伝統文化領域でのコモンズ作りの可能性が見えてきた ーオランダの経験と『社会のなかのコモンズ』の読書から思ったことー

現在、伝統文化領域で一つ、サービスを構想していて、そのヒントになるのがコモンズという概念だと思っています。以下は『社会のなかのコモンズ 公共性を越えて』を読みながら、考えたことのメモを書いています。19年の6月のオランダ滞在中には、コモンズにまつわる複数のプログラムに参加してきました。コモンズについて考えることはとても重要だという直感が働いたので、調べていっています!

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”コモンズ概念の持つ魅力は、国家による中央管理か、さもなければ私的所有権への分割かという二者択一を超えて、資源の共同管理の新たなる可能性を示している点にある” (『社会のなかのコモンズ 公共性を越えて』)

オランダ滞在中のプログラム群に参加していた際にヒエラルキー構造の変化についての話をよく聞きました。国家や大企業などの、これまで影響力を発揮してきたヒエラルキーがしっかりした組織群。それに対してフリーランスや小さなチームで動くスタートアップなどが影響力を持ち始めている現状があると思います。“インフルエンサー”と呼ばれる人たちは、その象徴ですね。オランダでは、大きなヒエラルキーと小さな世界のどちらか一方ではなく、その間に位置するようなものを作っていくことを考えている人たちとたくさん会いました。

公共機関が作ってくれるという考えから、私たちも作るへ

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たとえば アムステルダムで開催された WeMakeThe.City という街を作ることがテーマのカンファレンスの Common Ground というプログラムに参加した時には、街の公園の活用についてのプレゼンテーションと積極的な議論が展開されていました。その事例はオランダのものではなく、たしかブラジルの事例だったと思います。公共空間の「公共」とは何か?ということが問い直され、そこから公共と個人という枠組みの間のグラデーションを形にしたような組織作り、活動作りについて話されていました。

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ブラジルの事例では、このような問い直しが起こる背景には、行政が管理していた街の広場が、長らく使われていない状況が続き、その広場の使い方を変えていこうという流れに発展していったらしいです。

その際、戦略として取られたのが、街の意見を吸い上げていくこと。これまでの広場のあり方に人が感じていたのは、街の広場を作るのは行政の仕事であって、それを市民は使う立場にあるという認識でした。そのような認識のもとでは、当然その広場の活用に積極的に入っていくということはありません。ちなみに街の意見を丹念に聞いていく時に、アクティブにヒアリングに応じてくれる層だけではなく、サイレントマジョリティの声を大切にしようという話がされていましたが、すごく大事な観点だと思います。意見を聞かせてくれる人だけが広場を使うのではないですから。

話は Citizenship作ること(Create)の権限に話が及びました。

市民は広場を変えていけるとは思っていませんでした。公共の街の広場がうまく機能していないことに不満を持ちますが、その広場を作るのは行政の仕事だと思っているので、それ以上動くことはありません。

しかし時代が流れ、その状況が変わりつつあるんでしょう。ヨーロッパでは市民意識の高さをオランダで如実に感じたのですが、大きな行政や大きな企業がなすがままの世界を生きるのではなく、市民自ら Initiative(この言葉もオランダ滞在中に本当によく出てきた)を取って、自らの力を解放しながら公共空間に関わっていこうという流れが増えてきているように感じました。

既存の権威(ここでは行政など)は、依然としてお金、人の組織力という観点で影響力を持っています。ただ、だからといって、市民がその決定の言いなりになっていくわけではないのでしょう。これまで抑圧されていた(というか、抑圧的にしらずしらずのうちになっていた)状況から、ポテンシャルが解放されていくようにトランジションが起こってきているのではないかな?と思いました。

あくまでこれは権威が悪者であるわけではありません。あくまでそうなってきただけです。市民の力が大きくなると、またどこか抑圧されていく人が発生して、その人たちが権利を獲得するために動いたり、社会的な運動が起きていくということが考えられます。権威は流動的に移り変わっていきますし、誰が悪いのだという思考の仕方から、ともにより社会をよりよくしていくにはどうしたらいいのかという関わりのあり方を模索していく方が健全だと思います

