[級位者向け将棋戦略論]駒得は裏切らない①。単打の歩の手筋をご紹介。
こんにちは、ゆに@将棋戦略です。
今回は将棋級位者向けの戦略論記事となります。テーマは、「駒得は裏切らない」です。要するに、多くの局面において、「駒得してる側が有利」と考えて差し支えないありませんよ、という、とても単純明快で有難い考え方についてご紹介します。
駒得って?
そもそも、駒得って何でしょうか?ご存じの方が多いとは思うのですが、念のため確認してまいりたいと思います。
将棋においてそれぞれの種類の駒には、価値の序列が存在します(ただし、王様は除外します)。これはおそらく経験則的なもので、ゆに自身、特に誰かに教わった記憶はないのですが、皆さんはいかがでしょうか?何か、いつの間にか多くの人に共有されているようなイメージがあります。
以下に駒の価値の序列を示します(価値の序列)。飛車や角のような大駒が最も価値が高く、次に金銀といったカナ駒、その次に桂香、歩が一番弱いといった序列です。1枚対2枚の場合も大体の序列があって、大駒1枚とカナ駒1枚+桂/香1枚で大体同じか、大駒1枚の方がやや価値が低いくらいです。
細かい部分では他の棋書等と食い違う可能性がありますが、概ねこのように考えて頂いてOKです。
図に示したもの以外の組み合わせでも、単体の価値の序列と1枚対2枚の序列を合わせて考えれば、大体は答えを出せます。例えば大駒1枚とカナ駒2枚を比較したら、カナ駒2枚の方が価値が高い、という風に考えられます。
駒を「得する」ということは、相手軍の駒を取って自軍の駒を増やす、あるいは自軍の価値の低い駒と相手軍の価値の高い駒をトレードすることに相当すると言えます。
最初の内は、実際に駒を得しているか、損をしているのかを複雑な局面から判断するのは難しいかもしれません。佐藤天彦氏著の「天彦流中盤戦術」(NHK将棋シリーズ)ではそのあたりの方法についても記述がありますので、よろしければそちらも参考にしてみて下さい。
将棋は、ある意味で錬金術ゲーム
以上のことを考えますと、「駒得は裏切らない」ということは、ある意味で将棋は「錬金術ゲーム」、すなわち価値の低い駒を使って価値の高い駒を手に入れていくゲームである、という側面があると言えるでしょう。
そうしますと、最も単純な帰結として、最も価値の低い「歩」を使って価値の高い駒を手に入れる技術こそ、将棋において非常に重要な技術であると考えられます。
将棋や囲碁のようなゲームにおける技術は「手筋」とも呼ばれますが、歩を使った手筋は数え上げれば本当にたくさんあります。今回はその中でも特にシンプルな、「単打の歩」の手筋をご紹介したいと思います。
単打の歩
歩の手筋にはいろいろな種類があって、それぞれに名前がついているのですが、正直定義がよくわからないものだったり、区別がつきにくいものがある気がしています。もしかすると一般的な定義からずれるものもあるかもしれませんが、ここではゆになりの定義で話を進めたいと思います。
まずは単打の歩の定義から。
単打の歩:相手の頭の丸い駒の前(頭)に打つ歩で、相手側が取れないもの。
ここで言う「頭の丸い駒」とは、自分の頭に自分自身が利いていない駒のことです。該当する駒は角と桂馬しかありません。
具体的には下図のような状況で、▲3四歩と打ちます。これは単打の歩をとても有効に使えた場面です。単打の歩を打つと、次に相手の駒を取ることが出来ます。すなわち、下図では次に▲3三歩成と角を取ることができます。それに対して、相手側の角の逃げ場所は2四と1五の地点しかありませんが、どちらに逃げても歩で取られてしまいます。
このように、相手の駒の逃げ場所がない場合の単打の歩は、ものすごく強いです。桂馬や角が歩と交換できるわけですから、当然ですよね。序盤でこの手筋が決まった場合、実力者同士であればゲームセットといっていいほど差がついてしまうこともあります。
他にも少し例を挙げます。このあたりまでは、当たり前の話ですよね?でも、次の話は案外出来ていない人が多いのです。
単打の歩をどう守るか:手数計算が大事
単打の歩をどう守るか、という問題についてです。これに対する答えは簡単で、頭の丸い駒は他の駒でカバーしましょう、ということなのですが、そのためには攻め側と守り側の手数計算が大事、という話です。
一つ例を出してみましょう。以下のような局面(テーマ図)があったとします。後手陣にとても弱い部分があるのが分かるでしょうか。それは、3三にいる桂馬の頭です。そもそもこんな所に桂馬跳ねるな!みたいなご意見は一旦ナシで😓
この局面、先手からするとチャンスと言えます。具体的には▲3六歩~▲3五歩として、△同歩に▲3四歩とすれば桂馬が取れる格好です(単打の歩実現の図)。したがって、単打の歩実現には2手かかる計算になります。
