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由比ヶ浜

 ありうべき私の生活とありうべき私の故郷。そんな事を考えながら海岸を歩いた。
 春先の由比ヶ浜はまだ人出もなく閑散としていた。冬に神奈川に越して来たばかりだが、由比ヶ浜は意外とそばにあり、海岸まで足を伸ばした。
 ありうべき私の生活とありうべき私の故郷。もう一度思った。そのイメージはあるが、そんな簡単に私は、そして私の環境は変わるのだろうか。ご時世は変わり、すんなりとハラスメントはあたかもなかったかのようになった。人間は変われるらしいが、彼等はきっと何かの「変身の薬」でも持っているのだろう。分けてもらいたいものだ。
 私の生活は解像度が低い。順を追って話すようなものでもない。ただただバラバラに印象があり、多少重なり合い閉じた世界を成している。それが頼りないものであるのはよく分かるのであるが、ありうべき姿は手元にあるようで霧をつかむように手応えがない。
 故郷の茨城にも海はある。大人になるまで暮らした茨城で、もっと違う生活もあったのではないかと思うが、すべて思い出すのは自分のいたらなさである。そこまで器用に振る舞えたとも思えない。自分の人生にオカメハチモクになる事ほど難しい事はない。ただ眼前の海をみながら私の心は思い出を繋げた。


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