外国語習得のメカニズムと効率的な方法②【第二言語習得研究】
1月の読書レポートです。
1月は「言語学習の方法」特に「第二言語習得研究」をテーマにいくつか本を読んだので、理解したことを自分なりにまとめて共有したいと思います。
いま外国語を頑張っている人や少しでも興味がある人のお役に立てればうれしいです。(もし専門家の方から何かツッコミがありましたらそれもまたうれしいです)
外国語を使って不自由なく円滑にコミュニケーションを取れるようになりたい人向けです。ノリでいける!という人には堅苦しくて退屈かもしれません。
ものすごく長くなってしまったので、「外国語習得のメカニズム」と「外国語習得の効率的な方法」とに分けています。
こちらは「効率的な方法」編です。(「メカニズム」編はこちら)
外国語習得のメカニズムのおさらい
・外国語習得の土台は「インプット」
言語習得は、インプット(聞く/読む)しているときに起こります。まず文法や単語などの知識・ルールを知っているとインプットがスムーズです。またアウトプットスキルを向上させるのも、実はインプットのトレーニングなのです。
・外国語スキル向上のカギは「自動化」と「気付き」
外国語で理解したり表現するとき、最初は脳のリソースがかなりその処理に割かれてしまいます。これを繰り返しのトレーニングで「自動化」することでスキルが向上します。そして理解できない/表現できないことに対して「気付き」があることで意識的な学習につながり、スキルが向上します。
効率的に言語習得できる学習方法
第二言語習得研究の成果を踏まえたうえで、効率的な学習方法をお伝えします。
まず、言語習得はざっくり以下の流れで進めるのが良いとされます。
ただし、前半を読んでくださった方はなんとなくイメージが付くと思うのですが、正確にはインプットのフェーズでも文法・語彙の習得は必要ですし、アウトプットのフェーズでもインプットが重要です。
単語を全部知る、インプットし終わる、ということはあり得ないですよね。
あるステージをクリアして次のステージに進むというよりは、あるレベルまで到達したら範囲が広がるみたいなイメージです。
ではそれぞれのフェーズのポイントと効果が期待できる具体的なトレーニング方法を見ていきます。
今の自分の実力を見極めて適切なトレーニングを選択しましょう。
●ルール、知識の学習
まず基礎として習得したいのが「ルール、知識」です。
ここで習得する項目には主に以下が含まれます。
・文法
・語彙
・文字
・音声(発音、イントネーションやそれに関するルール)
・用法(自然な言葉の使い方)
・文化(場に応じた言葉の使い方)
最初のステップでは、「日常的で簡単な単語を使った、単純な構成の文章」が分かるレベルまで文法・語彙の知識を学習するのが良いです。
英語で言うと中学卒業レベルですね。
そうすると次のインプットのフェーズで理解できることが増え、単に聞き散らかすよりもはるかに効率が良いということです。
具体的な方法としては以下が有効とされています。
例えば、「have=持っている」というイメージがあれば、「現在完了形はhave+過去分詞」と呪文を覚えなくても「○○という状態を持っている」とすんなり入ってくるようになります。
このあたり分かりやすくまとめられた本や動画がたくさんあったので、興味のある方はぜひ探してみてください。
三人称単数現在の「-s」であれば「 I play → She plays 」の言い換えをするなど、言い換えを繰り返し練習する方法です。繰り返すことで、文法項目の習得を促進する効果があるそうです。
中学でよくやった気がします。
また、インプット、アウトプットフェーズに進んでからもルールや知識は習得しつづけます。
英語の場合であれば、インプットのトレーニングをしながら以下は意識的に学んでおくと良いかなと個人的に思います。
・英語圏の文化(褒められたら謙遜するより感謝する、みたいな)
・音声変化のルール(water が ウォーラーになる、みたいな)
・高校卒業レベルの文法
・TOEIC満点レベルの単語
意識的な学習は、あくまでも大人が効率を重視するのであればある程度まではやったほうがいい、という位置づけです。(正確には、認知力が高ければ意識的な学習が効果的です。明確な年齢の線引きについては議論があります。)
大人でも、派生的な細かいルールなど、学習に時間がかかるようなものは逆に非効率なので、そういうものはインプットから学ぶほうが良いかなと思います。
例えば、「twenty」「Internet」という単語は学校では「トゥエンティ」「インターネット」と習ってきました。でもインプットが増えてくると「なんかトゥエニーって言ってる」「イナネって言ってる」ということに気が付き始めて、自分の中で「 n の後の t は発音しない」という暗黙のルールが出来上がってきたりします。実はこれは音声変化の「脱落」の一種だそうなのですが、知識として学習しなくてもこのようにインプットの蓄積によって分かってくることもあります。
ある程度の知識を仕入れたら、あとは大量のインプットで学んでいきましょう。
●インプットスキルの向上
インプットとは「聞く」「読む」活動を指します。インプットは言語習得において一番重要な活動であり、インプットのトレーニングに一番時間を割くべきと言われています。
英語ならTOEICで850点くらいまではインプットのトレーニングを集中的に行ったほうが良いと思います。
文法・語彙的にも正しい表現を選択できる知識があり、インプットスキル的にも処理の負荷がある程度軽くなれば、次のアウトプットのフェーズに進んでも問題なさそうです。
インプットのトレーニングをする上でのポイントは4つあります。
・8割くらい意味が分かる、または興味のある内容にする
あまりにも意味が分からない場合は、理解するための語彙や文法知識が足りていない可能性が高いのでそれをまず頭の引き出しに入れたほうが効果的です。インプットスキルの向上には、「引き出しに既にある知識を取り出す」ことを繰り返し行うことが有効なためです。
