見出し画像

ABEMAトーナメント2023 予選Aリーグ第三試合

4月29日に、ABEMAトーナメント2023の予選Aリーグ第三試合が放映されました。第一試合に敗れ予選突破に向け2敗までしか許されないチーム豊島「百折不撓」と、第二試合に勝ちあと3勝で予選の1位通過が決まるチーム稲葉「NIN NIN」の顔合わせとなっています。
※本稿は収録当時の段位で記述させていただきます。

一局目:豊島将之九段 vs 服部慎一郎五段

予選突破に厳しい条件のチーム豊島は、初戦からリーダーを投入します。振り駒で先手となった豊島九段が角換わりに誘導し、相早繰り銀の将棋となります。豊島九段が3筋から仕掛けると、服部五段は銀をぶつけて交換します。服部五段が1筋と4筋の歩を突き捨て、△3六角と王手で放つと、豊島九段は角を合わせます。服部五段は角を交換して△3八歩と垂らし、飛車で取らせて△2七角~△5四角成と馬を作ります。豊島九段が▲2二歩~▲3四歩と桂を攻めると、服部五段は△3六歩と打って飛車を引かせてから△2五桂と跳ねます。豊島九段は手厚く▲2六銀と打って凌ぐと、"と金"を作って香を拾い▲8六香と打って後手の飛車を追います。服部五段が△2七歩成から桂を交換すると、豊島九段は▲1二角~▲4五角成と馬を作り、飛車取りに▲3四桂と打って後手玉に迫ります。服部五段も△7四香と打って挟撃態勢を作りますが、豊島九段は▲4二金と打ち込んで金交換し、▲3三馬とぶつけて飛車と交換し、▲7一飛と王手香取りに打ち込み、▲7四飛成と香を外して寄せ切りました。
チーム豊島:1勝 - チーム稲葉:0勝

二局目:豊島将之九段 vs 出口若武六段

チーム豊島は勝ったリーダーが予定通りと連投し、練習でも対戦がないという顔合わせが実現します。先手の出口六段が角換わりに誘導し、相腰掛け銀の将棋となります。豊島九段が6筋の位を取ると、出口六段は▲6六歩とぶつけて反発し、▲4五銀~▲3四歩と仕掛けます。豊島九段は△2二銀と引いて受けますが、出口六段は▲2五桂から桂交換して、銀取りに▲5五銀と打ちます。豊島九段が銀桂交換に応じると、出口六段は飛頭に▲8二銀と打ち込みます。取ると王手金取りがあるので、豊島九段は飛車を2筋にかわしますが、出口六段は▲7五歩から攻め掛かり、▲7三歩成と王手で飛び込みます。豊島九段が△5五桂と打って嫌味を付けると、出口六段は落ち着いて1分半程考えて▲5六銀と引いて受け、▲2五桂~▲3四桂と持ち駒の桂を駆使して即詰みに討ち取りました。
チーム豊島:1勝 - チーム稲葉:1勝

三局目:木村一基九段 vs 出口若武六段

チーム稲葉は伝家の宝刀、勝った出口六段が連投し、またしても練習でも対戦がない顔合わせになります。先手の木村九段が角換わりに誘導し、早繰り銀の駒組みを進めると、出口六段は腰掛け銀で迎え撃ちます。木村九段が3筋から仕掛けて銀交換すると、出口六段は△3六角~△4七角成と馬を作ります。木村九段は▲5八金上と馬に当てますが、出口六段は△5八同馬と食いちぎり、△3四歩と銀も取ります。木村九段が1筋から反撃し▲6三角から馬を作ると、出口六段は上部脱出を図り、相入玉の将棋となります。出口六段が先手の飛車を捕獲し点数差で勝勢となりましたが、木村九段も香で竜2枚を田楽刺しにして取り返し、持将棋が成立しました。

指し直し局は木村九段が24秒、出口六段は10秒という持ち時間で始まります。先後を入れ替え、出口六段が横歩を取る将棋となります。お互いに慎重に駒組みし、木村九段が角を交換して△5四角と据えると、出口六段は▲2五桂と跳ねて桂交換します。木村九段が△7六角と歩を取ると、出口六段は後手の角を9筋に追い、▲9五歩と角頭を攻めます。木村九段は△7六角と戻して△9五香と走り、香を吊り上げて△9八角成と馬を作り、金を追って飛車も成り込みます。防戦一方となった出口六段は必死に粘りましたが、木村九段は馬で金を食いちぎり、竜も見捨てて即詰みに討ち取りました。
チーム豊島:2勝 - チーム稲葉:1勝