Common Ground というプログラム以外にも、このコモンズ的な公共空間についての議論に入ることがたくさんありました。これまでの既存の権威の影響を受けつつも、それに対して個人(や市民)の発想を形にしていくことができる領域が増えることの需要は大きくなっていくだろうなと思います。( Co-Creation はますます大事になっていくのではないでしょうか! )

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他のコモンズのプログラムの様子1 @Border Sessions

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他のコモンズのプログラムの様子2 @Border Sessions

また、コモンズの議論の中でよく扱われるのは「ガバナンス」をどうすべきか?ということでした。ガバナンスとは簡単にいうと、共通の資源を枯渇させずに育んでいく具体的な方法やコモンズに関わる人のルールといえばいいでしょうか。ガバナンス無きコモンズは枯渇してしまいます。

たとえば今のスピードで使用していけば石油があと数十年で無くなるとします。そのような状況では、石油をどのように扱っていくかを話し、そこにルールを設けることによって、枯渇を防ぎ、より地球資源に配慮した仕組みを構築していくことになります。

現地で会ったオランダ人でコモンズに興味を持っている方に聞くと、コモンズは Hot Topic というほどではないけど、少しずつそれについて考える人が増えているよ、という認識みたいです。

日本でコモンズの議論をよく聞くようになる未来も近いのかもしれないですね。(もちろんこれまでもコモンズの議論はおこなわれてきているし、すでにコモンズ的な取り組みは増えてきています。)

過去の知恵を活かすのであって、過去に戻ることはできない

コモンズの話でよく出てくることの一つに、近代資本主義、があります。私たちは近代資本主義の中で得てみたものがたくさんありますが、逆に失ってきたものもたくさんあるのでしょう。コモンズの一部の議論では、近代資本主義前のあり方に戻ろう! というものもあるらしいです。

これをたとえばお寺のフィールドで考えてみると、お寺にはたくさんの機能が昔はありましたね。たとえばその機能は教育(寺子屋)、福祉的機能、人を紹介する機能、さらには橋を作ったりする社会事業を営むお坊さんたちもいたようです。

近代資本主義の影響、それが日本で強くなったのは西欧化の波が大きくなった時でしょうから、明治時代になってから、お寺の機能は資本主義社会におけるサービスに立ち代わって外に流れ出していってしまったのではないでしょうか。また明治政府の政策によって、廃仏毀釈の取り組みでお寺さん方が大きな影響を受けたことや、さらには宗教と教育を切り離した国策なども影響が大きいと思います。

そして現代、多くのお寺がお葬式を行うという機能は持ちつつも、過去に保有してきた機能を置き去りにしてしまいました。それを取り戻そうとする人たちはたくさんいます。それは素晴らしい取り組みで、事実、新しいお寺の形だという言われるお寺さんたちは、お葬式だけではない機能を持ち合わせた(半)公共空間を整えていこうとしています。

しかし、もう時が流れてしまって、明治以前には戻ることはできません。現代は現代の資本主義の台頭や情報世界の発展に合わせたお寺のあり方を構想する必要があります。元に戻ろうという議論ではなく、これからどうしていこうかという未来の構想に、たまたま明治以前のコモンズのあり方を省みて、その知恵や技術を作っていこうとする、ということが成り立っているだけです。

昔がよかったという後ろ向きの守りの姿勢ではなく、過ぎたものは二度と戻ってこないという前提で考えていきたいなと思います。

公開性と透明性

コモンズについて考えていくにあたって、どのような観点を意識していけばいいのかを改めて読書中の本と参加したプログラム群から考えてみると、このような点を挙げることができました。

コモンズを支えるコミュニティやネットワークの公開性や透明性とメンバーシップ:コモンズは多くの利用者や関係者に開かれたもの。一方で、守るには一定のメンバーシップを持った人たちの協力が不可欠。公開性と透明性を、一定のメンバーシップによるある種の閉鎖性とバランスを取るのかが重要な観点になってきます。

