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「観る将」が観た第48期棋王戦五番勝負第三局

3月5日、新潟市の新潟グランドホテルで棋王戦五番勝負第三局が行われました。早くもカド番となり、かつて羽生名人(当時)を相手に3連敗後の4連勝で竜王防衛を果たしたことのある渡辺明棋王(名人)が巻き返すのか、連勝した藤井聡太竜王(王位・叡王・王将・棋聖)が一気に奪取して六冠に輝くのか、注目の一局となりました。

前日に行われた前夜祭では、渡辺棋王は「今回の対局を観戦いただく方に楽しんでもらえるような将棋を指していきたい」、藤井竜王は「見ていただいている方に最後まで楽しんでもらえる熱戦になるように頑張ります」と挨拶しています。


戦型は角換わり相腰掛け銀

地元の子ども達に見守られた対局室に藤井竜王が淡い緑色の着物と灰色の袴に青い羽織で入室すると、渡辺棋王は青灰色の着物と灰色の袴に銀色の羽織で入室します。先手の藤井竜王が角換わりに誘導し、渡辺棋王は受けて立ち相腰掛け銀の将棋となります。

藤井竜王の仕掛け

渡辺棋王が飛車を4筋に回して先手からの仕掛けに備えますが、藤井竜王は構わず桂を4筋に跳ねて銀に当てます。渡辺棋王が銀を2筋に引くと、藤井竜王は7筋の歩を成り捨ててから桂を5筋に成り捨てます。藤井竜王が7筋の桂頭に歩を打つと、渡辺棋王は4筋の歩を突いて飛車の活用を図ります。

再度の角交換

藤井竜王が桂に当てて8筋に角を打ち込むと、渡辺棋王も8筋に角を打って桂に紐を付けます。藤井竜王が8筋の歩をぶつけると、渡辺棋王は5筋の銀頭に歩を打って4筋に引かせてから、飛車を8筋に戻して角を取りにいきます。藤井竜王は歩で7筋の桂を取って角交換に応じ、7筋に歩を合わせて銀を前進します。

5筋の位を巡る攻防

藤井竜王は2筋の歩を突き捨て、渡辺棋王が銀で取ると、自陣の玉頭に桂を打って5筋の位の奪還を図ります。渡辺棋王も6筋に桂を打って5筋の位を守ると、藤井竜王は31分の熟考で8筋の歩を伸ばします。渡辺棋王が次の68手目を70分以上長考して昼休となりました。AIの評価値はほぼ互角、各4時間の持ち時間の内、残り時間は渡辺棋王が2時間24分、藤井竜王が3時間20分と1時間近い差が付いています。

長考の応酬

渡辺棋王が昼休を挟む83分の長考で7筋の銀頭を歩で叩くと、藤井竜王は銀を8筋に上がってかわします。渡辺棋王が更に28分考えて8筋に歩を垂らすと、藤井竜王は62分の長考で7筋の金頭に歩を打って引かせ、玉を7筋に上がって戦場に踏み込みます。

難解な中盤戦

渡辺棋王が6筋に歩を交換して銀を前進すると、藤井竜王は更に24分考えて玉で8筋の垂れ歩を取り払います。渡辺棋王が6筋の桂頭に歩を打つと、藤井竜王は7筋に桂を跳ねて銀に当てます。何か所も駒がぶつかる難解な中盤戦となりましたが、AIの評価値はほぼ互角の範囲で揺れています。

残り時間の切迫

渡辺棋王が銀を7筋に上がって先手玉に迫ると、藤井竜王は取られそうな桂で後手の銀を支える歩を取ります。渡辺棋王が6筋の歩を成って金に当てると、藤井竜王は40分の熟考で残り時間が32分となり、少し自信なさそうな手つきで自玉に迫る7筋の銀を銀で取ります。渡辺棋王が残り1時間の声を聞いて"と金"で金を剥がすと、AIの評価値は渡辺棋王の69%と傾いてきました。

大きく揺れる評価値

藤井竜王が6筋の桂頭を歩で叩くと、渡辺棋王は取られそうな桂で7筋の桂を取ります。藤井竜王は残り時間16分まで考え、7筋の歩を成って金に当てますが、AIの評価値は渡辺棋王の88%と大きく傾いています。渡辺棋王が残り21分まで考えて"と金"で桂を取ると、藤井竜王は6筋の歩を成って2枚目の"と金"で王手します。渡辺棋王は金を犠牲に2枚の"と金"を取り除きますが、AIの評価値は再びほぼ互角に戻ります。

ギリギリの攻防

藤井竜王が残り8分まで考え、玉頭を歩で叩くと、渡辺棋王は玉を5筋に寄ってかわします。藤井竜王が更に3分を投じて玉で"と金"を取ると、渡辺棋王は飛車を走ります。藤井竜王は王手で金を打って6筋の歩に紐を付けてから歩で飛車を追いますが、残り5分まで考えた渡辺棋王は7筋に桂を打って詰めろを掛けます。

