#69薬剤師の南 早雪 前編5

 ミーティングがあった翌日のこと、

「南さん、これは駄目なんだ」

 と、投薬台にいた當真さんが監査の私のところへ薬を持ってきた。春ごろ私が手間取った、池上さんの薬だ。結局のところ、あの後池上さんは数度来局したが、精神疾患でもパーキンソン病でもない様子だった。

「何か違っていましたか?」

「このプレガバリン、今回から新しく処方されてるでしょ?」

「はい」

「だとすると、どうしてこれが駄目なのか知ってる?」

「……いえ」

「プレガバリンの開始量は、一日二回で、一日量が一五〇ミリグラムじゃないといけないんだ」

「え! そうだったんですか?」

「だけども今回はなぜか一日一回で、一日量が一五〇ミリグラムで処方されているから、これは駄目な処方内容なんだ」

「すいません、そんなことになっているなんてわかりませんでした」

「これはドクターの入力ミスかもしれないけど、ドクターもよくわかっていなかった可能性もあるから、先入観を捨てて疑義で確認してね。そして、今回のことは次の機会で活かすこと。はい、病院に電話!」

 ずいぶんと當真さんには私のミスを辛抱してもらっている……まだまだ努力が足りないなと、受話器をプッシュしながら思った。

 そうして閉局間際の時間になり、待合室には患者がいなくなった。すると、

「こんちわー」

 と、なげやり気味な挨拶とともにシロが正面の患者入り口から躊躇なく入ってきた。私を含め、それを視認した薬局の一同に緊張が走った。

 運が良かったのか悪かったのか、社長はちょうど外回りで不在だ。

「何しにきたの?」

 私は思わずカウンターに詰め寄り口走ってしまった。

「おー、ずいぶん酷いこと言うねぇ。患者への態度がなってないんじゃないの?」

「患者?」

「はい、これ」

 そう言ってシロが窓口に差し出したのは――処方箋だった。

「この処方の調剤を要求します」

 ……そうか、そうきたか。

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