オンラインサロンというのも、コモンズ的なものですね。しかし、現代のオンラインサロンは◯◯さんのサロンという所有を感じさせるものがとても多いと思います。

個人の影響力に裏打ちされた人の集まり方なのでしょう。これらのオンラインサロンがどのように持続可能なものになっていくのか、つまり時代を超えて成り立ちうるものになっていくのかという観点でいうと、個人の影響で回るモデルから昇華して、個人のエゴシステムから、(半)公共性のあるエコシステムに移行していくことが重要になるのだと思います。

※もちろんオンラインサロンを否定しているわけではありません。一代で終わるのもまた、それはそれでいいですね。

コモンズを作っていく

さて、オランダの旅を通して、コモンズの議論に触れることができ、自分自身のコモンズを作りたい欲がいい感じに刺激されました。ただ、何もオランダに行ったからコモンズを作りたいと思い始めたというよりも、これまで日本にいた時にも潜在的にコモンズのようなものを作りたいとは願っていました。実際にその流れが大きくなってくるであろう世界の流れを見ることができ、自分自身に取り組んでOKだと言うことができた感じです。

私が取り組んでいこうと思う領域は、日本の伝統文化のフィールドです。現在、神社・お寺・老舗企業、文化ビジネスの企業の跡取りとして生まれた知り合いたちと、「継承」をキーワードに集まり始めていますので、そのご縁は大切に育てていきたいと思っています。東京に限らず、オンラインの活動をベースとしていて、Trans-local なネットワークと、そこから作っていくことができる社会資源の構築を進めていっています。

伝統文化領域はある意味、これまでに作られてきた組織の枠組みがスタートアップの世界とかと比べると強固だったり、(家元とかお坊さんとか)影響力を持つ人たちが家柄や血筋に左右されていたり、いろいろと人の移動や新しい実験が起こりにくい領域だと思っています。社会の中でいうと、既存の権威に割り当てられそうなところが多そうです。その領域と関わりを持ちながら活動していくためには、過去の既存の権威との関係には特に意識を向けていかなくてはいけないと思っています。

だからといって、そこの領域のはしくれとして生まれて、ただ単にこれまでに構築されているヒエラルキーのシステムにただ入っていくということにはとても抵抗があります。だから私もあえて「継承」という言葉を掲げているわけなのですが。オランダの事例たちを見て思ったのは、既存の権威と個人との間の半公共空間を改めて作っていきたいという気持ちが強いです。

そこで、伝統文化領域の人たちが集まるコミュニティを作っていくことと、伝統文化領域の智慧をこれまで作られてきたものを破壊しない形で、再度公共的なものとして扱うことができるようにしてみよう、と現在考え取り組み始めています。

具体的にやってみようと思っていることは二つあって、伝統文化の継承の智慧を言語化・可視化していくCultural Sustainability Cards(仮)の製作継承者・継承候補者・文化の担い手の方々がそれぞれの継承のストーリーを書いていくことができるオンライン上のWEBアーカイブプラットフォームの制作です。これらについてはまたアイデアを深めながら、そして、制作しながらその過程をnoteやFBで紹介していきたいと思っています。

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製作するカードのイメージはこんな感じです。伝統文化の継承にまつわる暗黙知をインタビューを通して引き出していき、多くの人が活用可能な形に落とし込み、それを販売していきます。売り上げが出た場合は、インタビューに貢献してくれた伝統文化の担い手の方にも還元します。

コミュニティでは、これまでの伝統文化の流れに小さな違和感を感じていたり、伝統文化の領域、そして社会に対してよりよい変化を生み出していきたい 伝統文化関連の人たち が集まることができるようにしていきたいです。物理的な場所もいつか作れるとイイね!

デジタルと現実のコモンズ作り、そしてそれに出入りする人のメンバーたち。見え始めた未来を形にしていくために、手足を動かして活動していこうと思います。

コモンズについてのメモでした。まだまだごっちゃりしていますね...笑

わかりやすくキャッチーに、少しずつ咀嚼しながら考えを深め、少しずつ形にしていきます...🙌

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