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「観る将」が観た第48期棋王戦五番勝負第二局

2月18日、金沢市の北國新聞会館で棋王戦五番勝負第二局が行われました。第一局を落とした渡辺明棋王(名人)が巻き返すのか、先勝した藤井聡太竜王(王位・叡王・王将・棋聖)が連勝して奪取に王手を掛けるのか、注目の一局となりました。

前日に行われた開始式では、渡辺棋王は「皆様方に楽しんでいただけるような対局をできるように頑張っていきたい」、藤井竜王は「本当に多くの方に注目していただける対局になると思うので、最後まで楽しんでいただければ何よりと思っています」と抱負を述べています。


戦型は角換わり相腰掛け銀

広々とした対局室に藤井竜王が淡い藤色の着物と灰色の袴に水色の羽織で入室すると、渡辺棋王は淡い水色の着物と灰色の袴に茶色の羽織で入室します。先手の渡辺棋王が角換わりに誘導し、相腰掛け銀の将棋となります。藤井竜王が玉に下に飛車を回して先手からの仕掛けに備えますが、渡辺棋王は構わず4筋から仕掛けます。

渡辺棋王の工夫

藤井竜王が玉を5筋に寄せて飛車の利きを通すと、渡辺棋王は金を3筋に寄せて事前に飛車の当たりを防ぐ工夫を見せます。藤井竜王が4筋の歩を取ると、渡辺棋王は桂で取って銀に当てます。藤井竜王は銀を上がってかわし、渡辺棋王が桂を歩で支えると、右銀も四段目に上げて対抗します。

渡辺棋王の長考

渡辺棋王が89分の長考で飛先の歩を交換すると、藤井竜王は1筋に角を打って飛車に当てます。渡辺棋王は3筋の横歩を取り、藤井竜王が歩で金を守ると、1筋の歩も取ります。藤井竜王は銀で桂を食いちぎり、角を王手で成り捨て、香で飛車を取り返します。

激しい駒の取り合い

渡辺棋王が王手香取りに角を打つと、藤井竜王は3筋の歩を突いて中合いで受けます。渡辺棋王が次の61手目を考慮中に昼休となりました。いきなり激しい戦いとなり、駒割りは飛桂と角銀の交換となっていますが、AIの評価値は全くの互角です。各4時間の持ち時間の内、残り時間は渡辺棋王が2時間0分、藤井竜王が3時間35分と1時間半以上の差が付いています。

藤井竜王の長考

渡辺棋王が昼休を挟む17分の考慮で銀を引き、王手で飛車を打ち込まれる筋を防ぐと、AIの評価値は藤井竜王の60%と少し傾きます。AIは飛車を自陣に打って香を守る手を推奨していますが、木村九段が「人間には指しにくい手」と評していた通り、藤井竜王は109分の長考の末に先手陣に飛車を打ち込みます。藤井竜王自身、対局直後に「結果的に良くない方を選んでしまった」と後悔していましたが、評価値はまた互角に戻ります。

金銀5枚の堅陣

渡辺棋王が39分熟考して角で香を取って金に当てると、藤井竜王は歩で金を守ります。渡辺棋王が飛車取りに香を打つと、藤井竜王は歩で遮断します。渡辺棋王が金を自玉に寄せて飛車に当てると、藤井竜王は飛車で桂を取って竜を作ります。渡辺棋王は金で竜を追い、藤井竜王が竜を引いて王手すると、持ち駒の銀で合い駒して金銀5枚の堅陣を築きます。

揺れる評価値

藤井竜王の残り時間が先に1時間を切り、1筋の角頭に歩を打つと、渡辺棋王も8筋の竜頭に歩を打ちます。ここで竜を切って角を取る手もあったようですが、藤井竜王は竜を引いて自重します。渡辺棋王も残り1時間を切り、5筋の銀頭に歩を打って、お互いに角と銀を取り合います。渡辺棋王が金を上がって竜の捕獲を目指すと、藤井竜王は残り19分まで考えて桂を犠牲に竜の退路を作ってから4筋の香を取ります。AIの評価値は再び藤井竜王に少し傾いていますが、一手指す毎に揺れています。

