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[級位者向け将棋戦略論]駒得は裏切らない②。叩きの歩の手筋をご紹介。

 こんにちは。ゆに@将棋戦略です。

 今回は前回と同じく、駒得は裏切らないをテーマとして、「叩きの歩」の手筋をご紹介したいと思います。


叩きの歩の定義

 まずは叩きの歩をきちんと定義しておこうと思います。これも前回と同様、一般的なイメージとずれる可能性がありますが、ゆになりの定義で話を進めさせて頂きます。

叩きの歩:歩以外の相手の駒の前(頭)に打つ歩で、相手に取られる可能性があるもの。

 ここで、歩以外の相手の駒、としたのは、歩の場合は別の名称が使われるからですね。このようにいろいろな場合分けがあるので、なるべく定義を明確化しているわけです。

 また、本稿は基本的に駒得をテーマに話を進めていきますが、歩の手筋自体は当然、駒得のためだけのものではありません。なので、歩の手筋の説明としては不十分なものになりがちで、場合によってはテーマからそれて補足説明を入れることもあります。

 次に具体例について述べていきますが、いくつかの種類に分けて説明していきたいと思います。

駒得のための数の攻め

 最初は数の攻めのパターンについてお話したいと思います。数の攻めとは、例えば以下の図(数の攻めの図①)のようなものです。

数の攻めの図①。先手側は2三の地点に駒が2枚利いていて、後手側は1枚しか利いていないので、次に▲2三歩成で数の攻めが成功します。

 この図では先手が2三の地点を狙っているのがよく分かると思います。それでは先手側と後手側で、それぞれ2三の地点に何枚の駒が利いているか、数えてみましょう。
先手:2四の歩+2八の飛車で2枚
後手:3二の金が1枚

 先手側の方が枚数が多いので、攻めがうまくいきそうですね。実際にやってみましょう。まずは▲2三歩成(数の攻めの図②)。

数の攻めの図②。

続いて、△2三同金(数の攻めの図)。

数の攻めの図③。

そして▲2三同飛成(数の攻めの図④)で、先手の攻めが成功となります。

数の攻めの図④。攻めが成功。数の多い方の勝ち。

 一方で、数の攻めの図⑤のように攻めと守りが同数(2対2)の場合は、基本的に攻める側の失敗となります。ここでは省略しますが、是非確かめてみて下さい。

数の攻めの図⑤。攻めと守りが同数の場合は、攻めが失敗。

 以上が数の攻めのお話です。詳しくは、上野裕和先生のnote記事でも取り扱っていらっしゃいますので、そちらも見て頂ければと思います。

 では叩きの歩のお話に戻ります。持ち駒というのは、いつでも好きな場所に打てる(歩の場合は二歩に気をつけなければいけません)ので、攻め駒の一つとしてカウントすることが出来ます。

 どういうことかと言いますと、下図(叩きの歩の図①)を見て下さい。先ほどの数の攻めの図①と比べて、2四の歩がいなくなっている分、先手の駒台に一枚の歩が乗っています。

叩きの歩の図①。2三の地点への利きの数は2枚とみなしてOKです。

 先ほどと違って、盤上の駒だけでいいますと、2三の地点への利きは
先手:2八の飛が1枚
後手:3二の金が1枚
で、1対1になっています。しかし、先手はいつでも2三の地点に歩を打てるので、この場合は2対1とみなして良いのです。

 では実際に▲2三歩(叩きの歩の図②)と打ってみましょう。次に角を取られてしまうので、後手は何とかしないといけません。

叩きの歩の図②。

続いて△2三同金(叩きの歩の図③)。

叩きの歩の図③。

そして▲2三同飛成(叩きの歩の図④)で先手の攻めが成功です。

叩きの歩の図④。

 叩きの歩を打つ時に十分検討してもらいたいのは、狙った駒に逃げられないかどうか、あるいは逃げられた後に後続があるかどうか、です。例えば下図(叩きの歩の図⑤)は叩きの歩の図①の1三の歩を1四に動かしただけの図なのですが、ここで▲2三歩と打ってはいけません。

叩きの歩の図⑤。ここで▲2三歩と打ってはダメ。△1三角と逃げられて後続がありません。

▲2三歩と打っても△1三角と逃げられてしまい、後続手段がないからです。ちなみにこの場合は別の攻め方が有効になります(数の攻めの図①がヒント)。

 それでは次のようなケース(後続の攻めの図①)はどうでしょうか?▲2三歩と打っていいですか?ちょっと考えてみましょう。

後続の攻めの図①。▲2三歩と打っていいでしょうか?