・リスニングとリーディングを両方いっぺんに鍛える
リスニングとリーディングは脳内の同じ回路で処理されるため、同時に鍛えられるトレーニングが効率的です。
・前から順番に理解する
日本語に訳して理解しようとすると、日本語の文章を作るための情報がそろうまで待たないといけないのでその分タイムラグができてしまいます。前から順番に理解することを意識すればスムーズにインプットすることができます。
・繰り返し聞く/読む
繰り返すことでインプット処理の「自動化」ができるようになります。
これらのポイントを踏まえて、以下のトレーニングメニューが有効と言われています。
チャンクとは文章の中の意味のかたまりのことです。スクリプトと音声がある教材を用意して、まずはスクリプトをチャンク読みしていきます。
「日本語に訳さなくても意味が分かる大きさ」(正解はなく、人によって違います)で区切りながら読み進めることで、前から順番に理解することができるようになります。
スラッシュリーディング、という呼び方で聞いたことがある方もいるかもしれません。
音声を聞きながらほぼ同時(0.2秒遅れくらい)にその音声を追いかけて復唱するという有名なトレーニング方法ですよね。
チャンク読みしたスクリプトを先に何度か音読しておくとシャドウイングがやりやすいです。
シャドウイングではまず、音声だけを復唱する「プロソディー・シャドウイング」を行います。これが「音声理解の自動化」のトレーニングになります。
音声についていけるようになったら、意味を思い浮かべて復唱する「コンテンツ・シャドウイング」を行います。これが「意味理解の自動化」につながります。
ひとつのスクリプト(30秒くらい)を1週間やり続ければ、コンテンツシャドウイングまでできるようになると思います。そうしたらまた別のスクリプトを使って同じようにトレーニングします。
これを繰り返すことで、初めて読む/聞くものでも格段に理解の負荷が下がっていくはずです。
●アウトプットスキルの向上
アウトプットとは「話す」「書く」活動を指します。
ここまで来ても、やはり学習の中心はインプットです。アウトプットのトレーニングでは、以下の3つのポイントを意識するとよいです。
・アウトプットのトレーニングは全体の2,3割に留める
肝心のインプットの時間を確保するように、ということですね。
・適切なフィードバックを与えてくれる先生とトレーニングを行う
ただ会話するだけでもアウトプットの自動化という意味では効果がありそうですが、正しく流暢に話すことを目指すのであれば、アウトプットの傾向から苦手な分野を捉えて教えてくれる先生が良いそうです。例えば時制の使い方が苦手そうだ、とか、語彙で困ることが多そうだ、とかに合わせて必要な知識やインプットをアドバイスしてもらうのが良いです。書く場合も同様です。
・間違えても気にしすぎない
一部の言語では文法のルールに関して「習得されやすい順」が分かってきているそうで、それは必ずしも「学習した順」とは一致しません。
例えば英語の三人称単数現在の「-s」はかなり初めのほうに学習しますが、実際に使えるようになるのはかなり後なんだそうです。
なので「なんで知ってるのに使えないんだろう…」と必要以上に気にしなくても大丈夫みたいです。
具体的には、以下のトレーニングメニューが有効と言われています。
書いた文章を先生に添削してもらいますが、答えを明示してもらわずに何度も書き直して精度を上げていくというトレーニング方法です。
どのように間違っていて正しい表現は何なのか自分で考えます。
初めのうちは正確さとすばやさはトレードオフになっていると思います。どちらもバランスよく向上するために、正確さとすばやさを順番に意識して話すトレーニングをしてそれぞれ自動化を促していく方法です。
●動機付け、習慣化
ここまでと切り口が違いますが、「動機付け、習慣化」も外国語習得するうえでとても重要です。
動機は、実利的な動機(話せないと仕事ができない、テストに合格できない等)でも、文化的な動機(映画を字幕なしで見たい、海外の人と仲良くなりたい)でも、どちらでも良いということが分かっています。
その上で、日々の学習にモチベーションを必要としない「習慣化」が重要です。
まとめ
前半では「外国語習得のメカニズム」、そして本記事では「効率的に外国語を習得する方法」をお伝えしました。
最後に全体を通したポイントを簡単にまとめます。
・外国語習得の土台は「インプット」
・外国語スキル向上のカギは「自動化」と「気付き」
・「ルール・知識→インプット→アウトプット」の順でトレーニングすべし
終わりに
めちゃくちゃ長くなってしまいました。
ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。
当たり前に感じることが多かったかもしれませんが、いろいろな学習方法があって迷ってしまう方の参考になればうれしいです。
これをまとめて書き上げる中で私自身、すごく勉強になりました。
この記事では私が重要と思ったことだけをピックアップしてご紹介しましたが、他にもとても説得力のある理論やトレーニングのさらなるポイントなど、泣く泣く載せられなかった内容もたくさんあります。
ぜひ下の参考文献を見てみてください。
言語学習者のみなさま、一緒に楽しんでがんばりましょう~!
参考文献
第二言語習得研究そのものの大枠をとらえるにはとてもいい一冊。
世界中で行われている様々な実験を歴史に沿って紹介している。
根拠や納得感が欲しい人におすすめ。
英語限定。自分の実力の見極め方と、実力に応じたトレーニングの仕方が分かりやすく紹介されている。インプットのトレーニングについて特に分かりやすい。
サクッと読める度はピカイチ。
英語限定。専門的な内容もありながら、かなり読みやすい。
「マンガでわかる!」に比べてアウトプットのトレーニングについて詳しく記載がある。
とても読みやすい本ばかりなので、おススメです!
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