藤井竜王の自陣竜

渡辺棋王の残り時間が30分を切り、7筋の歩を伸ばしてもう1枚桂を取ると、藤井竜王は竜で取り返して自陣に引き付けます。渡辺棋王が7筋に歩を打って竜の利きの自陣への直射を遮ると、藤井竜王は残り時間が10分となり竜で歩を取ります。渡辺棋王は更に歩を打って竜を追い返し、残り時間が10分になると4筋に控えの桂を打って反撃を試みます。

藤井竜王の遠見の角

藤井竜王が1筋に角を打って間接的に先手玉を睨むことで桂跳ねを防ぐと、渡辺棋王は4筋の歩を取り込みます。藤井竜王が桂を3筋に跳ねて全軍を躍動させると、渡辺棋王は歩頭に桂の犠打を放って角道を止め、王手で角を打ちます。藤井竜王が玉を6筋に上がってかわすと、渡辺棋王は4筋の歩を成り捨て、角を飛車と交換します。

藤井竜王の2枚角

渡辺棋王が角取りに飛車を打ち込むと、藤井竜王はもう1枚の角を打って角に紐を付けます。1分将棋に突入した渡辺棋王は玉を引いて後手の角のラインから逃れますが、藤井竜王は3筋の歩を取り込んで角の利きを復活させます。渡辺棋王が歩で4筋の桂を支えると、藤井竜王は桂頭に歩を打って畳み掛けます。

渡辺棋王の反撃

渡辺棋王は6筋の歩をぶつけて反撃しますが、藤井竜王は構わず4筋の桂を取ります。渡辺棋王は6筋の歩を取り込んで王手し、竜で取らせて竜頭を歩で叩きます。藤井竜王が竜を8筋にかわすと、渡辺棋王は飛車で9筋の香を取って竜を作りますが、藤井竜王は金取りに桂を打って攻め合います。渡辺棋王は竜を5筋に回して後手玉に迫りますが、藤井竜王は構わず桂で金を取って挟撃態勢を作ります。

長手数の即詰み

渡辺棋王は香で玉と金を田楽刺しにしますが、藤井竜王は玉を7筋にかわしてから角を飛び出し、3筋に"と金"を作って先手玉に迫ります。渡辺棋王は7筋で自玉の退路を狭めている成桂を銀で取りますが、先手玉にはAIによれば27手詰めが生じているようです。藤井竜王は3分残していましたが1分も使わずに読み切ったようで、"と金"で金を取って王手し、2枚の角で銀を食いちぎって王手を続けます。渡辺棋王も既に観念しているようでしたが、更に桂で王手されると投了を告げました。

まとめ

本局は渡辺棋王が藤井竜王の最も得意とする戦型で挑み、第一人者としての意地を感じさせました。仕掛けの局面は今年度の王位戦第五局(先手豊島九段、後手藤井王位)と同じでしたが、渡辺棋王が工夫を見せ前例から離れて激しい戦いに突入しました。長く難しい中盤戦が続きAIの評価値も揺れ動きましたが、両者の残り時間が10分を切り、藤井竜王が2枚角で先手玉を睨んだ辺りから優勢となり、最後は長手数の即詰みを逃さず勝ち切りました。
藤井竜王は開幕から2連勝で、早くも棋王奪取そして六冠獲得にあと1勝となりました。対局後には「スコアは意識せずに、また全力を尽くして指せればと思います」と、いつも通り淡々と話しています。渡辺棋王はカド番となりますが「目の前の一局という気持ちでやっていければと思います」と話しており、次局以降の巻き返しに期待したいと思います。

棋王戦コナミグループ杯は、共同通信社と観戦記掲載の21新聞社、日本将棋連盟が主催しています。
本稿は「棋王戦の棋譜利用ガイドライン」(https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#kiou)に従っています。インターネットでの棋譜の利用はすべて「営利を目的とする」ものとみなす(有償)と通知がありましたので、棋譜の利用は断念しています。

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