月にご老人とお巡りさん
月を見る。今日も少し欠けている。不意に見える。あ、こんなにも欠けていたのか。近くに明るい星もあるではないか。そんな日々は平穏であり、いつまでも続いてほしいと願うばかり。まだ赤みが残る時は、静かな様子。真上から煌々と照り下げる時は、目一杯の力を込めて目から光が弾けそうな様子。カメラのシャッターを切ろうとしても、元気すぎてよく映らない。まだまだ科学には負けません、と言わんばかりの滅裂スプラッシュを放ってくる。川沿いの道に寝転んで、スプラッシュを見浴びる。明るいけれど明るくない。程よい明るさをわかっていることに惚れ惚れする。しかしそれも長くはない。身体の方が冷え込んでくるから。空気は乾いて雲もなく、よく見えるのだが、自分の肉体が声を上げる。目を細めてウサギがいるか、カニがいるかと必死こく。どっちもいるのに毎回尋ねる。いますか。いませんか。今日もこちらを向いていますか。目を覚めたら日は傾いていた。身体が重くて布団からは上がれない。歯を磨こうか服を着ようか。どちらをとるのも気が重い。あと5分あと10分と浅い眠りが繰り返す。ここは一つ身を委ねよう。ただこのまま、天を見上げ続けるとどうなるだろう。どうなるんだ。知ったこっちゃない。ひたすらに目を閉じ、幻想を見続けるのだ。快感の幻想を見届けよう。よしよしすばらしいよ我が人生。あと数時間だけ。あと1時間と、35分だけ。このフラフラを体験しよう。あの月は今日も出ているだろうか。雲に隠れているだろうか。知る由はない。手を伸ばせば見えるはずだが、それすらも馬鹿げている。自分が自分の空虚な時間を見守る。ただ棒立ちしているだけのお巡りさんのように。周囲を制御するための装備は兼ね備えている。そう思っている。あるいはその準備が整ったと勘違いしている。うほ、登下校する小学生を見守るボランティアのご老人なのかもしれない。それでも構わない。何も起こらないのであれば。
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