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#書評 安斎勇樹『問いかけの作法-チームの魅力と才能を引き出す技術』-良い鍋奉行になるために

「なにかいいアイデアない?」って聞いても,誰も発言しないそんな会議がいっぱいある.

確かに,常日頃からアイデアを考えているひとだったら,ぱっと改善案を回答できるのかもしれない.だけどそんな社員がいっぱいいるのであれば,そもそも実行されているはずだし,そんな「いいアイデアない?」みたいなざっくりした問いかけなんて発生するはずがない.鶏と卵だな.

もっといえば,上司あるいは会社が考えている「いい」アイデアとは,自分たちにとって都合の「いい」アイデアであって,部下が考えている「いい」アイデアとは必ずしも一致しない.たとえ,部下が「いい」アイデアを語ったとしても,1割も言い終わらないうちに論破されてしまう.そんなことも考えられる.そうすると,部下は「いいアイデア」を忖度して,当たり障りのないように調子の「いい」アイデアを発言するようになる.そんな状態では,「心理的安全性」とかあったもんじゃない.

とはいえ,この本の論旨は,そうした悪い問いかけを,ちょっとした「作法」を学ぶことで,「良い問いかけ」をして,回答者の内発的な可能性(ポテンシャル)を最大限引き出すというものである.

この本の中では「ファクトリー型」と「ワークショップ型」のチームがあると言われる.まあ,ファクトリー型は,よく言われるウォーターフォール・決まったことをやっていればいいっていうもの.ワークショップ型は,みんなで考えようって創発的なものだと考えればいい.ワークショップ型のほうがもちろん現代型で,ほとんどの企業はその重要性をよくわかりつつもうまくできていないことのほうが多いだろう.

この本を読んで面白いなと思ったのは,問いかけによって個人の「こだわり」を理解しようとする重要性について論じられていたことだ.確かに渡しも読書会とかで,初対面の人と話すときに,「この人のこだわりってなんだろう?」と考えながら問いかけをなげていく.こだわりがわからないと,逆鱗に触れることだってあるわけだが,逆にこだわりがわかって話を引き出すとそこから話が思いもよらない良い方向に転がることだってある.それが読書会の楽しみでもある.

私は,相手のこだわりがある程度わかっている方が話しやすい.というかそうじゃない話せない.当たり障りのないように,よくある馴れ合いのビジネストークやお世辞が言えないコミュ障である.

そんな私が気をつけているのは,どんな思想や趣味嗜好が違っていたとしても,相手がどんなことを大切にしているのかをちゃんと理解し尊重することである.どういう集団に属しているかによって,できるだけ判断をしないようにする.それがファシリテーションにおいて大事である.人を見かけで判断していては,対話はできない.

ただ,ここで難しいのは,ある程度問いかけに「制約」を設けたり,ロールプレイというかキャラ付けをしないと,発言のきっかけを生み出すことはできないのだけど,そうなると相手もそうしたキャラとして「回答する」.そうなると,本来の「自由な対話」から離れてしまうかもしれない.実際に読書会以外でもそんな場面に多く出くわすことが多いように思える.

これはどっちが良い悪いというわけでもない.要するに,重要なのは,バランスなのである.制約をつけて相手に考えを促すことも大事である.オープンとクローズな問いかけをうまいこと使い分けながら,時にはあえて「素人質問」をしてみてちゃぶ台をひっくり返しながら,議論を煮詰めすぎないようにする.

よく考えると,いいファシリテーションとは,よい鍋奉行なのかもしれない.となると,問いかけは,より良いタイミングで具材を投入することなのだろう.

蛇足,この本には,人類学の「ブリコラージュ」(レヴィ・ストロース)とか哲学の「中動態」(國分功一郎)がちょくちょく出てくるのだけど,ビジネス本の中で出てくるのは珍しいなって思った.

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