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podcast みみ騒ぎに恋してる Season2 Ep,7 [東京少女 / リュックと添い寝ごはん]

この番組はSpotifyで視聴できるようになりました!



文字コンテンツとしてもお楽しみいただけるよう、上村翔平作の短編小説としてnoteに投稿していきます。
テーマとなる曲を聴きながら、お楽しみください。

引き続き、皆様に楽しんでいただけるように、色々と取り組んでいきたいと思います。ご意見ご感想、そして妄想リクエストは#ミミコイを付けてTwitterにPostしてください。

今週の妄想曲

東京少女 / リュックと添い寝ごはん


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僕の心の中に、男性性と女性性という二つの心がある事を最近知った。

それは最近やけにスピリチュアル論者と成った地元からの連れ、タクヤから聞いた話だった。

なんでも、男性性とは目標を具現化する為に必要な心。だけど外見やステータスの鎧を着飾りたくなるのが男性性が持つデメリットでもある。

逆に女性性とは内なる心の声の事。
魂レベルで本当の喜びを実現させたいと願う心の事らしい。時にワガママで人に迷惑をかけてしまうこともあるのが玉に瑕(たまにきず)でもある。

なんとなくそんな風に理解した。

とにかくその二つの心のバランスを取ることが大事らしい。

18歳、高校を卒業してタクヤと共に上京した僕は世界一のダンサーを目指していた。

某ダンスアンドボーカルグループのオーディションを受け、良いところまで行ったものの芽は出ないまま10年が経った。

その頃、バイトしてた居酒屋の常連客"錦戸さん"から不動産屋へとヘッドハンティングされた。

背に腹は変えられない。

ダンスを辞める理由はいくつも見つかった。

彼女と同棲していたし、長男でもある僕は実家の家族の面倒も将来看ることになっていた。

それに、バイトするより数倍も給料も高く、憧れの外車だって手に入れられた。

そして3年後、31歳にして独立。

見事に青年実業家へと僕は成長した。

2021年、秋。

朝から雨が降っていた。

タワーマンションの地下駐車場、憧れだった外車にエンジンをかけると爆音が反響した。

ビーン(携帯のメール通知音)

久しぶりにタクヤからの連絡がきた。

『おーす!久々ー!飯行かない?』

会食も無く、約束も無い日は何年ぶりだろう。

タイミング良く、タクヤからの連絡。

会いたくなった。二つ返事でOKした。

季節変わり 時は流れ
町も変わってゆく だけど僕ら生きているから 愛しいな

今日は一日仕事が手につかない。

得意先とのランチもいつもの営業スマイルに淀みがかかる。

タクヤと夢を追いかけた日々が脳裏にフラッシュバックし続けた。

あのまま諦めないでいたら?
踊り続けていたら? なんて。

たらればだけ増えていくなら
今からでもいいよ
できることは少しだから
ゆっくりいこうよ


心の声が何処からか聞こえた。

20歳に憧れ いろんな事を考えて
時に寂しくてさ 今を追い続けている

仕事終わり。

車は地下駐車場に置いた。

今日は電車に乗ろう。

あれだけ嫌だったはずの電車なのに。

乗った電車は横浜・みなとみらい行き。

六本木の自宅からはタクシーで往復3万円の距離。

今の自分には余裕で払える額だった。

日比谷線から中目黒経由で乗り継いだ東横線。

満員電車、皆片手のスマホを覗き込んでいる中、僕だけが窓に映る懐かしい景色のスクリーンを眺めていた。

上京してずっと住んでいた街を通る。

諸行無常。
変わらない景色なんて無い。

団地が立ち並んでいた場所には都市開発によって低層高級マンションとモールが出来ていた。

瞳を閉じる、夢を追いかけたあの頃の自分が見つめ返してきた。

少し怒ったような、哀しげな表情。

どうして君は悲しそうなの?
今僕はこんなに幸せに囲まれて生きているのに?

質問を投げかけた。

踊りたい。踊り続けたい。なんで?どうして?

