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連載小説|ウロボロスの種

▲ 前回


八日目

 朝、身支度をし、ホテルのレストランで朝食をとると、私は海に向かって歩いた。
 くり返している。私はそう感じた。こうして海へ行き、時々大聖堂に寄り、バー・ニュクスで一日を終える。
 くり返しはいつから始まったのだろう。はじめは何がくり返されているのか、定かではない。いや、そもそも何かがくり返されているのかどうかさえ、定かではない。しかし、くり返しが始まると、はじめからくり返しが始まっていたことになるのだ。
 役割はくり返す。それに対して、私は役割から自由な旅人。フェデリコはそう話していた。
 しかし、私は自らをくり返してしまっているように感じる。私はもはや旅人ではないのだろうか。撚り合わさって、もつれていくところなのだろうか。
 砂浜に着いた。〈木〉は、さらに生長していた。人の背丈の倍ほどにまでなり、枝はさらに広がっている。
 その周りには、白いローブに身を包んだ女が三人いた。彼女たちはダンスを踊っていた。
 その光景に見とれていると、もう三人、白いローブの女が現れた。
 あとから現れた三人が〈木〉のそばまで来ると、もとからいた三人と入れ代わり、ダンスを始めた。
 もとからいた三人は、歩き去っていく。
 私は、彼女たちのあとをついていくことにした。
 白いローブの三人は、私が立ち入ったことのない地区へと入っていく。Жの文字で言うなら、右上のはずれのあたりだ。そこは雑然とした印象のボヘミアン地区だった。
 三人の女は、ごちゃごちゃした通りをいくつも抜けていった。すると、視界が開け、広い公園があった。
 公園ではお祭りが行われているようだった。大きな白いテントがいくつも立ち、芝生のあちこちに人が集まって、座ったり寝そべったりしていた。人々は愉快そうに飲み食いをしていた。
 白いローブの三人は、一つのテントに入っていった。私は入口で立ち止まり、中を覗き込んだ。
 テントの中は、布越しの柔らかな光で満たされていた。中心にヴァイオリン弾きが四人いて、メランコリックな音楽を奏でていた。
 ラグが敷きつめられた上で、人々は寛いでいた。水煙草を愉しんでいる集まりもあった。
 その近くに、白いローブの一団があった。砂浜から来た三人は、そこに加わって座った。一団には男も女もいた。
 その中に一人だけ、極彩色の服を着た女がいた。なんと、それはリリィだった。リリィは笑みを浮かべながら、足を横に投げ出した格好で、ゆったりとクッションにもたれかかっていた。
 私は中に入る勇気がなく、公園を歩くことにした。
 公園の人々は、これまで昼間に見た人々とは、まるで違っていた。
 そこかしこで笑い声が上がっていた。
 
 その夜は、早めの時間にバー・ニュクスへ行った。リリィと話をしたかったのだ。なぜか切り出しにくい気がしていたが、三杯目のブランデーを頼んだときに、
 「今日は不思議な日でした」と私は言った。
 「何があったのですか」とリリィは、ブランデーを注ぎながら言った。
 私は、〈木〉を囲んでダンスをする女たちのこと、彼女たちについていったことを話した。それから、テントでリリィを見たことも話した。
 「私はあの地区に部屋を借りているのです」
 「そうだったんですか」
 「ええ。公園では、〈木〉のことが噂になって以来、お祭りが続いています」
 「白いローブの人たちは何者ですか」
 「〈木〉を崇拝する人々です」
 ザゴラスという男が、その最初の人なのだとリリィは言った。
 「よかったら、会ってみませんか」
 「会ってみたいですね」
 「それでは明日、テントに来てください」

 私はホテルに帰って眠りにつき、また夢をみた。
 体内の〈核〉をほぐす。帯状のものはさらに増えていく。それらは合流する。
 そしてそれらは、全体として形をなすようになってきた。腰回りから足のほうに向けて伸びるものが増え、それから、横隔膜のあたりから肩のほうに向けて伸びるものが増えた。その多くは漂うようにして伸びていたが、脚、背中、肋骨などに固着しているものもまだあった。


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