つになる どんど焼きという祭 #13

 昨日は1月15日、小正月だった。小豆粥を食べて厄除けをする風習があるが、どんど焼きという風習が残るところも少なくない。左義長(さぎちょう)とも呼ばれ、正月飾りを持ち寄り、燃やす行事だ。火を囲みながら、甘酒やお神酒を飲んだり、その火で焼いた餅などを食べるところも多い。年が明けた後の最初の祭りである。

 前回の投稿、「神さまの食事 おせち料理」に書いたが、正月とは家の歳神が来訪する祭りである。その神様にお帰りいただくのが小正月だ※1。したがってどんど焼きの火は、お盆にも行う送り火にあたるのである。地域の道祖神の祭りと一緒になっていることも多いが、正月飾りを燃やす火祭りであるところが、単なる道祖神の祭りとは言い切れず面白い。 


かなり大きな櫓が組まれており、準備の大変さが想像できる
熱意ある自治会があってこそ成り立っている
人が集まれば嫌なこともあると思うけれど、代替わりしても残していってほしい

 昨年度は田植え、稲刈りをし、その米や餅を食べ、刈り取った稲を綯ってしめ飾りを作った。その稲のいく末を見届けたいと思い、どんど焼きには絶対に行きたいと思っていた。しかし周辺地域で開催しているところを探したがほとんどない。唯一祭りとして残っているのは台東区の鳥越神社だけだった。 
 江戸時代は度々大火があったため、幕府によってこの風習は禁止されたそうで、開催が許されたのがただ一つ、鳥越神社のみとのこと。完全に無くさなかった幕府は偉いが、その後他の地域で一つも復活しなかったのは少し寂しく感じる。

昨年手作りしたしめ飾り 田んぼの仲間と一緒にしめ飾りワークショップも行った。


 8日の鳥越神社のどんど焼きは所用で行けず、15日に行われるものを探したところ、多摩川の河川敷で行われるという。二子玉川からバスで10分ほどの住宅街を抜け、河川敷に出ると思った以上に多くの人が集まっていた。
周辺地域の自治会が運営するにもかかわらず、他地域からの正月飾も受け入れてくださるのは、この殺伐とした世の中にあってとても暖かい気持ちにさせられる。

 一通りの挨拶と、神職なしの神事的なことが行われ、櫓を一回りしながら御神酒が捧げられた。しばらく何も起こらないかに見えたが、櫓内に点火された火がやがて煙となって漏れ出し、あっという間に大きな煙の束となって天に上り始めた。赤い火が見えた次の瞬間バチバチと大きな音を立てながら大火となり燃え上がった。20メートルほど離れた私にも、ほんのりと熱が感じられ、心が緩んだ。

 周りでは、寒い中散々待たされた子供達が、もう火がついたからいいよね、と言わんばかりに「ねぇ、帰ろう、帰ろう」と言っていたが、それを言われた大人たちはなんやかんやと誤魔化しながら、そこを動こうとはしない。火に目を奪われた私もその様子を観察する余裕などなく、ただ、火や音の放つエネルギーと美しさ、その野性味あふれる燃えっぷりを見入っていた。

火の力はすごい。消火用のホースで散々水をかけた後の点火だったが、
あっという間に全体が火に包まれた。


 少し火が弱まったので全体像が見たいと思い、土手の上まで行った。そこで思いがけず多くの人が、そこを立ち去らずに見続けていたことに私は感動した。同じ火に魅せられた人達が、同じ「場」を共有していたからだ。その時、その場にいた人たちは、お互いのことを知らなくても一緒にいた。

 これが祭りの役割だ。私たちの心の奥底にまだ残る野性を呼び起こし、その場にいる人たちと一緒になる、それが祭りだ。祭りが多少の野蛮さを伴うことが多いのは、今私たちが生きている、理性や意識でガチガチに固められた世界が、自分達のごく一部であることを思い起こさせ、生き物である我が身を取り戻すためだ。そして自分は決して一人ではなく、大いなる自然やたくさんの人との繋がりの中で生かされていることを確認するためだ。


私の左右や背後にもたくさんの人が見続けていた

 コロナ禍でなければ振る舞われる御神酒や甘酒、お餅があればどんなにいいだろう、と想像した。そこに直会があれば、私たちはもっと場を共有できる。食べ物によってもたらされる「美味しい・暖かい」の感覚は、それを分かち合う人達をあっという間に引き寄せる力がある。

 どんど焼きを見終わって帰るころ、なんとなく清々しさを感じていた。今日、この日から私の一年が始まる、そんな気持ちになった。1月15日は女の正月ともいう。年末年始も多忙を極めた一家の主婦たちが、骨休めをする日だったとか。逆にこの日を境に、新たな一年の戦いに向け「よし!」と気合を入れる日だったのかもしれない。

 来年はぜひどんど焼きの後の直会も経験したいな。

※1 小正月は、新年の歳神を迎える正月とは分けて先祖祭りを行うところもあり、仏の正月とも呼ばれる (柳田國男 先祖の話)

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