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祝「初戴冠」藤井聡太さん棋聖獲得

藤井聡太さんのタイトル獲得は、師匠の杉本さんは「既定路線」と言い、羽生さんも「時間の問題」と言うように、将棋を知る誰もが当然のように考えていたと思います。しかし当たり前のことを当たり前のように成し遂げることの難しさもまた、多くの人たちは知っています。
藤井さんの快挙「初戴冠」を機に、私が感じている藤井さんの魅力を書き留めておこうと思います。

■何と言っても強い
デビュー以来、3年連続勝率8割を達成しています。数々の記録を達成してきた藤井さんですが、これも史上初だそうです。
勝率8割がどのくらい凄いことなのかピンと来ない方もいると思いますが、6割5分でタイトル挑戦してもおかしくないレベル、羽生さんが通算勝率7割を維持しているのは驚異的だそうです。若手が急速に力をつけている時期、瞬間的に勝率が高くなることもありますが、各棋戦の予選でシードされ強い人ばかりと対戦するようになると6割台に落ち着く、というのが普通のようです。藤井さんが今後も今の勝率を維持していくことは常識的にはあり得ないのですが、タイトル戦だけに限定しても今のところ8割超え(5勝1敗)です。藤井さんには、常識なんて意味のないことかもしれません。

■勝ち方が美しい
「観る将」の視点では藤井さんの勝ち方は美しく感じます。棋聖戦第四局もそうでしたが、藤井さんの将棋は盤上の駒全てが躍動し、持ち駒さえ1枚も余らせずに詰ませることが多いと思います。どの対局だったか失念しましたが、最後に「桂馬を2枚持っていたから詰む」局面になりました。何十手も前に「何でこの桂馬を取りに行くんだろう」と思われた一手が活きたのです。初戴冠の会見で藤井さんは「盤上の物語は普遍*」という言葉を発しましたが、彼の頭の中では終局までの物語が見えている(場合がある)としか思えません。

*:後日、ご本人が「不変」のつもりだったと話されていたので、追記させていただきます。(7月24日追記)

■神の手
技術的な解説は専門家にお任せしますが、升田幸三賞を取った「△7七飛成」、AIが6億手読まないと発見できない「△3一銀」、朝日杯決勝で見せた「▲4四桂」など、藤井さんは既にプロでもなかなか思いつかない絶妙手(神の手)をいくつも生み出しています。これらは、谷川さんの「光速の寄せ」や羽生さんの「羽生マジック」に通じるものだと思います。「観る将」としてはこういう一手にワクワクするし、こういう一手を観るために「観る将」をやっていると言っても過言ではありません。
人間には全ての手を読み尽くすことはできません。候補手を絞り込み、それらを掘り下げて最善と思う手を選択しているはずです。適切な候補手に絞り込み、少しでも深く掘り下げられる人が強いのだと思います。神の手は、多くの人が候補手から零してしまう手を、他の人より深く読むことで発見されるのだと思います。藤井さんの柔軟で速くて正確な読みは、神の手を数多く生み出す要因になっているはずです。

■将棋に対する姿勢
藤井さんのコメントに「より良い将棋をお見せしたい」という言葉が何度も出てきます。今日勝つことよりも、1年後にもっと強くなっていたい、という意識が強いのではないかと思います。棋聖戦第一局で自ら矢倉を選択し、渡辺さんも「意表を突かれた」と言っていましたが、彼は決して裏をかいたつもりではなく、純粋に第一人者の渡辺さんと矢倉で指し勉強したかったというのが本音だと思います。私も含め外野は、新記録だとか史上初だとかに拘りますが、彼は会見で何度も似たような質問をされ、一貫して「そのような記録は意識していない」と答えています。彼が目指しているものは、一般人には想像すらできない高みなのだろうと思っています。
また、プロ棋士がよく使う「指運」という言葉を、藤井さんは決して使いません。目の前の一手に最善を尽くすのが彼の考え方であり、勝っても負けてもそれは実力であり運の要素は介在しないという信念だと思います。まだ高校生の藤井さんが大人になり、「今日は指運が良かった」などとコメントするようにならないことを願っています。

■会見の姿
中学生でプロデビューし、いきなり29連勝した藤井さんは、常に注目され毎局後にインタビューを受けてきました。「あっ、はい、・・・」「なんというか、・・・、はい」と俯き加減で小さな声で、しかし周りの人たちに配慮した言葉を選び、時に教養の高さを感じさせる単語も交えて訥々と語る姿は、藤井さんの魅力の一つだと思います。最近は、笑顔でハキハキした対応も心掛けているようですね。

周りが全て大人の将棋界において、ただ一人10代で奮闘する藤井さんに対し、今のところアンチ聡太の声は聞こえません。今後もみんなから愛され、盤上では鬼のように強い存在であり続けて欲しいと思っています。

自分のことより、周りの人に恩返しできたことを喜ぶ藤井さん、「初戴冠」本当におめでとうございます。

※コロナ過に始めたばかりの「観る将」初心者の感想です。
 「それは違うよ」等、コメントでご指摘いただければ幸いです。


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