四局目:木村一基九段 vs 稲葉陽八段

チーム豊島も勝てば連投する方針のようで木村九段が出陣し、チーム稲葉は満を持してリーダーが登場します。後手の木村九段が再び横歩取りに誘導し、△2六歩と垂らしてから角を交換すると、稲葉八段は▲3八金と上がって受けます。稲葉八段が飛車をぶつけて交換すると、木村九段は9筋の歩を突き捨て、△9八歩と香を吊り上げて△8九角と打ち込み、香を取って馬を作ります。稲葉八段が▲4五角と打つと、木村九段は△8八馬と銀を食いちぎり、△9九飛と打ち込みます。稲葉八段は▲8九桂と受けてから▲2一飛と打ち込み、木村九段が△3一桂と受けると、攻防に▲2二角と放り込みます。木村九段は△4四香と打って角の先手陣への利きを止めますが、稲葉八段は▲2三角成と銀を食いちぎって攻め込み評価値が大きく振れます。木村九段は攻防に△2四角と打ち、稲葉八段が成銀で角を取る間に竜を作って先手玉に迫ると、評価値は大逆転模様です。苦しくなった稲葉八段が▲5一飛成と金を食いちぎって先手玉に迫り▲7四桂と王手すると、木村九段は△7二玉とかわしますが、両チームの作戦会議室から一斉に「えっ!」という声が上がります。後手玉には▲6一銀からの即詰みが生じたようですが、時間に追われた稲葉八段が▲6一角と打つと詰まず、二転三転の激闘は木村九段が逃げ切りました。
チーム豊島:3勝 - チーム稲葉:1勝

五局目:池永天志五段 vs 服部慎一郎五段

チーム豊島は池永五段がこの試合初登場です。先手の池永五段が矢倉を選択し、服部五段は中住まいで現代調の駒組みを進めます。池永五段が飛先の歩を交換すると、服部五段は7筋の歩を突き捨て、△7六歩と打って銀を引かせてから角を引いて△7五角と取り返します。池永五段は▲2二歩と桂頭を叩き、服部五段が△1三桂とかわすと、▲1六歩から端を攻めます。服部五段は△3六歩と銀頭を叩き、飛車で取らせて△2五桂とかわしますが、池永五段は▲3二飛成と金を食いちぎり、▲4五桂~▲3三歩と攻め込みます。池永五段が▲3三銀と腹銀を打って後手玉に迫ると、服部五段は早逃げしてから△3九飛と打ち込み△5七歩と金頭を叩いて反撃します。服部五段が△7六桂~△6六桂~△6七桂と3枚の桂を立て続けに打って先手玉を受けなしにすると、池永五段は▲5四桂から連続王手で後手玉に迫りましたが届かず無念の投了となりました。
チーム豊島:3勝 - チーム稲葉:2勝

六局目:豊島将之九段 vs 服部慎一郎五段

チーム稲葉は勝った服部五段が恒例の連投で、一局目と同じ顔合わせとなります。先手の服部五段が角換わりに誘導し、相腰掛け銀の定跡形となってお互いに6分以上に時間を増やします。服部五段が水を口にしてから▲4五桂と仕掛けると、豊島九段は銀を引いてかわし、歩で桂を捕獲します。服部五段は1筋の香を吊り上げ、▲1二歩と垂らした歩を成り捨て、銀で取らせて▲2三飛成と竜を作ります。豊島九段は△3三金と寄って竜に当てますが、服部五段は▲2四角と打って金と交換します。豊島九段が攻防に△3二角と打ち、8筋を継ぎ歩で攻めると、服部五段は▲4四竜と王手し▲3四金と追撃します。豊島九段は飛車を3筋に回して金に当て、遊んでいた銀を△2二銀と守りに活用すると、一転△8七歩成~△6七角と先手玉に迫ります。服部五段は飛金交換して得た飛車を自陣に投じて粘りますが、豊島九段は香を拾って△5四香と詰めろを掛けます。服部五段は▲7四角打と詰めろ逃れの詰めろで対抗しますが、豊島九段は冷静に△5六銀から即詰みに討ち取りました。
チーム豊島:4勝 - チーム稲葉:2勝