渡辺棋王が1分将棋に突入

藤井竜王が玉を6筋に引いてかわすと、渡辺棋王は7筋で先手陣を支える銀に当てて角を打ちます。藤井竜王が9筋に角を打って銀を支えると、渡辺棋王は1分将棋に突入し、一度天を仰いでから8筋に歩を打って角の利きを遮断します。藤井竜王が角に当てて銀を打つと、AIによれば後手からは桂を犠牲に先手玉を縛る手順があったようですが、秒読みに追われた渡辺棋王は角で銀を食いちぎってから取られそうな飛車を引いてかわします。

藤井竜王の粘り

藤井竜王が玉を5筋に引くと、渡辺棋王は桂を6筋に跳ねて成ります。藤井竜王は銀で7筋の桂を取りつつ8筋の歩を支えると、渡辺棋王は銀で王手して先手玉を追い、成桂を5筋に寄せて金に当てます。成桂を取ると王手飛車の筋があるので、藤井竜王が飛車を浮いて粘ると、渡辺棋王は玉を3筋に早逃げします。

藤井竜王の反撃

藤井竜王が歩で自陣を補強すると、渡辺棋王は成桂を金と交換し、取った金を打って9筋の角を捕獲します。藤井竜王は金取りに桂を打ち、渡辺棋王が金を上がってかわすと、金を前進して飛車に当てます。渡辺棋王は飛車を3筋にかわしますが、藤井竜王は角を取らせる代わりに飛車取りに角を打ち、更に金を打って飛車を追います。AIの評価値はまたしても大きく渡辺棋王に傾いています。

藤井竜王も1分将棋に突入

渡辺棋王が玉を2筋に早逃げすると、藤井竜王は"と金"を寄せて後手玉に迫ります。渡辺棋王が歩で角の利きを止めると、藤井竜王は金を引いて王手し、後手玉を1筋に追い詰めます。藤井竜王も1分将棋となり、角で歩を取って詰めろを掛けますが、渡辺棋王は角で王手してから飛車を引いて詰めろを逃れます。

大逆転!

藤井竜王が4筋に角を成って馬を作ると、渡辺棋王は桂を打って先手玉に迫ります。藤井竜王が金を打って自陣を補強すると、渡辺棋王は1筋に金を打って寄せにいきますが、AI の評価値は藤井竜王に大きく傾きます。藤井竜王は馬で銀を食いちぎって詰ませにいきます。

衝撃の結末

藤井竜王が読み切ったかと思われましたが、AIが推奨する歩の王手ではなく飛車で王手すると、またしてもAIの評価値は渡辺棋王の勝勢を示しています。藤井竜王はすぐに何度も首をひねってがっくりと俯き、詰みを逃したことに気付いたようですが、気を取り直して王手を続けます。渡辺棋王が逃げ切り王手が続かなくなると、藤井竜王は後手玉に詰めろを掛けて下駄を預けます。豊富な持ち駒を手にした渡辺棋王が銀で王手すると、藤井竜王は一度天を仰いでから投了を告げました。

まとめ

本局は両者研究十分の序盤から藤井竜王が仕掛けて主導権を握りましたが、渡辺棋王は長考を重ねてバランスを保ちました。非常に難解な中盤戦となりましたが、藤井竜王が攻め込むかと思われた局面で自玉の守りを優先し、渡辺棋王に形勢が傾きました。先に1分将棋となった渡辺棋王は何度か決め手を逃しながらも互角以上の形勢を保ちましたが、藤井竜王に食らいつかれた後手陣に一瞬の隙が生じました。渡辺棋王ファンの悲鳴が聞こえるようでしたが、ずっと劣勢の中持ちこたえてきた藤井竜王もこのチャンスを逃し、渡辺棋王が逃げ切りました。
渡辺棋王は後手番で貴重な1勝を返し、先手番となる次局に防衛への希望をつなぎました。棋王11連覇に向け、どのような研究を用意してくるのか、楽しみにしたいと思います。
藤井竜王は最終盤に珍しく詰みを逃した局面について「一瞬チャンスがあったので残念には思いますが、全体的には負けの局面が続いていたので仕方ないのかなという感じです」と気丈に話しました。気持ちを切り替えて次局に臨んで欲しいと思います。

棋王戦コナミグループ杯は、共同通信社と観戦記掲載の21新聞社、日本将棋連盟が主催しています。
本稿は「棋王戦の棋譜利用ガイドライン」(https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#kiou)に従っています。インターネットでの棋譜の利用はすべて「営利を目的とする」ものとみなす(有償)と通知がありましたので、棋譜の利用は断念しています。

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