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「観る将」が観た第8期叡王戦五番勝負第三局

5月6日、名古屋市の料亭「か茂免」で叡王戦第三局が行われました。ここまで1勝1敗のタイスコアとなっており、藤井聡太叡王(竜王、王位、棋王、王将、棋聖)が勝って防衛に王手を掛けるのか、菅井竜也八段が勝って奪取にあと1勝と迫るのか、大注目の一局となっています。

前日のインタビューでは、藤井叡王は「精一杯指して熱戦にできるよう頑張りたいと思っています」、菅井八段は「注目されるシリーズということで、自分自身も精一杯頑張りたいと思います」と述べています。


三局連続の三間飛車

菅井八段が早めに淡い藤色の着物と青灰色の袴に薄黄も羽織で入室して瞑想していると、藤井叡王が淡い緑色の着物と濃灰色の袴に薄紫色の羽織で入室します。どこにでも飛車を振れる菅井八段の作戦が注目されましたが、第一局・第二局と同様、三間飛車に振ります。藤井叡王は持久戦調の駒組みを進め、菅井八段が穴熊を目指すと、相穴熊の将棋となります。

藤井叡王の浮き飛車

菅井八段は5二金型のまま四間飛車に振り直し、藤井叡王が▲2六飛と浮くと、△4五歩と伸ばします。藤井叡王が▲3六飛と寄って角頭の歩を狙うと、菅井八段は△4三銀と引いて受けます。藤井叡王が金を寄って穴熊を固めると、菅井八段は△4四角と出て先手の飛車の動きを制限します。

菅井八段の7筋の拠点

藤井叡王が36分の熟考で4筋の歩を突き捨て、更に16分考えて▲4六同銀と取ると、菅井八段は7筋の歩を突き捨て△7六歩と拠点を作ります。藤井叡王は▲6八角とかわし、菅井八段が△6六角と飛び出すと、▲5七銀と引いてぶつけます。菅井八段が次の52手目を20分程考えて昼休となりました。AIの評価値はほぼ互角、各4時間の持ち時間の内、残り時間は藤井叡王が2時間23分、菅井八段が2時間39分となっています。

熟考が続く中盤戦

菅井八段は昼休を挟む21分の熟考で△3三角と引き、藤井叡王が飛車を4筋に寄せると、更に24分考えて6筋の歩を突きます。藤井叡王が▲7四歩と伸ばすと、菅井八段は△4四銀と出て先手の飛車に圧力を掛けます。藤井叡王が35分の熟考で▲4九飛と引くと、菅井八段も29分考えて△6三金と上がって7筋の歩を狙います。

後手の角を追う藤井叡王

藤井叡王が3筋の歩を突いて右桂の活用を図りつつ後手の角頭を狙うと、菅井八段は△4五歩と先着して防ぎます。藤井叡王が残り1時間を切って▲8四角と活用を図ると、菅井八段は△7四金と目障りな歩を取ります。藤井叡王は3筋の歩を突き捨て、△3四歩と角頭を叩いて引かせてから、更に2筋の歩を突き捨てます。

角を見捨てての突進

藤井叡王が▲6六銀と前進すると、菅井八段は力強い手つきで△5四歩と突きます。藤井叡王は23分の熟考で▲7五銀とぶつけ、菅井八段が残り1時間を切って△8五金とかわしつつ角に当てると、構わず▲6四銀と前進します。菅井八段が角金交換して銀香両取りに△2八角と打つと、藤井叡王は▲6九飛と回して銀に紐を付けます。AIの評価値はほぼ互角の範囲で揺れています。

後手陣を巡る攻防

菅井八段が△1九角成と香を取ると、藤井叡王は▲6三銀成と飛び込みます。菅井八段は△6二歩と打って成銀に当てますが、藤井叡王は▲7二歩と金頭を叩きます。菅井八段が△6一金とかわすと、藤井叡王は▲4三歩と飛頭を叩きます。菅井八段が飛車を引いてかわすと、藤井叡王は▲6二成銀と金に当てます。菅井八段は△6四香と馬の利きを活かして先手の飛車の利きを遮断し、藤井叡王が▲6五歩から香を取る間に金で成銀を取ります。

先手陣を巡る攻防

菅井八段が△5三銀と引いて角道を通すと、藤井叡王は▲6三歩成と"と金"を作って攻め合います。菅井八段が△7七銀と打ち込むと、1分将棋に突入した藤井叡王は桂で取ります。菅井八段は歩で桂を取り、藤井叡王が銀で取ると、△7六歩と打ちます。後手の角が間接的に先手玉を睨んでいるので、藤井叡王は▲8八銀と引くしかありませんが、菅井八段は△6六桂と金取りに打って追撃します。

