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「観る将」が観た第49期棋王戦五番勝負第二局

2月24日、第49期棋王戦コナミグループ杯五番勝負第二局が、石川県金沢市の北國新聞会館で行われました。王将戦七番勝負で防衛を果たし八冠を維持した藤井聡太棋王と、秋の竜王戦に続き2度目のタイトル挑戦を実現した伊藤匠七段による同学年対決は、第一局が持将棋(引き分け)となり、白熱したシリーズを予感させる幕開けとなりました。

本局の盤と駒は、被災された将棋愛好家が倒壊した家屋の中から奇跡的に無傷で発見したものが使われます。前夜祭では、藤井棋王は「被災地の方をはじめ、多くの方に楽しんでいただけるような将棋にできるように、自分自身も全力を尽くしたいと思っています」、伊藤七段は「多くの方のご協力があって、こうして開催していただけて心から嬉しく思っています。まずは1勝目を挙げられるように頑張りたいと思います」と話しています。


戦型は角換わり相腰掛け銀

会長の羽生九段や立会の久保九段などの関係者が待つ対局室に、伊藤七段が白い着物と細い縦縞の袴に淡い緑色に縞模様が入った羽織で入室すると、藤井棋王は淡い藤色の着物と灰色の袴に小豆色の羽織で入室します。先手の伊藤七段は角換わりに誘導し、前局と同様、相腰掛け銀の将棋となります。

伊藤七段の仕掛け

藤井棋王が右金を7筋に上がって6筋の位を取ると、伊藤七段は2筋の歩を突き捨ててから4筋で銀をぶつけて交換し桂で取ります。藤井棋王は自陣に取った銀を埋めて傷を消し、伊藤七段が9筋に自陣角を打って後手玉のコビンを狙うと、6筋に自陣角を打って受けます。

早くも激しい戦いに突入

伊藤七段は6筋に銀を打って銀交換し、藤井棋王が歩で4筋の桂を取りに行くと、7筋の歩を突き捨て、角交換して入手した歩で後手の桂を取り返します。早くも激しい展開となり、双方の駒台に角銀桂が乗りましたが、後手陣は金銀がバラバラで玉は孤立しています。まだ研究の範囲なのか、消費時間は両者ともわずか20分前後で、AIの評価値もほぼ互角です。

藤井棋王の長考

伊藤七段は飛頭に銀を捨て、王手飛車取りに角を打ち込んで飛角交換し、取った飛車を桂香両取りに打ち込みます。藤井棋王は次の68手目に初めて手を止めて長考に沈み、そのまま昼休となりました。各4時間の持ち時間の内、残り時間は藤井棋王が2時間9分、伊藤七段が3時間35分と大きな差が付いています。

伊藤七段の長考

藤井棋王が昼休を挟む88分の長考で8筋の歩をぶつけると、伊藤七段も68分の長考で9筋の香を取って竜を作ります。藤井棋王が8筋の歩を成り捨てて先手陣を乱し、天王山に攻防の角を打つと、伊藤七段は74分の長考で竜を引き王手します。両者とも研究を外れて長考の応酬となり、AIの評価値は伊藤七段の55%前後で揺れています。

伊藤七段の竜と藤井棋王の2枚角

藤井棋王は37分熟考して銀で合い駒し、伊藤七段が後手陣の要の金取りに桂を打つと、竜取りにもう1枚の角を打ちます。伊藤七段が金桂交換してから竜を引いて角に当てると、藤井棋王は歩で角を守りつつ竜の可動範囲を狭めます。残り1時間を切った伊藤七段が7筋に歩を合わせて角頭を狙うと、藤井棋王も27分の熟考で残り38分となり、桂を打って角頭を守ります。AIの評価値は、藤井棋王の59%とわずかに傾いています。

竜と角の交換

伊藤七段が8筋の金を上がって7筋の勢力奪還を目指すと、藤井棋王は竜取りに角を引いて交換します。伊藤七段は7筋の歩を取り込み、藤井棋王が角を天王山に飛び出すと、角取りに香を打ちます。藤井棋王は構わず7筋の銀頭を歩で叩き、伊藤七段が金で取ると、銀を打って先手の玉頭に迫りつつ金に当てます。AIの評価値は藤井棋王の83%と大きく傾いています。

華麗な寄せ

伊藤七段は浮き駒となっている金を5筋に寄せますが、藤井棋王は先手の金と銀の利きに桂を打って詰めろを掛けます。この桂を金で取ると角で銀を食いちぎってから詰将棋のように華麗な詰み筋が生じ、銀で取っても玉をかわしても連続王手の末に飛車を素抜かれる順があります。伊藤七段は4分程考えましたが、次の手を指さずに投了を告げました。

まとめ

本局は伊藤七段が積極的に踏み込み、後手陣を崩して竜を作った辺りではわずかに優勢となりました。藤井棋王は2枚の角で竜の動きを封じ、先手陣に嫌味を付けつつ攻撃を凌ぎました。伊藤七段は攻防に利いた後手の角を攻めましたが、藤井棋王は角を竜と交換して反撃に転じ、わずか10手で先手玉を受けなしに追い込む鋭い寄せを魅せました。
後手番を制し、使用した駒について「良い将棋にしたいという気持ちは強くありました」と語った藤井棋王は、次局に向け「しっかり状態を整えて臨めればと思います」と話しました。伊藤七段は「本局は内容が良くなかったので、気持ちを切り替えて臨みたいと思います」と話しており、好局を期待したいと思います。

棋王戦コナミグループ杯は、共同通信社と観戦記掲載の21新聞社、日本将棋連盟が主催しています。
本稿は「棋王戦の棋譜利用ガイドライン」(https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#kiou) に従い、インターネットでの棋譜の利用はすべて「営利を目的とする」ものとみなす(有償)と通知がありましたので、棋譜の利用は断念しています。

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