一方で後手からすると、3四の地点に何か駒の利きを足さないといけません。かと言って、△4三金としてしまうと▲2三飛成とくるので、3二の金は動かせません。後手としては次は△4二銀~△4三銀(守備成功の図)などとして3四の地点をカバーするのが普通です。このように単打の歩を守る側も、2手かける必要があるという計算になります。
というわけで、攻める側も守る側も、2手かかる計算になりました。こんな風に、狙いを実現しようとする側にも守る側にも、いわば麻雀でいうところの「シャンテン数」みたいなものがあって、それを常に把握しておくことが大事です。この場合は2手対2手なので、手番の方が成功、という結果になります。仮に先手番だとして、実際に駒を動かしてみましょうか。
テーマ図から
▲3六歩△4二銀(進行例①)▲3五歩△同歩(進行例②)▲3四歩(結果図)
というわけで、先手が手番なら攻めの成功です。後手の手番の場合は守りが成功しますが、分かりにくければ実際にぜひ確かめてみて下さい。
実戦例
それでは将棋ウォーズの級位者同士の対局(1~5級から選定)で、実際に現れた局面から例を出します。
それでは実戦例①。下図は先手の手番ですが、後手陣に弱点があります。次の一手は分かりますでしょうか。頭が丸い駒を探しましょう。
答えは▲7五歩ですね。△同歩なら▲7四歩と打てます。後手は△6三銀(実戦例①-2)としてきました。実際の対局では先手はここで▲7四歩としてしまったのですが、△同銀と取られてしまいました。ここではそれよりもいい手があります。歩を使った手筋です。
よりいい手は▲6四歩(実戦例①-3)です。これは「叩きの歩」と呼ばれる手筋で、いずれ改めて紹介する予定です。銀の位置をずらすことで、7四への利きがなくなり、最終的に▲7四歩(実戦例①-4)と取りこんで桂馬を歩と交換することが出来ます。
次の実戦例は下図(実戦例②-1)で、先手番。次の一手を考えて頂きたいのですが、その前にまずは駒の損得をチェックしてみましょう。
上述した「天彦流中盤戦術」に記載されているのですが、こういう時は頭の中で、持ち駒の香を1九に戻して考えると分かりやすいかもしれません。そうすると、2三にいる成香を丸々儲けている計算になるので、先手香得ということになります。
さて、先手番の次の一手ですが、▲1二歩が正解です。角の逃げ場所は2二、3三、4四、5五の4か所あって、3三は▲同成香でタダ、5五角は▲同角で歩と角の交換、4四は▲同歩△同飛で歩と角の交換、2二は▲同成香△同飛で香と角の交換、ということで、どこに逃げても先手がさらに駒得します。
実戦では▲1二歩に△4七歩▲同銀△4五飛(実戦例②-2)と飛車を捌いてきました。なんとなく、3五の銀と4五の飛車が攻めてきていて怖いですね。でも、1二に歩を打った以上は、▲1一歩成としてしまいましょう。取るぞ取るぞと言っている内に、取られそうな駒に仕事をされてしまうのが一番良くありません。
実戦はここで▲4六歩と打ったため、△5五角と捌かれてしまいました😢この手にも▲4五歩が良かったのですが、実戦は▲同角△同飛で、大駒に逃げられてしまうという結末に。とってももったいないので、こうならないように気を付けて下さい😣
最後にもう一つ、今度は単打の歩を打たない方がいい場合もあるよ、というお話。下図(実戦例③-1)で後手番なのですが、次の一手はどうすればいいでしょうか?
正解は△8七銀不成、もしくは△8七銀成です。△8七銀不成は角取りになっていますが、▲7七角と逃げると△7六銀成(実戦例③-2)と追いかけて角が捕まりそうです。
また▲7九角と逃げるとそこで単打の歩の△8八歩(実戦例③-3)で桂馬が取れそうです。△8八歩に▲7七桂と逃げると△8九歩成で角が逮捕されてしまうので、実質的には桂馬は逃げられないです。ご確認下さい。
なお、実戦では△8七銀不成ではなく、△8七歩(実戦例③-4)と打ってしまいました。しかし、この場合は▲7九角と逃げられて後続がありません。先ほどの△8八歩と比較してみて下さい。
つまり、単打の歩を候補手として考える際に、駒を逃げられた後に後続があるかどうか、が結構重要なポイントになるということです。実際に検討する際には少し読みを入れないといけないので、ちょっと難しいかもです😣
以上、駒の損得の説明と、「単打の歩」の紹介でした。歩の手筋は問題集的な本がたくさん出ていますので、学習される際はそちらも参考にしてみて下さい。
それでは読んで下さりありがとうございました。引き続きよろしくお願いいたします。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?