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朝、なに食べよう

人間が一生をかけて絶えず行なっていることは、呼吸と選択。

人生は選択の連続。
そんなふうなことを、よく耳にします。

かの、Apple創設者のスティーブ・ジョブス氏は、
日常の選択を如何にして減らし、自身の生産性向上に努めたというのは、有名な話。
着る服は同じものを複数、起きる時間も決まっており、シャワーの時間すら削っていたとか。
さらに、ベジタリアンの彼は、リンゴとニンジンしか食べていなかった時期もあるとか…。
極端すぎるよ、ジョブス。


わたしたちは毎日の朝ごはんに対して、
どれほどの時間と選択を費やしているのだろうか。
一汁三菜の和食の人もいれば、
時短でバナナ1本やプロテインやアサイーを食べる人もいる。

それは千差万別、多種多様なのである。
みんな違って、みんないい。

炊きたてのごはんも捨てがたいのだが、
わたしは、朝はパンが食べたい。
焼きたてのパン。

寝起きにまずはコップ一杯の水。
必ず、のむ。

それは、まるで枯れかけた花に水を注ぐように、大切な儀式だ。
食道から胃にかけて、ダムの落水のように強い水流を感じる。
胃まで到達すると、不思議と目も冴え始めてくるのがわかる。

これだ、これ。
朝の始まりだ。

ジジジジジ…

トースターに入れて4分。眠気まなこで待つ。
パンの焼き上がる香ばしいかほりが、わたしを現実に引き戻してくれる。

ジジジジジ…

そうだ、コーヒーも一緒に飲もう。
お気に入りのコーヒー豆を挽き、ケトルで湯を沸かす。


ゴボボボボボ....
ジジジジジジ...

朝の目覚めを迎えるBGMが、今日1日のスイッチとなる。

ゴボボボボボ...カチッ!

(お湯が沸いた!)

ジジジジジジ...チーン!

香ばしい香りと共に室温がほんのり暖かくなる。

コーヒーはしっかり測って淹れることも好きなのだが、
朝の、このゆるい時間を迎えるには多少は雑で良い。
それがわたしなりのこだわり。
ただ、気持ちは丁寧に。

淹れたてのコーヒーと焼きたてのパン。

わたしが朝の食パンで一番好きなのが、
仙川"AOSAN"の角食である。

カリッ!という音と、
焼き上がった中にほのかにしっとりした味わいが隠れており、
何も付けずに食べるのがなんとも美味しい。

素材の味を十分に愉しめるし、
これはバター狂の人にもぜひ、何も付けずに食べてほしい。
それだけ味がしっかりしている。けど、くどくない。
食べ始めたら止まらないのである。

しかし、半分ほど食べ進めていくと、どうしても味変をしたくなる。
今日はバターにしようかな、
いや、オリーブオイルに塩ひとつまみかな。
いやいや!ハチミツでしょ!
ひたすら、内省する。

ジョブズからしたら、
“こんなことをしてるなら、さっさと食べて仕事をしろ!“と罵倒されそうだが、
これが、イイ。

今の世の中は、便利すぎて苦しくなる時がある。

調べたいものが、ものの数秒でわかり、
自分のスマホの閲覧傾向から”オススメ“が出てくる。
提案された内容に、フラフラと釣られ、気づくとそこは自分の意思がない
自分の世界にいるのである。

これはなんとも奇妙なのである。

誰かがやっていたアイデアを取り入れることはもちろん良いこと。
しかし、自分の頭を使わずに出した選択やアイデアだけで動くのは、
それはまるで、くぐつ人形。

他人によって生かされている自分。

わたしは、私だけの血が流れている、わたしなのである。
操縦士はわたしだけだ。

便利・効率・最短・最速
これは資本主義においては致し方ないことで、競争原理が働くからこそ、
今の便利な世の中が存在する。
それは、理解している。
そこに生きるわたしたちもそうやって切磋琢磨することも、
何ら不自然なことではない。

しかし、鈍行・少量・非効率。
これら、ネガティブと捉えられる物事の中にこそ、
たくさんの贅沢が詰まっているとわたしは信じている。

休みの今日は何をしようかな。
買い物に、本屋に洋服屋に行って…

いや、今日はなにもしない、をしよう。

お昼ごはんは何にしよう。
Uberは使わずに、自分で作ってみよう。
冷蔵庫に今、何があったっけ。

今あるもので、如何に工夫を凝らすか。
今この瞬間を大切に育むことが、
過去を糧に、未来を楽しく描きやすくしてくれる。

特別なことは必要ない。
健やかに在れること、それだけでもう一つの奇跡なのである。

あ、気付いたらもう夜だ。
今日、何したっけ?
朝に焼きたてのパンとコーヒー入れて、
ボーっとして、ご飯作って、のんびりして…
何もしてないけど、こういう日もあって良いや。

何もしていないようで、自分のために存分に時間を費やせる、
そんな贅沢はこれ以上にない。

不思議と頭がスッキリしている。
何をしたかはボンヤリとしているが、
朝食べたパンとコーヒーの味が
しっかりと今日という日の記憶として刻まれている。
美味しかったなぁ。

流れるようにすぎる日々の中でも、
今日を少しでも、今日として感じられる、そんな日が毎日続いたら。
その為にも、朝のじかんをできるだけ大切にしたい。

さて、あしたの朝は、何を食べよう。

#ショートエッセイ
#エッセイ
#ゆるく暮らす

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