 正解は、▲2三歩と打ってOKです。今度は△1三角と逃げられた時に、▲1四香(後続の攻めの図②)と走ることが出来ます。後続がある、というのは、こういうイメージと思って下さい。

後続の攻めの図②。今度は▲2三歩が正解でした。

 後続の攻めがあるかどうか、は結構難しい問題だったかもしれません。実際、難しいケースでは上級者でも判断できないこともあります。ある程度は慣れですので、実戦で出くわしたらその都度考えてみて下さい。

形を乱して駒得を狙うケース

 次に、数が同数、あるいは負けていたとしても、攻めが成功するケースについて紹介します。それは、形を乱す手筋として叩きの歩を用いるケースです。ものすごーーく重要な手筋となりますので、是非習得して下さい。

 このケースを説明するためには、どうしても桂香やカナ駒を使って駒得を狙う技術も複合させないと困難ですので、少し難しくなってしまうかもしれませんが、ご了承下さい。まずは以下のような図を考えてみましょう。

乱しの図①。いつもの角をイジメるパターン。

 なんか毎回似たような図ですね😅それだけ、角や桂馬の頭は狙いやすいのです。今回の図も、何となく角の頭を攻めるのかな?と思って頂ければ幸いです。

 しかし、今回は2三の地点に利いている盤上の駒がありません。駒台に持ち駒がありますので、2三の地点は1対1で、数の攻めは成功しません。

 でも、この場合は構わず▲2三歩と打って攻めが成功するのです。実際にやってみましょう。

 乱しの図①から
▲2三歩△同金▲3五桂(乱しの図②)

乱しの図②。どう対処しても先手の駒得になります。

 試しに3手まとめて進めてみました。まだ難しい方もいらっしゃるかもしれませんが、頑張って頭の中で再生してみて下さい。

 さて、▲2三歩△同金と形を乱した後に、▲3五桂と金を狙うのが正解です。これは桂馬を使った手筋の一つで、駒取りを狙いながら2三の地点に利きを1枚足しています。後手はこれに対してどう対処しても駒損を避けられません。つまり、△3四金や△1四金と逃げると2三の地点への利きがなくなってしまうため、▲2三桂成とされてしまいます。かといって、△2四金(乱しの図③)としても、今度は2三の地点が持ち駒の歩と合わせて2対1になっています。

乱しの図③。今度は2三の地点の利きが2対1になっているので、▲2三歩が打てます。

したがって、乱しの図③からは先手は▲2三歩(乱しの図④)と打つことができます。攻めが成功していることをご確認下さい。

乱しの図④。先手の駒の枚数が足りていることを確認してみて下さい。

ではもう一つ、乱しの図②で△3二銀と頑張って、▲2三桂成△同銀(乱しの図⑤)となった局面を考えましょう。先手は金と桂馬の交換で既に満足ですが、さらに後続の攻めがあります。

乱しの図⑤。さらに後続の攻めがあります。

正解は▲2四歩で、再度の叩きの歩になります。これに対して、△同銀、△3四銀、△1四銀、△1二銀のいずれも▲3二金(乱しの図⑥)と打って角を逮捕できます。また、最後に残った△3二銀に対しては▲4二金と打って銀が助かりません。

乱しの図⑥。ものすごい戦果。

乱しの図⑥となると、桂と歩2枚を使って角と金を手に入れることが出来た計算になります。叩きの歩の手筋を使えば、このようにものすごく儲けることが出来るのです。このように、相手の駒をずらして狙いを実現するのがこのケースの特徴です。

 次はちょっと補足説明として、形を乱す、ということについて言及します。

形を乱すということ:補足説明(割と重要)

 最もカンタンな理解として、相手の陣形というのは、まさに相手自身が自分の都合で決めたものですので、相手にとって理想的な陣形となっているはずですね。叩きの歩を使えば相手の理想的なはずの陣形を崩せるわけですから、何となく効果的なことは分かって頂けるかと思います。

 陣形を崩す、ということについて、もうちょっと詳しく解説してみましょう。そのためには、二つの観点があります。一つ目は、陣形のスキ、二つ目は修復のしにくさ、です。

 まずは陣形のスキについてです。陣形のスキというのはようするに、駒が利いていない(あるいは利きが少ない)マスのことなのですが、それについて理解するためには、マスの偶奇を理解しておくのが良いでしょう。別記事にて紹介済みですが、以下のように奇数マス、偶数マスを定義します。

奇数マス:2三や6五のように、二つの数字を足して奇数となるマスを奇数マスと呼びます。
偶数マス:2四や6六のように、二つの数字を足して偶数となるマスを偶数マスと呼びます。

 なぜこんなことを定義するのかと言いますと、以下の図を見て下さればそれが良くわかると思います。以下の図はカナ駒の利きの性質を示すものです。

カナ駒の性質の図。矢印は駒の利きを、緑と赤の丸はそれぞれ、その駒がいるマスと偶奇が等しいマスと、異なるマスを示します。

図の見方についてですが、青色矢印と緑丸、赤丸がありますね。青色矢印は駒の利きを示しています。それに対して緑丸はその駒がいるマスと偶奇の等しいマス、赤丸は偶奇の異なるマスを示しています。

