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「観る将」が観た第80期順位戦B級1組 藤井竜王8回戦

11月16日に順位戦B級1組8回戦、藤井聡太竜王(王位・叡王・棋聖)と松尾歩八段の対局が行われました。B級1組の一斉対局は既に11日に行われていますが、藤井四冠の竜王戦第四局の移動日と重なるため後ろ倒しになったようです。藤井竜王はここまで6勝1敗で2番手につけていますが、トップを走る佐々木(勇)七段は8回戦に勝って7勝0敗、3番手につけている千田七段も8回戦に勝って6勝2敗となっているので、来期A級入りを目指して負けられない一局となっています。松尾八段は今期はここまで1勝5敗となっており、残留に向けこれ以上負けられません。

両者はこれまで2回の対局があり、いずれも藤井竜王が勝っています。今年3月に行われた竜王戦2組ランキング戦準決勝では、藤井二冠(当時)に▲4一銀という絶妙手が出て、昨年度将棋大賞の名局賞 特別賞に輝いたのは記憶に新しいところです。

竜王として初めての対局となる藤井竜王が先手で相掛かりに誘導し、対局開始の40分前から着座して本局に賭ける意気込みを感じさせた松尾八段も受けて立ちました。両者飛先の歩を交換してから角道を開け、松尾八段が△8三銀~△7四銀と棒銀の攻めを見せます。藤井竜王が27手目を考慮中、昼休となりました。AIの評価値はほぼ互角、残り時間は藤井竜王が5時間29分、松尾八段が4時間45分と40分程差が付いています。

藤井竜王は昼休を挟む60分の長考の末、角交換してから▲8八銀と上がって対応します。藤井竜王は更に▲7七銀桂と跳ねて後手の銀の前進を阻み、▲8六歩から銀冠を組みます。押さえ込まれそうになった松尾八段は6筋の位を取り、△6四角と要所に角を設置します。藤井竜王が▲7五角と打ち返すと、松尾八段は角交換してから力強く△5五銀と前進します。藤井竜王が次の53手目を考慮中、夕休となりました。AIの評価値は藤井竜王の63%と少し傾いてきました。残り時間は藤井竜王が3時間6分、松尾八段が2時間4分と1時間程差が付いています。

藤井竜王が夕休を挟む64分の長考で▲6五桂と跳ねると、松尾八段は桂取りに△4三角と自陣に打ちます。藤井竜王は歩で銀を追ってから▲6六歩と桂を支えます。松尾八段が銀を回り込ませて△6六銀と歩を取り桂馬を狙うと、藤井竜王は▲5三桂成と成り捨て▲6七歩と銀を捕獲します。この桂の成り捨てが松尾八段も見落としていた好手だったようで、先手陣も危険に見えますが後手陣も大きく乱されてきました。

松尾八段は歩の連打で玉を吊り上げ△7四桂と王手銀取りに打ちますが、藤井竜王は冷静に玉を引いてから桂を金で取り返しに行きます。松尾八段は飛車を走らせて桂を守りますが、藤井竜王は歩で支えてから金で桂を取り飛車を追い返します。AIの評価値は90%を超え、藤井竜王に大きく傾きました。藤井竜王は更に▲7一角と飛金両取りに打って金を食いちぎり、▲5五桂~▲7五金と後手玉に迫ります。松尾八段はしばらく考えていましたが、上着を着ると次の手を指さずに一礼して投了を告げました。

本局は松尾八段が積極的に右銀を繰り出し7-8筋から突破を図りましたが、藤井竜王にがっちり受け止められてしまいました。松尾八段はいったん銀を引いて今度は自陣に打った角と連携させて5-6筋から突破を図りましたが、藤井竜王は薄い陣形ながらも玉を前進して受け止めてしまいました。一方、桂の成り捨てと角切りの強襲で崩された後手陣は大駒が玉と一緒に攻められる形になってしまい、松尾八段としても粘りようのない大差が付いてしまいました。松尾八段は対局後「あまりにもお粗末な将棋」と表現しましたが、特に悪手のないまま劣勢に追い込まれてしまい、藤井竜王の強さが際立つ一局となりました。

これで藤井竜王は7勝1敗となり、昇級争いの2番手をキープしました。全勝でトップを走る佐々木(勇)七段や3番手につける千田七段との対局を残しており、B級1組を1期抜けしてA級に昇級するためには負けられない戦いが続きます。9回戦ではC級1組で昇級を阻まれる苦杯を喫した近藤(誠)七段との対局が組まれており、非常に注目されます。松尾八段は1勝6敗となり、残留に黄信号が灯っています。13期連続でB級1組に在籍し、B1の番人とも呼ばれる松尾八段の巻き返しにも期待したいと思います。

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