七局目:木村一基九段 vs 稲葉陽八段

勝てば予選突破となるチーム稲葉はリーダーを、勝てば3チームによるプレーオフとなるチーム豊島はエースを投入します。先手の木村九段が相掛かりに誘導し、お互いに飛先の歩を交換してから、稲葉八段は角を交換します。木村九段が9筋の位を取ると、稲葉八段も1筋の位を取ります。木村九段が▲4五銀~▲5六角と2-3筋への突進を図ると、稲葉八段は△6五角と打って銀交換と角交換になります。稲葉八段が△6五桂と跳ね、銀を犠牲に金を吊り上げ、王手金取りに△5七角と打ち込み、馬を作って飛車に当てます。木村九段は▲3七銀と打って馬に当て返しますが、稲葉八段は△3八金と飛車の腹に打ち込みます。この金を取ると王手飛車なので、木村九段は馬を取りますが、稲葉八段は飛車を取って△4九飛と打ち込みます。負けられない木村九段は自陣に2枚の角を投じて必死の抵抗を見せましたが、稲葉八段が着実に寄せ切りました。
チーム豊島:4勝 - チーム稲葉:3勝

八局目:池永天志五段 vs 出口若武六段

予選1位通過を決めたチーム稲葉は、リーダーへのつなぎを出口六段に託します。先手の出口六段が角換わりに誘導し、相腰掛け銀から▲4五桂と仕掛けると、池永五段は銀を引いてかわします。出口六段が3筋と6筋の歩を突き捨ててから▲5五銀と出て、▲1八角と遠見の角を放つと、池永五段は△8二飛と浮いて角の利きから逃れます。出口六段が飛先の歩を交換して桂交換すると、池永五段は△2三金~△3三玉と力強く受けます。作戦会議室では木村九段と稲葉八段が「池永ー増田戦と同じ」と抜群の記憶力を示しています。池永五段が金取りに△3六桂と打って先手の角の利きを遮断すると、6分以上に時間を増やしていた出口六段は2分近く考えて▲5八金とかわします。池永五段が1筋の歩を突き捨てて△3七角と打ち込むと、出口六段は更に2分程考えて▲4七金とぶつけます。池永五段は馬を作りますが、出口六段は金で馬を追い、▲4四歩と後手の玉頭から攻め掛かります。池永五段は馬で角を取りますが、出口六段は構わず歩で飛車を吊り上げて即詰みに討ち取りました。
チーム豊島:4勝 - チーム稲葉:4勝

九局目:池永天志五段 vs 稲葉陽八段

今大会初のフルセットとなりました。振り駒で先手となった池永五段が相掛かりに誘導し、飛先の歩を交換して7筋の歩も取ります。稲葉八段が飛車を7筋に寄せて歩を交換すると、池永五段は1分半程考えて1筋を端攻めします。稲葉八段が銀をぶつけて交換し、△7五歩~△7六銀と攻め掛かると、池永五段は▲7八銀と引いて辛抱します。稲葉八段は金銀交換して△7六歩と追撃し、池永五段が角をぶつけて交換すると、△7五飛と浮いて1筋の香を狙います。池永五段は飛車を1筋に回して守りますが、稲葉八段は9筋に戦火を拡げて先手玉の左辺を押さえると、△2八角と飛車取りに打って△1五飛から竜を作って挟撃態勢を作ります。池永五段は▲7五角と打って遠く後手陣を睨みますが、稲葉八段は金取りに▲5六桂と跳ね、歩で取らせて王手角取りに△7七飛と打って勝負を決めました。
チーム豊島:4勝 - チーム稲葉:5勝

第三試合の結果

チーム稲葉は、得意の連投連勝ができずに苦戦を強いられましたが、リーダーの稲葉八段が七局目に勝って予選突破を決めて流れを変え、フルセットの末に勝利を掴み取りました。結果的には出口六段が二局目に、相手リーダーの連投連勝を阻止したのが大きかったように思います。服部五段は前回大会のような勢いがまだ見せられませんが、それでも予選を1位通過を果たす辺りにこのチームの底力を感じます。
チーム豊島は、リーダーの豊島九段と木村九段が2勝ずつ挙げて意地を見せましたが、七局目に木村九段が力尽き予選突破がなくなると、チームの勢いも止まり敗れ去りました。池永五段は予選を通して白星に恵まれませんでしたが、この屈辱をバネにして公式戦などでの活躍を期待したいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?