飛車切りで千日手を回避

ABEMAでは先手が金をかわせば千日手を避けられないと解説していましたが、藤井叡王は▲6六同飛と桂を食いちぎり、▲6九香と打って決着を付けにいきます。ずっとほぼ互角で推移していたAIの評価値は、ここで菅井八段の66%と傾いています。

菅井八段の猛攻

菅井八段は△8八角成と銀を食いちぎり、△7七銀と追撃しますが、藤井叡王は▲8九銀と埋めます。菅井八段が腰を落として7分考えて△4九飛と打つと、藤井叡王は更に▲7八金打と埋めて粘ります。菅井八段が金銀交換してから△7七金と打ち直すと、藤井叡王は▲8八銀と埋めます。菅井八段が△6八歩と香取りに打つと、藤井叡王は金で取って金交換に応じます。

先手陣を守る角

菅井八段が△2九飛成と桂を取って攻め駒を補充すると、藤井叡王は▲2二角と打って守りに利かせます。菅井八段は頭を抱えて考え、△9五歩と端攻めを決行しますが、藤井叡王は構わず▲7一歩成と後手玉に迫ります。菅井八段も1分将棋となり、△9六歩と取り込みますが、藤井叡王は▲8一"と"と桂を取って王手します。AIの評価値は一手毎に激しく揺れており、藤井叡王の60%と逆転模様です。

藤井叡王の反撃

菅井八段が飛車で"と金"を取ると、藤井叡王は▲9三歩と叩いて香を吊り上げてから▲8五桂と打ちます。菅井八段が△9七桂と詰めろを掛けると、藤井叡王は歩ではなく▲7九桂と打って詰めろを逃れます。菅井八段はじっと△6九竜と先手玉に近づけますが、藤井叡王は温存した歩を▲9二歩と打ち、玉で取らせて▲9三桂成と香を取って王手します。

菅井八段の勝負手

藤井叡王が▲9七銀と桂を食いちぎり、▲9七同香と9筋の制空権を奪い返すと、菅井八段は△9四歩と打って凌ぎます。藤井叡王が銀取りに▲8五桂と打って追撃すると、菅井八段は△8四銀打と粘ります。藤井叡王が銀桂交換してから、▲6二"と"と金を取ると、菅井八段は構わず△8五桂と歩頭に打つ勝負手を放ちます。

ギリギリの攻防

藤井叡王が歩で桂を取ると、菅井八段は空いたスペースに△8六桂と打ちます。藤井叡王が▲8八金と埋めると、菅井八段は△9八金と王手し、銀で取らせて△7八桂成と金を取ります。先手玉は遠く2筋から角が守っていて詰めろにはなっていないので、藤井叡王が▲7二銀と詰めろを掛けると、菅井八段は△8二飛と逃れます。藤井叡王が▲8四桂と歩頭桂の王手を掛けてから▲7八金と成桂を取ると、菅井八段は△9一桂~△7三金と自陣を補強して粘ります。

長手数の即詰み

藤井叡王が▲8一金と攻め駒を足すと、菅井八段は△7八竜と金を取って下駄を預けます。後手玉には21手詰めが生じており、藤井竜王は淡々と▲9一金から王手を続けます。菅井八段は数手指し続けましたが、163手目に藤井叡王が▲8三金と王手すると、一度斜め上に視線を向けてから投了を告げました。

まとめ

本局は第二局に続いて相穴熊の将棋となり、菅井八段が7筋に拠点を作った辺りでは作戦勝ちのように見えました。藤井叡王は飛車角を積極的に動かして均衡を保ちましたが、飛車を切って千日手を回避したところで形勢は後手に振れました。金銀を埋めて粘る先手陣を攻めあぐねた菅井八段は端攻めを決行しますが、藤井叡王は端から反発して激しい玉頭戦となりました。最後は藤井叡王が鮮やかな寄せを魅せ、指し続ければ持ち駒が1枚も余らない美しい詰め上がりとなりました。秒読みが長く続く中、激闘を繰り広げた両雄を称えたいと思います。
防衛まであと1勝となった藤井叡王は、次局に向け「ここまで3局の内容を踏まえて、また精一杯指したいと思います」と話しました。次局は先手番となる菅井八段は「終盤戦で悪い手が続いてしまったので、もう少し修正して次も頑張りたいと思います」と話しており、次局以降も熱戦を期待したいと思います。

叡王戦は株式会社不二家が主催、ひふみ投信を運用するレオス・キャピタルワークス株式会社、株式会社SBI証券が特別協賛しています。棋譜などは下記サイトをご確認ください。


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