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「観る将」が観た里見香奈女流五冠の棋士編入試験第二局

9月22日、里見香奈女流五冠が挑む棋士編入試験の第二局が行われました。女性として棋士編入試験の受験資格を満たし、将棋界としては初めての女性棋士を目指す里見女流五冠の決断については、下記投稿にまとめていますので興味のある方はご覧ください。

第二局の試験官は、2022年4月にプロ入りした23歳の岡部怜央四段です。岡部四段のプロ入り後の成績は6勝6敗で、順位戦C級2組での成績は2勝2敗となっています。

里見女流五冠の中飛車

白いスーツ姿の里見女流五冠はしばらく瞑想していましたが、対局開始が告げられると深く一礼してから5筋の歩を突きます。岡部四段もすぐに角道を開け、お互いにほぼノータイムで指し進めます。里見女流五冠が中飛車で美濃囲いに構えると、岡部四段は右銀を繰り出し6筋で銀が向かい合う銀対向の形になります。

岡部四段が角を転回

里見女流五冠が高美濃に組み替えると、岡部四段は△5一角~△8四角と転回して雁木に構えます。里見女流五冠が▲7七桂と跳ねると、後手からは角切りの強襲の筋もあったようですが、岡部四段は34分の長考で金を寄って陣形を引き締めます。里見女流五冠が▲5七角と上がり、岡部四段が次の46手目を考慮中に昼休となりました。AIの評価値はほぼ互角、各3時間の持ち時間の内、残り時間は岡部四段が1時間50分、里見女流五冠が2時間26分となっています。

岡部四段の穴熊

昼休が明けると、岡部四段は香を上がって穴熊を目指します。里見女流五冠は45分の長考で▲4八角と引いて陣形を整えると、飛車を8筋に回して歩を交換します。岡部四段が金を寄って穴熊を完成させると、里見女流五冠は玉頭の歩を突き、更に18分考えて残り1時間を切り▲3九角と引いて手を渡します。

岡部四段の仕掛け

岡部四段が弾むような手つきで5筋の歩をぶつけて交換すると、里見女流五冠は飛車を5筋に戻します。岡部四段も飛車を5筋に回しますが、里見女流五冠は再び角を上がって手を渡します。岡部四段が14分考えて残り1時間を切り、8筋の歩を伸ばして"と金"作りを狙うと、里見女流四段は飛車を8筋に回して受けます。岡部四段が4筋の歩を突き捨て3筋の歩もぶつけると、里見女流五冠は飛車を走って角に当てます。岡部四段は歩で受けますが、里見女流五冠は▲8五同桂と応じます。

里見女流五冠の受け

岡部四段が8筋を手抜いて△5五銀直とぶつけると、里見女流五冠は構わず3筋の歩を取ります。岡部四段が△5六銀と前進して金に当てると、里見女流五冠は金銀交換に応じて▲4七銀と飛車取りに打ちます。岡部四段は飛車を逃げずに△5五銀と紐を付けますが、里見女流五冠は▲7三桂成と桂を交換してから▲5五銀と銀を取ります。いきなり激しい戦いに突入し、AIの評価値は里見女流五冠の64%と少し傾いてきました。

岡部四段の細い攻め

岡部四段が△5七金と打ち込んで攻めをつなぐと、解説の菅井八段は「へぇー、そんな手あるんだ」と驚いていますが、AIの評価値は里見女流五冠の81%と大きく傾いています。里見女流五冠は落ち着いて角金交換に応じ、▲4六銀打と竜を追って金1枚と銀4枚の堅陣を築きます。

手堅い守り

里見女流五冠が▲8一飛成と竜を作ると、岡部四段は歩で銀を吊り上げて銀取りに△6九角と打ち込みます。両者とも残り時間が10分となり、AIは歩で角の利きを遮断する手を推奨していますが、里見女流五冠は手堅く自陣に金を打って銀を守ります。岡部四段が角で銀を食いちぎって金取りに△2四桂と打つと、AIの評価値は岡部四段の58%と逆転模様です。

切れそうで切れない攻め

里見女流五冠は4分考えて角を自陣に打って金に紐を付けますが、岡部四段は△4七銀と金取りに打って追撃します。里見女流五冠は▲4七同銀と応じ、岡部四段は竜で銀を取り返します。里見女流五冠が桂を打って金に紐を付けると、岡部四段は角で銀を食いちぎり、桂取りに△5七銀と打ちます。里見女流五冠は1分将棋に突入し、▲4六金と寄って竜に当てると、岡部四段は銀で取って交換します。

竜を切っての寄せ

里見女流五冠が竜に当てて▲8二角と打つと、岡部四段は2分考えて竜で桂を食いちぎり、王手金取りに△3六桂打と踏み込みます。里見女流五冠が玉をかわすと、岡部四段は△5六銀と打って先手玉の上部脱出を防ぎます。里見女流五冠は▲4六角成と馬を引き付けて粘りますが、岡部四段は着実に詰めろを続けて寄せ切りました。

まとめ

本局は両者がともに玉を固く囲って均衡状態が続きましたが、穴熊を完成させた岡部四段が意を決して攻め掛かりました。対局後に岡部四段自身が「少し無理気味だった」と話した通り、AIの評価値は徐々に里見女流五冠に傾きました。負けられない里見女流五冠は念には念を入れて自陣に金を投入しましたが、この手を境に流れが変わりAIの評価値も一気に逆転模様となりました。優勢になってからの岡部四段は思い切りよく角を切って攻めをつなぎ、最後には竜も切って鮮やかに寄せ切りました。
この結果0勝2敗となった里見女流五冠は、棋士編入試験合格には残り3局に全勝することが条件となりました。対局後、がっくりと肩を落としてインタビューに応じた里見女流五冠は、次局に向けて「自分の力を出し切れるように頑張りたい」と前を向いて言葉を振り絞りました。棋士編入試験は一局毎に相手が替わりますので、里見女流五冠の実績を考えれば合格の可能性はまだまだ十分残されていると思います。次局に1勝を返して、本来の実力を発揮できるよう期待したいと思います。

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