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しめ飾りの準備 #3

一昨日の話

 12月の4日にしめ飾り作りのワークショップを行う予定にしている。これは私が主催する、田植え稲刈りのイベントの 総仕上げとなるものだ。

 あまり知られていないことで私も意識したことがなかったが、しめ縄やしめ飾りは、手刈りした稲藁でしか作ることができない。
 最近の稲刈りはもっぱら機械で行うため、刈った瞬間に切断して田んぼに撒いてしまう。そのため、加工品を作れるほどの長さの稲藁を入手するのは、普通に農家を訪ねても不可能だ。

稲を運ぶ娘

 自分達で植えた苗がお米になり、それを刈り取って食卓で楽しむだけではなく、せっかく手刈りするのなら、その稲藁でしめ飾りを作り、新年を迎えたい、という思いが今年はあった。欲を言って餅米も植えさせていただいたので、本来ならそれで餅つきのイベントもやり、来年の新年はそのお餅を使ったお雑煮を食べたい、と思っていた。そんなことができたら、イベントの参加者にとって、大人のみならず子どもたちにとっても、特別なお正月になるだろう。
 私は稲作文化のオタクなので、ことさら萌えるわけだが。

 今年は流行病のせいで餅つきこそ諦めたが、稲藁をください、というお願いについては農家のご厚意を賜り、仕事の合間に田んぼの上で干したものを、わざわざ新宿の自宅まで持ってきてくださった。

 しかしそれを使えばすぐにしめ飾りができるかと言えば、そういう訳ではない。
 きれいなものを選別したり、「はかま」と呼ばれる一番下のところについている葉っぱを取り除いたり、適当な本数で束ねて後ほど扱いやすくするようにしなければならない。自宅でそれを1人でやるのは大変だしつまらない。そう思ってワークショップの参加者に手伝ってもらえないか呼びかけた。 

 2人の友人が子供を連れて家に来てくれ、3人で約3時間をかけて半分の稲藁を整理した。それは思った以上に楽しい作業だった。


「はかま」をとる作業

 ガールズトークと言えば少しずうずうしい年齢かもしれないが(他の二人に失礼)3時間も話せば、お互いの人となりもわかって、会話も打ち解けたものになる。

 次回の「日本人の食と祈り」のzoom放送(テーマはクリスマス)に向け読んでいる本に、「冬の夜の集いは女のものである」と言う記述(注1)があったのを思い出した。これはフランスのアルデンヌ地方にかつてあった風習として描かれているが、冬の夜、女性が集って糸紡ぎをしたと言うのだ。
 語られた話は、将来の結婚のことや昔話のほか、 死者の権利や意志が尊重されないとき、死者の復讐、幽霊が出るという村の場所など、怖いものもたくさんあったそうだ。
 真夜中、解散になり、娘たちが怯えながら帰る中、彼女たちを脅そうと、男性の若者が待ち伏せした、とある。砂糖大根の中をくり抜いて、目と鼻を作り、中にローソクを灯して頭に掲げ、シーツをかぶって脅したそうだ。アメリカやカナダでの、ハロウィン通じる風習の原型かもしれない。

 中学生の頃に母が買ってきた本で、赤毛のアンのお話になぞらえた手芸本があり、美しいイラストやかわいいお菓子、パッチワークの作品が並ぶこの本を何度も読んだ。
 残念ながら掲載されている作品は、中学生には技術的に難しく、ほとんど再現できなかったけれど、印象に残っていることとして、主婦たちが集って一緒にパッチワークの作品を作っていた場面がある。協会の慈善事業で販売するものを作っていた。集っておしゃべりをしながらひとつのものを作り上げているイラストがとても楽しそうで、今でも脳裏に浮かぶ。
 手を動かしながら何かを一緒に作り上げる行為は、人と人とのつながりを強めると私は信じている。

 私が主催する田植え、稲刈りの目的は、コミュニティの形成だ。一緒に作業する、一緒に食べる、一緒に作る、を行うことで、自然と食を通して緩やかなつながりを作っていきたい、と思っている。それがまた、なんでもない日常の、「無事」への祈りにつながっていけばうれしい。

 さて、もう半分残った稲藁の束をいつやろうかな。


束になった半分の稲藁

(注1)サンタクロース伝説の誕生 コレット・メンシャン著 樋口淳 諸岡保江編訳/原書房

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