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SUNTORY将棋オールスター東西対抗戦2021 決勝戦

12月26日、新設されたSUNTORY将棋オールスター東西対抗戦2021の決勝戦が行われました。本棋戦は、ファン投票によって選出された棋士(東西各2名)と、予選を勝ち上がった棋士(東西各3名)による東西対抗の団体戦です。出場する棋士については、下記記事にまとめましたので、興味がありましたらご確認ください。

本棋戦の内容は、持ち時間なし(初手から一手30秒未満)ということ以外、詳細がベールに包まれていましたが、対戦カードは先後を含め前日に決められたようです。東軍は相手の予想をしながら話し合いで決めたのに対し、西軍はジャンケンで決めたとのことです。これが勝敗にどのような影響をもたらすのか、楽しみなところです。

当日は明治神宮会館に多くのファンが詰めかけた様子が放映されました。主催者挨拶で、コンセプトは「ファンの皆様に喜んでいただく棋戦」という説明があり、どのような内容になるのか期待が膨らみます。

第一局 東軍:戸辺七段 vs 西軍:澤田七段
先手の戸辺七段が中飛車、澤田七段が三間飛車に振り、相振り飛車の将棋となりました。戸辺七段が穴熊に潜ると、澤田七段は△2五桂と跳ね△3六歩と仕掛けます。戸辺七段も▲5四歩と角道を開けて反撃を見せますが、澤田七段は飛車をぶつけて交換します。戸辺七段は▲1一角成と馬を作りますが、澤田七段も敵陣に飛車を打ち△6七飛成と竜を作ります。澤田七段が先手の玉頭から攻め掛かると、戸辺七段は馬を自陣に引き付けて粘ります。澤田七段は△6四角と覗いて先手玉を睨み、戸辺七段が▲4六桂と角道を遮断すると、角で桂を食いちぎって先手玉に攻め掛かり、即詰みに討ち取りました。序盤に作戦勝ちした澤田七段が終始落ち着いた指し回しでリードを拡げ、「戸辺攻め」と恐れられる戸辺七段の攻撃を封じた完勝となりました。

西軍が幸先良く1勝を挙げ、第2局と第3局は同時に行われました。ABEMAでは両局のカメラを視聴者が自由に切り替えられる機能で放映しています。

第2局 東軍:横山七段 vs 西軍:豊島九段
先手の豊島九段は、横山七段が得意とする横歩取りを避け、角道を止めて雁木の駒組みを進めます。横山七段は矢倉に組み、△6四角と出てじっくりした駒組みが続きます。豊島九段が6筋の位を取ると、横山七段はすぐに△6四歩と反発し歩を交換します。豊島九段が再び6筋の位を取ると、横山七段は飛車を9筋に回し端攻めを狙います。豊島九段は一転して4筋から攻め掛かり、桂交換してから▲2五桂と打ち角のラインが利いた後手玉のコビンを攻めます。豊島九段は3,1筋の歩を突き捨ててから、5筋で入手した歩を▲3三歩と打ち込みます。横山七段が△6五銀とぶつけて銀交換し△6六歩と反撃すると、豊島九段は飛車取りに▲4六角とします。横山七段は構わず△7七香と先手玉に迫り銀を入手すれば詰む形にしますが、豊島九段は歩と香の攻めで後手玉に迫り寄せ切りました。豊島九段が矢倉崩しのお手本のような攻めを見せ、貫録を示す勝ち星を挙げました。

