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「観る将」が観た第61期王位戦第四局

8月19-20日に行われた王位戦七番勝負第四局の感想です。本局は珍しい能舞台での対局となりますが、藤井棋聖は「何か感じてもらえるような将棋を指したい」と語り、師匠から贈られた白に近い薄緑色の羽織での登場となりました。百折不撓を座右の銘とする木村王位も「後がないので思い切り指したい」と語っており、好局を期待させてくれました。

戦型は大方の予想通り、先手の木村王位が第二局と同様相掛かりに誘導し、藤井棋聖も堂々と受けて立ちました。木村王位は、事前に研究してきたと思われる▲2四歩~▲2五飛と趣向を見せます。藤井棋聖も想定の範囲だったか、小考で△7四歩と応じます。その後両者充分に時間を使いながら小競り合いが続き、木村王位が藤井棋聖の飛車の退路を断ち、抑え込もうとしたところで封じ手となりました。

封じ手は、穏やかに飛車を逃げる選択肢もありましたが、藤井棋聖は強く飛車を銀と交換する△8七同飛成でした。この一時的に駒損してもやれるという判断が功を奏し、藤井棋聖が徐々に流れを掴み局面をリードします。木村王位も絶体絶命と思われた局面から▲6五桂と渾身の反撃手を放ち、シロート目にはかなり際どい勝負になったかと思われましたが、藤井棋聖は1時間以上持ち時間を残しながらあまり長考することもなく指し続け、最後は鮮やかに寄せ切りました。

この結果、藤井棋聖は4連勝で王位を獲得し、史上最年少での二冠となると同時に史上最年少での八段昇段となりました。対局後に本人は「内容的には押されている将棋が多かったので、4連勝は自分の実力以上の結果と思う」と語っていましたが、私たちの期待以上の結果を出してしまうことには脱帽するしかありません。封じ手の△8七同飛成は、プロとしては二者択一で難しい手ではなかったようですが、注目された一局で藤井棋聖の嗅覚がリスクの大きい手を選択し、結果的に勝利を引き寄せたという点で記憶に残る一手だったと思います。

本シリーズは、木村王位にとっては残念な結果となりましたが、4局とも手に汗握る好局だったと思います。また、小細工のない堂々たる対局姿勢や封じ手用紙のチャリティの発案など、若い藤井棋聖に与えた影響は計り知れないものがあると思います。対局後、木村王位は「ストレート負けは恥ずかしい限りで申し訳ない。また一から出直します」と語っていましたが、近い将来またタイトル戦に登場し、持ち味の粘り強い将棋を魅せてくれることを期待しています。

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