言葉は聞こえないが、表情から声が伝わった。

何気なく、ごめん。ごめんね!と繰り返した。

踊りたかったね。そうだったね。忘れてたよ。
これからはもっと声を聞くからね。
無視してしまっててごめん。

そう伝えると20歳の頃の自分は笑顔でフワッと消えていった。

『まもなく〜みなとみらい』

アナウンスで我に帰ると人波に促されるままにホームへと出た。

夢見る東京少女 いつか風に乗れ
土砂降り雨でもさ 私らしく生きていくのさ
明日を見つける旅に出ようかな
そんな事考えるたび 町は老けてゆく

みなとみらいに着くと改札の先に太った髪の長い青年が待っていた。

『やっほー!元気しとったー?』

やはりタクヤだ。

身の上話をしながら歩くと予約していたイタリアンに着いた。

グラスを交わし、出てきた料理をもの凄く美味しそうにタクヤが食べた。

僕はというと、、、、

『なんね!美味しくなかと??』

間髪を入れず、タクヤが質問を投げかけた。

『いやいや!美味いよ!ただタクヤがスゲー感動するほど美味いって感じなくなってきてる自分がいてさ。』

『お前さ、魂が死んどるね!』

笑いながらタクヤが伝えてきた。

僕は何を思ったか今日一日の出来事、つまり仕事をしてても楽しくなかった事、そして電車での出来事をタクヤに話した。

タクヤはウンウンと真摯に頷きながら答えを差し出してきた。

それからの話を要約するとこんな感じだ。

人は生まれながらにして魂というものがある。

そしてその魂の中には男性性と女性性というものがある。

女性性の心を男性性の心は喜ばせる為に生きている。

つまり女性性が発した内なる声を聞いた男性性がそれを具現化していくのだとタクヤは言う。

しかし男という生き物は生まれつきその声を無視してステータスばかり気にして突っ走る傾向にある。

今の僕はそのバランスが最悪で、女性性の声を無視し続けた結果、魂が死にかけていて何事にも感動出来なくなっているらしい。

なんとも難しい話だが、今日の出来事と照らし合わせて納得が行った。


ああこのままではダメじゃなくて
このままでも良いと言おう
言霊は 美しいから
そのまま
あの日の零れ日が 記憶照らし続ける


次また瞳を閉じて、あの頃の自分に会えたならそう伝えようと決心した。

身の回りを固める為だけのステータスを重視してきた結果、僕は日々に感動すら出来なくなり、生きる意味を見失いつつあった。

幸せとは目に見えるモノだけでは無い。

けど、これまでの自分を否定する事はない。

周り道したけれど、だからこそ聞こえたんだ。

本当の心の声が。


夢見る東京少女 いつか風に乗れ
土砂降り雨でもさ 私らしく生きていくのさ
明日を見つける旅に出ようかな
そんな事考えるたび 夢は透けていく

タクヤと夜を通して笑い合った。

こんな姿を人に見せたのは大学生ぶりかもしれない。

玉ねぎを剥くように、一枚一枚羽織っていた鎧が取れていくのが分かる。

ありがとう。タクヤ。

ありがとう。心の声の主よ。

夢を見ていたかのように、目を覚ましたのは始発の急行電車の中だった。


昨日の出来事はもうさ
いつか忘れて 雲に誘われバイバイ
急行列車 夢の片隅の
始発に乗り込んで このまま駆けてゆけ

夢見る東京少女 今を超えてゆけ
土砂降り雨でもさ 私らしく そりゃ悪くは無いわ
君に会えるかな そんなこと考えるたび
僕は東京少女さ


東京少女、それは夢見て上京した誰しもの心に住まう女性性の心。

彼女は瞳を閉じればいつだって20歳のジブンに姿を変えて現れる。

その度、本当の心の声を聞かせてくれる。

これから僕は彼女と向き合い、ベストな答えを見つけながら生きていこう。

そう決心できた、なんとも不思議な一日のお話し。

いつもサポートありがとうございます。本作がお気に召しましたらサポートよろしくお願いいたします!次作も乞うご期待。