第3局 東軍:永瀬王座 vs 西軍:古賀四段
後手の古賀四段が角道を止め、雁木に構えます。偶然なのか作戦なのかわかりませんが、同時に指している西軍の豊島九段と古賀四段が同じ陣形になりました。永瀬王座は棒銀で積極的に▲3五歩と仕掛けますが、古賀四段は△4二角~△6四角と先手の飛車を狙って局面を落ち着かせます。続いて永瀬王座が5筋から仕掛けると、古賀四段は金銀を前進して受けます。永瀬王座は後手の銀を追い▲2五桂~▲1三桂成と攻め掛かりますが、古賀四段は桂交換で凌ぎます。古賀四段は7筋から反撃し、先手の玉頭に△7六歩と垂らしてから△5五歩と歩を取ります。永瀬王座は▲5五同銀と角取りで応じますが、古賀四段は構わず△5四桂と角取りに打ち返します。角銀と角桂の交換となり、古賀四段は取った銀を飛車取りに△6五銀と打ちます。永瀬王座は手抜いて▲6四桂と銀を取り、飛桂と銀2枚の交換となります。お互いの玉が露出し寄せ合いとなり、永瀬王座が馬を作って後手玉に迫りましたが、飛車の横利きで凌いだ古賀四段が△6七桂成で先手陣を崩し、△7六銀のタダ捨てから即詰みに討ち取りました。本局は中盤から永瀬王座が攻め込み優勢となりましたが、古賀四段が一瞬の隙を突いて反撃し鮮やかに寄せ切って殊勲の星を挙げました。

ここで東軍、西軍それぞれのトークショーがありました。将棋めし、2022年に挑戦したいことなどについて話をしています。藤井竜王からは、チェスプロブレムの解答大会に出たいという衝撃の宣言もありました。団体戦は第3局まで西軍が3連勝で勝利を決めていますが、第4-5局も予定通り行われています。

第4局 東軍:佐藤(秀)八段 vs 西軍:藤井竜王
後手の佐藤八段が角道を止め振り飛車も含みにした駒組みを見せ、△7四歩と突いた瞬間に藤井竜王が3筋から仕掛けます。佐藤八段は手抜いて飛車を7筋に寄せて7筋の歩を交換しますが、藤井竜王は▲6六角と出て飛車を追い返してから銀取りに飛車を3筋に寄せます。佐藤八段は銀を引き、角道を開けて角交換の後、△5五角と左右の香の両取りに打ちます。藤井竜王は▲3七角と打ち返し、互いに馬を作って桂香を取り合います。佐藤八段は△7一香と飛車の下に打って迫力ある攻撃を見せ、飛車交換に持ち込んだ辺りでは優勢の局面を築きます。佐藤八段は△3九飛と打ち込み銀を取りながら竜を作りますが、その間に藤井竜王も馬を引き付けて自玉に迫る香を取ります。佐藤八段が馬取りに△4六竜と迫ると、藤井竜王は▲6六香と馬を守りながら後手陣の金を狙います。藤井竜王は更に▲4八香ともう1枚の香を竜取りに打ち居玉の後手玉に圧力を掛けますが、佐藤八段はいったん竜を逃げてから△4六歩と打ってこの香を取り払います。藤井竜王が▲6六飛と竜取りに打つと、佐藤八段は一瞬頭を抱えてから竜飛交換に応じ△4九飛と打ち直します。藤井竜王はじっと▲3七桂と跳ねますが、この手はAIが推奨していたものの伊藤(真)六段が「指したら凄すぎる」と解説していた手で、佐藤八段は▲4五飛と王手飛車取りに打たれたところで投了を告げました。本局は中盤まで佐藤八段がリードし白熱した好局となりましたが、最後は藤井竜王がプロにも見えにくい好手を連発して難解な終盤戦を制しました。

