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【日記】カップケーキの初恋

お菓子作りの原体験は、小1で作ったカップケーキだった。
カップケーキといっても、ミックス粉を牛乳をマグカップで混ぜて、レンチンするだけの簡易的なやつ。
買ってもらった切欠は思い出せないけど、簡単な手作り経験をさせてあげよう、という母の食育の一環だったのだと思う。

マグカップにミックス粉を入れて、
母の量った牛乳をタポタポ。
スプーンで混ぜ混ぜ。
スプーンを取り出して、そのままレンジへ入れる。

ーこれが本当に、ケーキになるの?

においは無臭。
マヨネーズより、ちょっぴり柔らかい液体。

このドロドロとした液体が、レンチンだけでふわふわのスポンジになるなんて、子どもの想像力では到底信じがたかった。

(旧型のレンジは大体その設計だったのか)透明な皿が回転するのに伴い、中央のマグカップもオレンジの熱を浴びながら回転していた。
ゴウンゴウン、と振動する扉の向こう。
影を伸び縮みさせながら回転するマグカップの様子をじっと見つめていた。

その数十秒後。
マグカップの淵から、雲のように膨らんできたスポンジに、言葉を失った。
ふんわりと、甘い匂いが立ち込める。
信じられなかった。

ーあの無臭の液体が、レンチンだけでケーキになった…!?

チン。
静かになった扉を開けると、マグカップから零れ落ちんばかりに膨れ上がったケーキから、濃厚な甘いと湯気がぶわりと立ち込めた。

粉と牛乳を混ぜただけの液体でも、ふわふわのスポンジができる。

これが物心ついた頃の、初めての感動だったかもしれない。

大人になった今も、たまにお菓子を作る。
あまり凝ったものは作れないし、プロの作るお菓子を食べた経験のある今は、素人の自分が作る限界を実感することも多い。
そもそも、あの時作ったマグカップのケーキだって、底は生のままでちょっと粉っぽくて、今思えばあまり美味しくなかったのかもしれない(雑に作っていたのが一番大きな原因だ)。

買った方が、安くて美味しい。
それでも、くたくたになりながらも挑戦したくなるのは、あの原体験の感動がいつまでも脳裏に焼き付いているからかもしれない。

ー初恋みたいな、思い込みのバグだな。

スーパーでミックス粉を眺めながら、なんとなくそう思った。


マンガ「食戟のソーマ」の
「女王さまの林檎タルト」挑戦時

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