 この図から分かることは、まず金は4つの赤丸と2つの緑丸に対して矢印が伸びています。したがって、金は偶奇の等しいマスにスキを生じやすい。一方で、銀は1つの赤丸と4つの緑丸に対して矢印が伸びています。したがって、銀は偶奇の異なるマスにスキを生じやすい。カナ駒単体に対しては、このように理解することが出来ます。

 それではカナ駒が組み合わさった陣形についてはどうかと言いますと、別記事にてまとめましたように、次のような条件を満たす陣形は結果的にスキのない陣形となります。
①同種の駒が偶奇の異なる隣り合ったマス(横や縦の隣)に配置されている
②異種の駒が偶奇の等しい最近接マス(ナナメ隣)に配置されている

このような条件を満たす陣形に対しては、叩きの歩によって陣形を乱す効果が高くなると思われます。(ちなみに、②の条件を満たす金銀の組み合わせの一部を、あらきっぺ氏は「クリップ」と呼んで区別しています。)

 陣形のスキについてはその都度確認しても良いですが、上記のようにまとめておくと感覚的に理解しやすくなりますので、とてもオススメです。

 ちょっと難しい話になってしまいましたが、二つ目の修復のしにくさについては割とカンタンです。修復のしにくさとは、形を乱された場合に、何手で元の陣形に戻せるか、ということなのですが、修復しにくい乱し方というのは次の二つになります。
・銀を前に誘い出すケース(修復まで3手かかる)
・金をナナメに誘い出すケース(修復まで2手かかる)

実際に、「金はナナメに誘え」という格言もあります。銀についてはなぜかないのですが😅

 以上を踏まえまして、形を乱すことがいかに効果的であるか、実例を示してみましょう。以下の図(陣形乱しの図①)をご覧下さい。先手の持ち駒は角と歩だけ。後手陣は銀冠の好形です。これだけでは一見後手陣を攻略するのは難しいように見えるかもしれません。しかし、叩きの歩を使えば一瞬で崩れるのです。

陣形乱しの図①。角と歩だけですが、これだけで陣形を崩壊させることが出来ます。

 上図の後手陣は、上述した金銀の良い組み合わせの条件②を満たしています。したがって、まずは▲2四歩と陣形を乱してやりましょう。これに△同銀とさせて条件②は解消されました。続いて▲3四歩△同金(陣形乱しの図②)も利かせます。

陣形乱しの図②。これで2四の銀と3四の金は元に戻れません。

叩きの歩2連発により、次のような状況が生まれたことをご確認下さい。
・金が奇数マスに、銀が偶数マスに配置された。それにより、奇数マスにスキが生じた。
・2四の銀と3四の金が、3三の桂が邪魔をして修復出来なくなっている。

 さて、このように奇数マスにスキが生まれた後手陣に対して、奇数マス、ここでは▲6一角(陣形乱しの図③)と角を設置してみるといかがでしょうか?

陣形乱しの図③。奇数マスのラインが急所。

後手はこの角のラインを止めることができません。したがって、3四の金を助けるには、△3五金か△2三金しかありませんが、△3五金には▲3四歩でも桂得確定ですし、▲3六歩△同金▲3四角成のように迫ってもいいでしょう。また△2三金には▲4三角成(陣形乱しの図④)と成っておいて、後手陣は崩壊しています。陣形乱しの図①と④をよく比較してみて下さい。叩きの歩の威力を実感して頂けると思います。

陣形乱しの図④。後手陣があっという間にメチャクチャに。

実戦例

 それでは将棋ウォーズの級位者対局から実戦例を。

 まずは実戦例①-1。ここで先手番になります。先手は4四に角が出たいところですね。駒をずらして狙いを実現しましょう。

実戦例①-1。先手は4四に角を出たいですね。

 正解は▲3四歩の叩きになります。△同銀なら▲4四角と出られますし、△2六金なら▲3三歩成としてから△同角に▲2六飛(実戦例①-2)として、金銀と角の交換となり、先手が駒得で有利ですよね。

実戦例①-2。金銀と角の交換で先手有利です。

なお、実戦は単に▲4四角と出て駒損になってしまいました。

 次に実戦例②-1。また先手番。今度は先手としては▲2五飛と出たいですね。でも、すぐにやると△同銀と取られてしまいますので、ここでも歩の叩きを使いましょう。

実戦例②-1。先手は▲2五飛としたい。

 正解は▲3五歩となります。放っておくのは▲3四歩が痛いですし、△同銀なら狙いの▲2五飛(実戦例②-2)が実現します。実戦では、先手は▲1四歩と銀取りを受けてしまったため、歩切れとなり、攻めの継続が困難になってしまいました。

実戦例②-2。▲2五飛が実現して有利。

 以上、「叩きの歩」のご紹介でした。ものすごーーーく重要な手筋ですので、どんどん活用して下さいませ。

 それでは読んで下さりありがとうございました。引き続きよろしくお願いいたします。

 

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