第5局 東軍:羽生九段 vs 西軍:稲葉八段
先手の羽生九段が相掛かりに誘導し、稲葉八段も受けて立ちました。羽生九段が飛先の歩を交換して7筋の歩も取ると、稲葉八段は右銀を前線に繰り出します。稲葉八段も飛先の歩を交換してから5筋の位を取ると、羽生九段も4筋の位を取ります。じっくりした駒組みが続きましたが、羽生九段が1筋の歩を突き捨ててから▲4六銀と上がると、稲葉八段は飛車で7筋の歩を取り△5六歩と角道を開けて仕掛けます。羽生九段は手抜いて2筋の歩を突き捨て、▲2三歩で後手の金を吊り上げてから▲3五銀と進撃します。稲葉八段は歩頭に△6五桂と跳ね、羽生九段が飛車取りに▲6七金右と上がると、飛車を逃げずに△7五銀と上がります。羽生九段は金取りに▲2四歩と突き、稲葉八段が飛車取りに△2五歩と打つと、飛車を逃げずに▲2三歩成と金を取ります。お互いに飛車を取り合い、羽生九段は角も取ってから▲7二飛と王手銀取りに打ち大きく駒得を果たします。稲葉八段は△3九飛と打ち込み竜を作って先手玉に迫ります。羽生九段は凌いで▲4一角~▲3三角成と2枚角で詰めろを掛けますが、稲葉八段も△6七"と"から先手玉に迫りながら詰めろを解除します。形勢は一手指す毎に大きく揺れ動いていますが、稲葉八段が先手の馬を取ったところでついに形勢は羽生九段の99%まで傾きます。しかし流石の羽生九段も30秒将棋では後手玉に生じた29手詰めを読み切ることはできず、王手を掛けてから▲8四飛成と攻防の竜を作って下駄を預けます。稲葉八段は△6九飛から先手玉に王手の連続で迫り、そのまま即詰みに討ち取りました。本局は難解な終盤戦となり、どちらが勝つかわからない大熱戦となりましたが、最後は稲葉八段が鮮やかに勝利を掴み取りました。

団体戦は西軍が5勝0敗で圧勝という結果になりました。続いて、ファン投票で選ばれた2人がペアを組むリレー将棋がありました。一手20秒未満で1人が5手指す毎に交代するというルールで、チームメンバー5人による作戦タイムを各1回(3分)取れるようです。

エキシビションリレー将棋
東軍:永瀬王座、羽生九段 vs 西軍:藤井竜王、豊島九段

先手の藤井竜王が相掛かりに誘導し、永瀬王座も受けて立ちました。羽生九段が先に飛先の歩を交換し、豊島九段は飛車を追い返す前に飛先の歩を交換します。藤井竜王は飛車で7筋の歩も取り、豊島九段が飛車を2筋に戻してから角交換します。永瀬王座が6筋と5筋の位を取ると、藤井竜王は後手の飛車がいる8筋の歩を突いて銀冠に構えます。豊島九段は3筋から仕掛けて作戦タイムを要求します。形勢は西軍の68%と少し傾いています。豊島九段は対局場に戻るとすぐ、チームメンバーと協議して決断した▲4五角と打ちます。羽生九段は△4一角と自陣に打って守りますが、豊島九段が構わず▲2四歩と攻め掛かると、今度は羽生九段が作戦タイムを要求します。形勢は西軍の84%と大きく傾きました。東軍の苦し気な作戦タイムが終わると羽生九段は△2四歩と取り、藤井竜王は予定通り▲6四飛からの強襲と飛成の2つの狙いを秘めた▲2四同飛と指します。永瀬王座も予定通り先手の飛車の横利きを止めながら角取りとなる△4四歩と打ちますが、藤井竜王は角を見捨てて▲2一飛成と踏み込みます。豊島九段が▲3一竜~▲4二竜と後手玉に迫り▲3五金と王手を掛けると、羽生九段ははっきりした声で「負けました」と投了を告げました。勝負所で作戦タイムを取り、積極的に踏み込んだ西軍の快勝となりました。

トップ棋士同士のリレー将棋を初めて観ましたが、全員が指し慣れている戦型になったこともあり、リレー将棋であることを感じさせない指し回しでした。振り飛車党の棋士が入るとどうなるのか、観てみたい気がしました。

最後に表彰式があり、大きな拍手に包まれて勝利チームの西軍に5百万円の賞金目録が手渡されました。この大会は色々と新しい試みが散りばめられ、将棋ファンが楽しめるイベントだったと思います。将棋の内容も、30秒将棋とは思えないプロらしい応酬があり、一方早指しならではの大逆転劇もあり、観る者をワクワクさせる好勝負が多かったように思います。主催者からは2022年にも開催することをほのめかす言葉も聞かれましたので、来年はどんなメンバーがどんな将棋を魅せてくれるのか楽しみにしたいと思います。

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