『物理学レクチャーコース 熱力学』で熱力学の本質を理解する
物理学レクチャーコースは、書籍ごとにカバーの色が異なります。
2023年11月末に刊行した『熱力学』は、「熱だし、やっぱり赤でしょ」ということで、真っ赤なカバー。
今回は、本書の特長をお伝えしたいと思います。
(同時刊行した『相対性理論』の記事は、こちらからお読みいただけます。)
主役はエントロピー
本書の特長は、ゆっくりと章をたどっていけば、エントロピーの意味が自然に飲み込めるように書かれていること。
熱力学の書籍には様々なスタイルがありますが、温度からはじめるスタイルや、「エントロピーありき」ではじめるスタイルの長所も生かしながら、腑に落ちる説明の仕方が追及されています。
本書は、1999年にエリオット・リーブとヤコブ・イングヴァソンの論文で示された「論理構造の明確さを追求した(公理論的)熱力学の記述法」の影響を受けて執筆されています。
この論文で強調されたのは、ニュートン力学でお馴染みの「力と仕事の関係」だけで捉え切れる変化(断熱遷移)に着目して、どんな変化が自然界で許されるのかを実験的に調べたときに、その結果を(ものの価値に値段をつけるように)序列化するための数値がエントロピーである、ということです。
少し言い方を変えてみましょう。
自然現象の変化のルールは、エネルギー保存則だけでは不十分です。
これだけでは、現実にはありえない変化も許されてしまうからです。
そのため、「そんな変化は絶対起きませんよ」というルールがもう一つ必要なのですが、そこに登場するのがエントロピーなのです。
本書では、この見方の背景と意味が丁寧に示されています。
抽象的な話で難しい?
エントロピーは抽象的な物理量なので、イメージが湧きにくいところがあります。そのうえ、高校で学ぶ熱力学となかなか結び付かないので、難しそう! と思っている方も多いのではないかと思います(担当編集者もそうでした)。
そこで、本書を執筆していただくにあたり、著者である岸根先生にお願いしたのが「エントロピーを主役にするスタイルの書籍の中で一番わかりやすく、そしてエントロピーを身近に感じられるように書いてください」ということ。
岸根先生は、この難しい注文に見事に応えてくださり、多くの具体例や問題を入れて、1つずつ丁寧に追って考えていけば理解できるようにしていただきました。
ぜひ、時間をかけて、じっくりと取り組んでいただきたいです。
とはいっても、やっぱり難しい
わかりやすい本です! ということをお伝えしましたが、そうはいっても、熱力学を全く知らない方が初めて読む本としては、少し難しいかもしれません。
でも、本書を難しく思った方も心配しなくて大丈夫です。
現在、岸根先生には、理工系学部の初年級向けとして、熱力学第1法則、第2法則、…という展開で進む、温度からはじまる歴史的な順序の『熱力学入門』をご執筆いただいております。
この『熱力学入門』では、歴史的な順序ではなく、なぜ本書のようなスタイルで学ぶべきだと考える人が増えてきたのか、その理由なども解説していただく予定です。
皆さまに刊行のご案内ができるまでは、もう少し時間がかかりますが、こちらも楽しみにお待ちいただけると幸いです。