「観る将」が観た第36期竜王戦 挑戦者決定三番勝負第一局
7月31日に竜王戦の挑戦者決定三番勝負が開幕しました。1組3位で決勝トーナメントに進出した永瀬拓矢王座と、5組優勝で決勝トーナメントに進出した伊藤匠六段の顔合わせとなりました。決勝トーナメントでは、永瀬王座は豊島九段と羽生九段を破り、伊藤六段は出口六段、大石七段、広瀬八段、丸山九段、稲葉八段と、強豪をなぎ倒して勝ち上がっています。永瀬王座が1組の貫録を示すのか、伊藤六段が竜王戦ドリームを実現させるのか、非常に楽しみな対決となりました。
永瀬王座は第34期以来、2度目の挑決三番勝負進出です。1組優勝2回など、あと一歩のところで届かない竜王戦初挑戦を目指します。過去2回の対戦で2回とも敗れている伊藤六段に対し、意地を見せたいところです。
伊藤六段は決勝トーナメントを5連勝で駆け上がり、竜王戦の決勝トーナメントが現行の形となって以降、初めて5組以下からの挑決三番勝負進出となります(現行の形となる前の第7期に、行方四段(当時)が4連勝で挑決三番勝負に進出した例あり)。
永瀬王座の一手損角換わり
振り駒で先手となった伊藤六段が飛先の歩を突くと、永瀬王座は角道を開け、8手目に角を交換して一手損角換わりを採用します。伊藤六段が慎重に時間を使いながら腰掛け銀に構えると、永瀬王座はまったく時間を消費せずに相腰掛け銀に進めます。伊藤六段が▲4五桂と跳ね、桂を取らせる間に3筋の歩を取り込むと、永瀬王座は6筋の歩を突き捨て7筋の歩をぶつけます。
6筋への飛車の転回
伊藤六段が6筋の歩を伸ばすと、永瀬王座は初めて少考し、7筋の歩を取り込み銀で取らせて飛先の歩を交換します。伊藤六段は力強く金を上がって飛車を追い返し、お互いに歩を打って自陣の傷を消すと、飛車を6筋に転回します。永瀬王座が△5二角と自陣角を打って備えると、次の67手目を伊藤六段が考慮中に昼休となりました。各5時間の持ち時間の内、残り時間は永瀬王座が4時間38分、伊藤六段が3時間57分となっています。
長考の応酬
伊藤六段が昼休を挟む76分の長考で▲4七金と上がって攻めの姿勢を見せると、永瀬王座は79分の長考で9筋と8筋の歩を突き捨ててから、3筋に伸ばされた歩を角で取ります。AIの評価値は伊藤六段の67%と傾き、角を打ち込んでの決戦が推奨されています。
決戦
伊藤六段は64分の長考で▲6三角と決戦を挑み、永瀬王座が71分の長考で金で取ると、歩で取り返して"と金"を作ります。永瀬王座は7筋の歩を伸ばして銀に当てますが、伊藤六段は構わず"と金"を寄って銀に当てます。永瀬王座が次の78手目を考慮中に夕休となりました。残り時間は永瀬王座が1時間19分、伊藤六段2時間2分となっています。
永瀬王座の反撃
永瀬王座が夕休を挟む47分の長考で7筋の銀を取ると、伊藤六段は飛車を成り込んで詰めろを掛けます。永瀬王座が3筋に銀を上がって玉の退路を作ると、伊藤六段は竜で7筋の桂を取り、自玉の守りにも利かせます。永瀬王座が△6六桂と反撃すると、伊藤六段は68分の長考で金を打って自玉の守りを補強します。
飛車捨て
永瀬王座は9筋の香を走って挟撃態勢を作りますが、伊藤六段は竜を前進して飛車に当てます。永瀬王座は22分考えて残り10分となり、飛車を走ってから△7八銀と打って先手陣の金を1枚剥がし、6筋の先手の銀の利きに飛車を差し出します。伊藤六段は慎重に11分考えて飛銀交換し、▲4四桂と打って詰めろを掛けます。
竜を取らせての即詰み
永瀬王座は角で歩を取って王手竜取りを掛けますが、既に読み切ったかと思われる伊藤六段は歩で王手を防ぎます。永瀬王座は1分将棋となり角で竜を取りますが、後手玉には即詰みが生じているようで、伊藤六段は▲4二桂成から淡々と王手を続けます。永瀬王座は何度か斜め上に視線を向け、一局を振り返るような仕草を見せてから投了を告げました。
まとめ
本局は永瀬王座が一手損角換わりの趣向を見せましたが、相腰掛け銀の定跡形に合流し、午前中に66手のハイペースで進行しました。永瀬王座が自陣角を打つと一転して長考の応酬となり、伊藤六段は後手の角が動いた一瞬の隙に、思い切りよく角を打ち込んで決戦を挑みました。永瀬王座の反撃に伊藤六段は慎重に応じると、王手竜取りを掛けさせて竜を取らせる代わりに即詰みに討ち取る快勝となりました。
挑戦権獲得まであと1勝となった伊藤六段は、対局後のインタビューで8月14日に行われる第二局に向け「少し間が空きますので、しっかり準備して臨みたいと思います」と話しました。自身初のタイトル挑戦のチャンスですが、気負いはまったく感じられません。
次局は先手番となる永瀬王座は、「本局は良いところがありませんでしたので、しっかり準備をして頑張りたいと思います」と話しており、熱戦を期待したいと思います。
竜王戦は読売新聞社が主催しています。
本稿は竜王戦・棋譜等利用ガイドライン(https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#ryuuou)に従っています。
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