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「観る将」が観た第5期清麗戦挑戦者決定戦

5月22日に大成建設杯清麗戦の挑戦者決定戦が行われました。前期に里見香奈女流四冠の挑戦を受け残念ながら失冠した加藤桃子女流三段と、前期に続いて挑戦者決定戦に駒を進めた西山朋佳女流三冠の顔合わせとなっています。加藤女流三段は予選トーナメントで優勝し、本戦では鈴木女流三段を降しています。西山女流三冠は再挑戦トーナメントを勝ち上がり、本戦では甲斐女流五段を破っています。

西山女流三冠の中飛車

振り駒で先手となった西山女流三冠が5筋の位を取って中飛車に振ると、加藤女流三段は右銀を繰り出し、6筋で銀が向かい合う銀対向の形になります。西山女流三冠はお互いの囲いが完成する前に飛先の歩を交換し、加藤女流三段が高美濃に構えると、1筋の香を上がって穴熊を目指します。

西山女流三冠の仕掛け

加藤女流三段が15分の考慮で7筋に桂を跳ねると、西山女流三冠は7筋の歩をぶつけて桂頭を狙います。加藤女流三段は6筋に桂を跳ねて角に当て、西山女流三冠が角を6筋に引くと、更に15分考えて7筋に飛車を寄せます。西山女流三冠は7筋の歩を取り込み、飛車で取らせて▲9五角と飛び出し角成を狙います。加藤女流三段は△7二飛と引いて受けますが、西山女流三冠は▲7四歩と垂らして追撃します。

西山女流三冠の焦点の歩

加藤女流三段が△4五歩と突いて角道を開けると、ここまでほとんど時間を使っていなかった西山女流三冠は、13分の考慮で▲5二歩と焦点の歩を放ちます。この歩を飛車で取っても金で取っても先手の大駒がさばけるので、加藤女流三段は△5七歩と打って先手の飛車の利きを止めますが、西山女流三冠は▲5一歩成と"と金"を作り、▲6五銀と桂を食いちぎり、▲7三歩成と2枚目の"と金"を作って飛車に当てます。

厳しい状況での昼休

加藤女流三段が飛車取りを放置して△9四歩と角取りに突くと、次の51手目を西山女流三冠が考慮中に昼休となりました。先手陣はまだ囲いも完成していませんが、形勢は早くも西山女流三冠に傾いているようです。各3時間の持ち時間の内、残り時間は西山女流三冠が2時間21分、加藤女流三段が1時間41分と40分程の差が付いています。

加藤女流三段の反撃

昼休が明け、西山女流三冠が▲8四角とかわすと、加藤女流三段も飛車を引いてかわします。西山女流三冠は"と金"を6筋に寄せ、加藤女流三段が△9九角成と香を取って馬を作ると、▲6二角成と馬を作って飛車に当てます。加藤女流三段は飛車取りに△5八香と打ち、お互いに飛車を取り合ってから△6八歩と金頭を叩きます。

一直線の攻め合い

西山女流三冠は27分の熟考で金を7筋にかわし、加藤女流三段が馬金両取りに△7四飛と打つと、▲7八香と打って切り返します。加藤女流三段が飛車を5筋に回すと、西山女流三冠は構わず5二"と"引から後手陣を乱して、▲5一飛と王手で打ち込みます。加藤女流三段は玉を2筋にかわすしかありませんが、西山女流三冠は"と金"で金を1枚剥がし、▲5五歩と天王山に歩を打って後手の大駒の守備力を削ぎます。

豪腕炸裂

西山女流三冠が▲3一金~▲2五桂と後手玉に迫ると、加藤女流三段は△5九"と"と金を取って下駄を預けます。西山女流三冠は▲2一金と桂を食いちぎり、▲3三桂成と金を取り返し、"と金"で後手玉を2筋に追うと、▲2五金とタダ捨ての王手を掛けます。加藤女流三段はこの金を取りますが、西山女流三冠は▲1七桂から王手を続け、そのまま長手数の即詰みに討ち取りました。

まとめ

本局は西山女流三冠が1筋の香を上げて穴熊を目指すかと思われましたが、加藤女流三段が桂を跳ねると、7筋から仕掛けて一気に主導権を握りました。加藤女流三段は歩の技を駆使して攻め合いましたが届かず、西山女流三冠は結局穴熊に潜ることのないまま鮮やかに寄せ切りました。
西山女流三冠としては持ち時間を1時間以上残しての快勝となり、対局後には五番勝負に向け「初出場なので楽しみに思っています」と話しました。今年度初めての里見清麗とのライバル対決に、熱戦を期待したいと思います。
加藤女流三段は、前期の失冠を糧にここまでたどり着きましたが、惜しくもリベンジマッチの実現には至りませんでした。二強を脅かす存在として、次の機会を待ちたいと思います。

大成建設杯清麗戦は大成建設が主催しています。棋譜は下記サイトをご確認ください。


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