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【制作日記】 由布院の景色に抱かれて、縫う

外で縫うのがとっても心地よい。

この数日、起きたら、由布院の町に出るようにしている。お宿に借りた自転車に乗って、長く長く続く坂道を下っていく。時折田んぼを通り過ぎたり、建物が連なっている横を通り過ぎたり、ジェットコースターのような時間。登るのに時間がかかる道も、下り坂で勢いがついた状態なら、あっという間で、頭を風に吹かれてクシャクシャっとなる。

まず、ここで縫うと気持ちいいかな?と自転車でそのあたりを巡る時間がとっても良い。これが大事なんだよな。由布岳がいい感じに見えるところ、人通りの多さ、川の近さ、など。身体がピンとくるところを探して、ゆらめく。いい感じのところを見つけたら、そこに座ってみる。座っていい感じであれば、縫ってみる。いい感じの所で縫いたいもんな。外は風が通るのもいい。風は受け放題。通り放題。適量だったらそりゃ気持ちいいもんだよ。

縫っていたらアリが登ってきたね。ハエが登場した時には少し困ったけどさ。外だもん、いろいろいるよね。近くの川の水の流れはいつも通り気持ちがいい。色は透けていて、綺麗そう。休憩する時に川の方に行ってみる。大きな段差があるけれど、えいと飛んで、川の水面から少しだけ上に出た枯れている植物の上に着地する。そこで履いている地下足袋と靴下を脱いだ。足の裏に植物が少しこそばゆい。その足を川の水の方に進めて、水に触れる。冷たいけど、冷たすぎるわけじゃない。ズボンの裾をまくって、深い方に歩いてみる。川底の泥が攪拌されて、広がる。足を進めると、また泥が広がる。泥を踏んだ時の少しだけぬかるむ感じ。後で足を洗えば大丈夫。水中の中に気泡が溜まっている。気泡をキャッチしているのは、みたことがない苔か、何か。植物であることは間違いないけれど、何なのかわからない。上を歩いてみたら、泥と違って、プチプチしている感じがした。

ひとしきり川で遊んだ後、また縫う作業に戻る。縫っているうちにたくさんの虫が鳴いていることに気づく。鳴き声も様々で、ピヨピヨ鳴いてるやつとか、めっちゃ可愛い。リリリリリと鳴くやつもいるね。吉野とかにいるギギギギギ?というけたたましい音で鳴くやつはいなくて、耳障りが柔らかな虫たちだと思った。

ひたすらに縫っていく。時間の感覚が無くなる。携帯ももってきていないから、時間を気にする必要もない。

「太陽がまだ高いな」
「太陽が少しずつ下がってきた」
「気温が下がってきた」

とか、そういう感覚的な変化を楽しむ。

現在作っていこうとしている自由布の制作はとっても少しずつしか進まない。今日、その素材になる正方形の布を13枚作った。大量に生まれるわけじゃないけど、縫うと生まれてくる。頂いた布があってこその制作の時間、とっても有難い。気持ちが病んだ時には、1枚だけでもいいから縫って、調子がいい感じの時にはコンスタントに適量をつくる。無理せず、心地よく。風通しの良い作品に成長していくことを願って、風通しのよい環境を探して、縫おう。

頂いた布。受け継いだ布。大切に一つずつ仕上げていく。一つ一つが大事なもの。布を縫うための糸は、その布の端をピーッと引っ張って生まれてくる。それらは古布だから、糸は力を入れて引っ張るとすぐ切れちゃう。切れないように、繊細に。針に糸を通して、布のテンション(張り具合)を上げずに、自然な面になるようにする。力加減はとっても大事。

外で制作して、坂を登って、宿に帰ってきて温泉に入る。この黄金ルートが開通してしまった。温泉に入る頃には夕方になっていて、湯船に浮かびながらみる景色は少しずつ暗くなっていく。その時はちょうど由布岳に夕陽が当たって、その姿がとっても綺麗で仕方ない。空が晴れている時には、夕暮れの空と由布岳が抱き合うようにセットになって、これまた素敵な時間になる。

これだよな、人生。

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