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藤井王位・棋聖の初防衛戦を前に

いよいよ6月6日に藤井王位・棋聖の初防衛戦となる棋聖戦五番勝負が開幕します。続いて王位戦七番勝負も6月29日に始まり、昨年と同様ダブルタイトル戦となります。昨年のタイトル初挑戦も、将棋界の歴史を塗り替える注目度の高い戦いでしたが、今年の初防衛戦も今後の将棋界の行方を占う重要な戦いであることに異論はないと思います。

挑戦者には、観る者にとっては最高の強豪が名乗りを上げました。棋聖戦は前棋聖の渡辺名人、王位戦は豊島竜王です。強いタイトルホルダーが挑戦権を得るのは当たり前と思う方もいるかもしれませんが、昨年度のタイトル戦でタイトルホルダー同士の対決になったのは、名人戦・叡王戦・王将戦の3棋戦しかありません。今年度も現在進行中の王座戦挑決トーナメントで既にタイトルホルダーが全員姿を消したように、タイトルホルダーと言えども挑戦権を得るのは容易ではないのです。しかし時の名人と竜王が、藤井王位・棋聖に対して並々ならぬ思いを秘めてここまで勝ち上がってきたことで、ドラマのような最高の舞台が整ったと言えるのではないかと思います。

■渡辺名人との棋聖戦五番勝負
渡辺名人は1月から王将と棋王を防衛し、現在進行中の名人戦でも防衛を果たせば、棋聖戦は自身初の四冠を目指す戦いになります。王将戦では永瀬王座、棋王戦では糸谷八段を相手に、結果的には危なげなく防衛を果たしています。名人戦でも斎藤八段を相手にここまで3勝1敗とリードしており、内容的にも非常に充実していると思います。

渡辺名人は昨年の棋聖戦直後に、自らのブログに「負け方がどれも想像を超えてるので、もうなんなんだろうね、という感じです」と記しました。同時に「自分の長所を生かして対抗できる策を~中略~次の機会までに考えます」とも記しています。その機会が早くも訪れたかと思うと、ワクワクせずにはいられません。

渡辺名人は先日の王将戦就位式で、既に決まっていた藤井棋聖への挑戦について聞かれ「昨年は藤井さんの将棋の実力や特徴、長所がわからない状況だったが、今持っている情報は昨年と全然違うので、そういう意味ではこれからの自分の立ち位置を考える上でも大きな試金石となる五番勝負となる」という趣旨の回答をしています。渡辺名人らしくサバサバした口調でしたが、今回もし敗れるようなことがあれば、第一人者としての地位を譲らざるを得ないかもしれないという様に受け取れます。昨年は緊急事態宣言明けで慌ただしく始まった番勝負で、藤井二冠の実力を測る意味合いもありましたが、今年はそういうことをわかった上で充分に準備し、全力で倒しに行くという決意の表れだったのかもしれません。

■豊島竜王との王位戦七番勝負
豊島竜王は初タイトル獲得までは少し苦労しましたが、2018年に棋聖戦で当時の羽生棋聖からタイトル奪取して以降、王位・名人・竜王・叡王と5タイトルを獲得し、史上4人目の竜王名人にもなっています(現在は竜王と叡王の二冠)。藤井二冠との対戦成績で、2つ以上勝ち越している棋士が他にいない中、6勝1敗と圧倒しているという点においても、藤井二冠にとっては最強の挑戦者ということが言えると思います。

豊島竜王は名人を獲得した2019年に「(10年後に訪れるであろう)藤井聡太七段の全盛期に戦うことを目標にしている」と語っています。それからわずか2年後に、挑戦者としてタイトルを争うことを想定していたかどうかわかりませんが、逆に考えると今の内にタイトル戦で勝っておきたいという思いは強いのかもしれません。今回の挑戦が決まった時の会見でも「自分が今の段階でどれくらいやれるか、非常に強い相手と番勝負を指してどうなるか、自分なりに精一杯やってどれくらい指せるか、やってみたい」と語っています。豊島竜王の静かな闘志が感じられて、好勝負への期待が膨らみます。

■初防衛戦の展望
将棋界では「タイトルは防衛して一人前」という言葉があります。挑戦者となった勢いで獲得するよりも、迎え撃つ立場となる防衛は難しいという意味だと思います。渡辺名人より年下でタイトルを獲得した棋士は藤井二冠まで10人いますが、初防衛戦に成功したのは佐藤(天)九段が名人を防衛した以外にありません。広瀬八段の王位、糸谷八段の竜王、菅井八段の王位、中村(太)七段の王座、高見七段の叡王、豊島竜王の棋聖、斎藤(慎)八段の王座、永瀬王座の叡王は、ことごとく初防衛戦で失冠しています。

連敗が少なく、番勝負で負ける姿が想像できない藤井二冠にとっても、初防衛戦に勝つことは簡単なことではありません。無冠に転落することも、可能性としては充分にあります。しかし藤井二冠はこれまで数々の常識を覆し、誰も成し遂げられなかった夢を次々に実現してきました。私たちは藤井二冠が難敵を前に苦しみながらもこれまで以上のパフォーマンスを魅せ、日本中に感動を届けてくれると信じるしかありません。私は中継の前に釘付けになり、手に汗握りながら応援し続けたいと思っています。

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